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ジャンプとフィギュア、日の丸背負う2人のヒロイン

ソチ五輪開幕迫る(1)

「ジャパン・スキーチームは上々のスタートを切りました」。昨年12月17日、スポンサーなどとの懇親会で全日本スキー連盟の競技本部長、古川年正(66)が声を弾ませた。ソチ冬季五輪の前哨戦といえるワールドカップ(W杯)は開幕したばかりなのに8人の日本選手が個人戦の表彰台に立っていた。

W杯に出場した高梨選手をひと目見ようと多くのファンが詰めかけた(12日、札幌市)

日本スキー復権の象徴的存在がジャンプ女子の17歳、高梨沙羅(クラレ)だ。W杯4連勝をみやげに帰国した1月6日、成田空港は異様な熱気に包まれた。6台のテレビカメラと数十人の報道陣が待ち構え、約200人の一般客も加わる。サイン色紙を手に駆け寄る少年ファンまで現れた。

スター誕生――。これぞ日本スキー界の悲願だった。2002年ソルトレークシティー五輪モーグル女子の里谷多英の銅を最後にスキー選手のメダリストを出せずじまいで、一般スキー人口も低迷するじり貧状態。背水の陣のスキー連盟は、限られた資金を有望種目に重点配分する「選択と集中」を打ち出した。

ジャンプ女子のソチ五輪からの新規採用が決まったのは11年4月。同時期に「メダル奪回戦略室」を立ち上げ、11~12年シーズンから「特別強化選手」を新設した。遠征費を全額補助する「強化指定A」よりさらに上のカテゴリーをつくり、至れり尽くせりの支援体制を敷いた。

高梨の遠征には森永製菓のトレーナーに加え、管理栄養士も炊飯器を手に同行。取材対応を仕切るマネジメント会社の担当者も張り付く。15歳の夏に高卒認定試験に合格、語学習得に熱心な高梨は試合後の取材も英語で応答するなど勝者の振る舞いも身につけた。

実はジャンプ女子の競技人口は少ない。欧州で女子選手が挑み始めたのが約40年前。国内大会に出場するのは今でも20人ほど。レベルの低さも問題となり、バンクーバー五輪での採用が見送られ、五輪への道を閉ざされてきた先輩の涙を知る高梨は苦労話を語り継ぐ。

「女子がジャンプをすると、子供が産めなくなる、と言われたこともあったんですよ」

「これまで引っ張ってきた先輩のおかげで決まった五輪。行くからには感謝の気持ちを込めて最高のジャンプがしたい」

初代五輪女王へ、まっしぐらに突き進む高梨の登場でジャンプ女子への偏見も消えた。そのあおりで冬季競技の華、アルペンスキーの強化費は約3分の1に減ったが、連盟のある理事は「なりふり構わずにメダルを取りにいっている」と語る。身長152センチの小さなヒロインに寄せられる期待は過大とさえ映る。そんなスキー関係者の視線の先にあるのは、バンクーバー五輪銀メダルの浅田真央(中京大、23)らを輩出し、空前の人気を誇るフィギュアスケート界なのだろう。

昨年12月末、さいたまスーパーアリーナで開かれたフィギュアスケートの全日本選手権は連日、1万7千人の大観衆が押し寄せた。ソチ五輪代表選考会を兼ねた試合で、浅田は精彩を欠き3位に沈み、ため息を誘った。腰痛で満足な練習ができなかったことが試合後、周辺から明かされた。

「ソチでは最高の演技をして一番いい色のメダルを持って帰りたい」。こう繰り返す浅田の演技を、五輪では1回多く見ることができるかもしれない。男子、女子、ペア、アイスダンスから1人(組)ずつ出て競う国別対抗の団体戦が開会式前日から始まる。ただ、新種目を盛り上げたい国際スケート連盟の方針で、誰が滑るのかは直前まで秘密とされる。

フィギュア人気で資金力のある日本スケート連盟は団体戦と個人戦の間隔が空くことから、ソチから800キロのアルメニアに練習用のリンクを独自に確保した。そこを使うかどうかは選手の自由という大盤振る舞い。

2月2日まで欧州を転戦する高梨と対照的に浅田は五輪本番まで試合の予定はなく、最終調整をどこで行うのか、ぎりぎりまで戦略を練る。弱音を一切吐かない選手だから、持病の腰痛について語ることもないだろう。浅田はソチの氷上で完璧なトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を跳び、そして高梨はソチの夜空に大飛行を描くことができるのか。ソチ五輪は2月7日開幕する。

(敬称略)

 日本はソチ五輪で1998年長野大会のメダル10個(金5・銀1・銅4)を上回る成績を目指す。

〔日本経済新聞朝刊1月21日掲載〕

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