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ビットコインが開いたパンドラの箱 新型犯罪の脅威

ラック 取締役最高技術責任者(CTO) 西本 逸郎

仮想通貨のビットコインが犯罪の温床になり始めている。ネットにある取引所を通じてドルや円との間で交換もできることから急速に普及。そこに目をつけたサイバー犯罪者が他人のパソコンを悪用して採掘したり窃盗したりする例が後を絶たない。中央銀行などに縛られない次世代の通貨は新しい利便性を消費者に提供する一方で、過去にはあり得なかったリスクも露呈している。

投機マネー流入、取引が過熱

急速に普及した仮想通貨の「ビットコイン」。値動きが激しい

しばらく前に、あるコンピューターウイルスが専門家の間で大きな話題を呼んだ。「ランサムウエア」という身代金を要求するウイルスである。メールの添付ファイルをクリックしたり改ざんしたホームページを閲覧すると感染し、パソコン内のデータを勝手に暗号化。使用できなくして、暗号を解除してほしければ身代金を払えという悪質なものだ。以前からあったランサムウエアだが専門家が目を丸くしたのは、100ドルの身代金の支払い方法としてビットコインを指定していたことだった。

ビットコインを簡単に説明すると、既存通貨のように紙幣を誰かが発行するのではなく、ある数式を解いてコインを「採掘」していくというデジタルを駆使した通貨である点だ。発行量が増えるほど数式は複雑になり採掘しづらくなる。そしてある一定量以上は発行できなくして、通貨の価値が安定するよう工夫されている。単位はBTCだ。

一方でドルなどとの相場があることも特徴。ビットコインが世に出た2009年ごろはほとんど価値はなかったが、昨年初めに1BTCが14ドルになりその後取引が過熱。ビットコインが大きく注目されたきっかけは3月に起こったキプロスの金融危機だ。同国政府が銀行預金への課税を決め、資産の逃げ場としてビットコインを選ぶ動きが相次いだ。ユーロ不安も手伝って、一気に240ドル前後まで高騰した。

11月に入ると米連邦準備理事会(FRB)がビットコインを通貨として認めたとの報道が飛び交い、さらに外貨との換金に制約がある中国で資産保全に役立つとして「ビットコインバブル」が勃発。一気に1200ドルまで値を上げた。その後中国中央銀行が人民元への換金を禁止し、米商務省が国内のビットコイン事業者に対して規制対象にするとの警告文を送付し、今度は暴落。年末に500ドル前後まで値下がりしたが、年が明けて再び高騰している。高騰と暴落を繰り返すことから「投機マネー」が流入し、相場の先行きを誰一人として読めない状況が続いている。

 ランサムウエアの制作者が支払い方法としてビットコインを指定したのは、銀行などに足がつかずに金銭をやりとりできるからだろう。犯罪に関わる資金をビットコインを介在して送金しあえばマネーロンダリングも難しくないことが問題なのだ。

ウイルス使い違法なコイン取得

お金の匂いに敏感なサイバー犯罪者が現在試みるのが、違法に得ようとビットコインを採掘するウイルスで大量のパソコンを感染させるというものだ。ビットコインはある数式を解くと自分の資産として得られる仕組みで、当初は一般人が使うパソコンでも十分計算可能だった。ただ流通量が増えた現在、数式はどんどん複雑になり、巨大な計算資源がないと取得しにくくなってきた。最近は、パソコン1台ではビットコインの採掘に1年以上は要するとさえされる。

そこでウイルスで勝手に他人のパソコンで数式を解かせ、その結果をすべて犯罪者側に送るという手口を考案。400台のパソコンを大量に感染させれば1日1BTC稼げるし、4000台なら10BTCが手に入る。現在の相場1BTC=976ドルで換算すると、荒稼ぎするには魅力的だということが分かるだろう。

ウイルス対策ソフトのトレンドマイクロの調査によると、不正な採掘を行うウイルスに感染しているパソコンは日本では全体の24.02%に及ぶという。米国の21.34%を抑えて世界一の水準である。今後犯罪者が、研究機関にあるスーパーコンピューターを短時間乗っ取りビットコインを稼ぐことも十分考えられる。

犯罪者が考えついたもう一つの手口がビットコインの窃盗である。古くからビットコインを使ってきたパソコンなら、膨大なビットコインが埋蔵されているかもしれない。ウイルスに感染させたついでにパソコンがビットコインを保持していないか探し、見つかれば持ち出すことは雑作もないこと。ビットコインでは「財布を入れ替えれば」、新しい方を正規だと認知されてしまうからだ。しかも、仕組み上取り戻すことはできない。現金と同じように、今持っている人こそが持ち主なのだ。

自ら守る姿勢 重要に

大胆にも取引所を狙ったサイバー強盗も最近発生している。さらにあくどいものとして、詐欺目的のビットコイン取引所というものもある。いわば悪徳の為替交換所で、ドルや円との交換ができるとうたって顧客を募り実際には搾取してしまうのである。今後、ビットコインの流通に目を光らせる各国政府が正規の取引所を排除すれば、ますます詐欺取引所が横行する可能性が高くなりそうだ。

 ビットコインは仮想通貨・仮想紙幣と表現するより、「仮想金貨」としたほうがしっくりくる。少し乱暴な言い方だが、ある数式に裏付けられた仮想的な金貨が埋蔵された鉱山がネット上に現れたようなものである。この鉱山は2008年、「中本哲史」を名乗る人物が公開したある論文によってこの世に現れた。その理論といい暗号の強度といい、取引の参加者全員で信頼を担保する仕組みといい、まさにデジタル社会の申し子といえよう。

肝心なのは「信頼できる数式」があれば、膨大な資産が眠る「鉱山」を発見でき、世界を支配できる可能性を証明したこと。パンドラの箱が開いてしまったのかもしれない。第2、第3のビットコインが誕生するたびに、莫大な富と支配を手に入れようと悪知恵を働かせるサイバー犯罪者との戦いを私たちは余儀なくされる。しかし絶対に負けるわけにはいかないのである。自分の財布は自分が守るように、ネットの財布も消費者一人一人が自ら守る姿勢で臨まなければならない。

西本 逸郎(にしもと・いつろう) ラック 取締役CTO。北九州市出身。1986年ラック入社。2000年よりサイバーセキュリティー分野にて、新たな脅威に取り組んでいる。日本スマートフォンセキュリティ協会 事務局長、セキュリティ・キャンプ実施協議会 事務局長などを兼務。著書は「国・企業・メディアが決して語らないサイバー戦争の真実」(中経出版)

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