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大リーグ薬物問題、ドタバタ劇演じるA・ロッド

薬物規定違反による出場停止処分を巡り、ヤンキースのアレックス・ロドリゲス内野手(38)が米大リーグ機構(MLB)と繰り広げている争いは、米メディアに「ソープオペラ」と揶揄(やゆ)されている。ソープオペラは昼間に放送されるメロドラマで、次から次へとありえない展開でストーリーが進んでいく。ロドリゲスが"演じる"このドタバタ劇が1月11日、新たな局面を迎えた。仲裁人が、プレーオフを含む2014年シーズン全試合の出場停止という裁定を下したのだ。

裁定文書公開、問題の経緯明るみに

シーズン全試合は大リーグ史上、最長の出場停止処分となる。ロドリゲスは13日、処分撤回を求めてMLBとMLB選手会を連邦地裁に提訴した。判決が出るまで1年近くかかるとされており、今季プレーできないのは確実だ。

13日の提訴が何ともお粗末だった。前夜、ロドリゲスに薬物を提供していたフロリダ州のクリニックの元オーナー、トニー・ボッシュ氏がテレビ番組でいろいろと暴露していた。「仲裁人の出した裁定文書の一部は秘匿にしたい」というロドリゲス弁護団の要求を、「世間の関心、既にテレビで公開されていることを考えると、一部だけ秘匿など難しい」と裁判官が一蹴。そのため訴状に添付された裁定文書が公開となり、ロドリゲスの薬物問題に関わる経緯が明るみになった。

詳細な摂取計画、薬物検査対策も

裁定文書がさらけ出したロドリゲスの行動は、まるでB級映画のようだ。摂取した薬物はキャンディー状やボディークリーム状のテストステロンと、ヒト成長ホルモンなど。毎日の詳細な摂取計画まである。10年から購入を始め、12年からはボッシュ氏と個人契約。「ロケット」「グミ」などの隠語で薬物を表現しており、密に交わしたテキストメッセージにはドーピング検査対策まであった。

13年1月、事態は暗転する。元クリニック従業員から提供された顧客ノートを地元紙が掲載、そこには大リーガーの実名がずらりと並んでいた。最も悪質とされた一人がロドリゲス。ロドリゲスは09年2月、レンジャーズ時代(01~03年)に薬物を使用したが、その後は一切使っていないと告白していた。

薬物提供者に「コロンビアで隠れろ」

掲載前、ロドリゲス陣営はボッシュ氏に記事を否定するよう求めた。だがボッシュ氏の弁護士は拒否。ボッシュ氏側が掲載当日、「記事に正確でない事実がある」との声明を出すと、後日、声明作成の法的費用としてロドリゲスからボッシュ氏側に2万5000ドルが振り込まれた。

裁定文書によるとその後、雲隠れするボッシュ氏を巡って以下の動きがあった。

・3月 MLBが「薬物規定を不法妨害した」とボッシュ氏を提訴

・4月 フロリダ州保健局が不法医療行為でボッシュ氏を召喚(ボッシュ氏は医師免許を持っていない)

・5月 ボッシュ氏がロドリゲス陣営から「薬物は提供していない」という宣誓書にサインを頼まれるも拒否

・6月 弁護士と警護費用の負担という条件を出したMLBにボッシュ氏が協力(提訴は取り下げ)

こうして8月、13選手への出場停止処分が下る。「MLBと適度な試合数で和解しろ」との選手会のアドバイスを無視し、最大211試合の停止処分を受けたロドリゲスは異議を申し立て、ヤンキースでプレーを続けた。文書にはないものの、ボッシュ氏は1月12日のテレビ番組で「面倒は見るからコロンビアで隠れていろと頼まれた」との暴露もしている。

弁護団、シーズンオフに入り次々訴訟

ロドリゲス、MLBをそれぞれ支える脇役陣も華やかだ。MLBが米連邦捜査局(FBI)の元捜査官を雇えば、マイケル・ジャクソン氏の児童虐待裁判を担当した弁護士を弁護団に加えるロドリゲス。ロドリゲス弁護団は、ヤンキースがプレーオフを逃してオフに入った途端、次々と訴訟を起こす。

MLBに対して「魔女狩りの一つとして、ボッシュ氏を買収し、ロドリゲスの契約、将来のビジネス関係を台無しにした」と訴え、ヤンキースの主治医には「12年のプレーオフ中、検査でロドリゲスのでんぶのケガが見つかったのに伝えず、悪化させた」(13年1月に手術して復帰は8月)と主張した。

近年、球界最高年俸に見合わない成績が続いている上、ケガが多く、フィールド外の騒ぎも多いロドリゲスに、ヤンキースは愛想をつかしていた。しかし契約は17年まである。薬物問題で何とか追いやれないか、そんなチームの空気を提訴理由にできないので、ロドリゲス陣営は矛先を主治医に向けたのだろう。

提訴された選手会、一転して激怒

裁定が出た2日後の1月13日には、選手会まで訴えた。理由は「ロドリゲスの権利を守る責任を完全に放棄し、その行為がMLBが自由にロドリゲスの権利を踏みにじる雰囲気をつくった」から。裁定発表直後にはロドリゲス寄りの見解を出した選手会も、さすがに激怒している。

自らの潔白を証明しようとすればするほど、次々と敵をつくっていくように映るロドリゲス。既に自分でも何がどうなっているのか分からないのかもしれない。兆候は2年前からあったように思える。

ボッシュ氏の名が浮上する発端は12年夏、メルキー・カブレラ(ジャイアンツ、現ブルージェイズ)のドーピング違反だった。元チームメートとして取材に応じたロドリゲスは自らの経験を踏まえ、「一番つらいのは過ちを告白すること。それを乗り越えると立ち直るのが楽になる。メルキーはもう大丈夫だ」とアドバイスしていた。

その時期、同じ相手から薬物を購入しており、ボッシュ氏の証言によれば、取材を受けたクラブハウス内でも、テストステロン入りキャンディーをなめていたにもかかわらず……。

「薬物テスト、一度も違反せず」と反論

昨年8月、薬物騒動の真っただ中でケガから復帰した際は、「ニューヨークの街を歩いていたら、愛を感じた。ファンが僕に叫ぶんだ。信じられない。世界最高の街だよ」と目を潤ませた。その裏では、MLBと醜悪ともいえる争いを繰り広げていた。

「一度も薬物テストに違反していない。薬物規定違反をしたこともない」。11日の裁定直後、ロドリゲスは話した。規定のなかった01~03年の薬物使用は自ら認めているだけに、むなしさを感じさせる。

世界反ドーピング機関(WADA)は今回の裁定を全面支持するコメントを発表した。自転車の元王者ランス・アームストロング氏のケースと同じく、ドーピング検査で違反判定が出ていなくても、揺るぎない証拠があればクロとなる流れとなっている。

出場停止でもキャンプには参加へ

かつて英雄視されたアームストロング氏の抵抗も見苦しかった。しかし13年1月、外堀を埋められ、長年否定し続けた薬物違反をついに認めると、「裏切られた」「信じていたのに」と失望の声が上がった。18歳でメジャーデビューし、華のある容姿で大リーグ最高の内野手ともいわれたロドリゲスには、失望の声は聞かれない。今の姿は滑稽にも見え、痛々しい人になっている。

裁定から4日後、「働きづめだったから14年シーズンを休むのは精神的にも肉体的にもいい」とメキシコで話したロドリゲスは、春のキャンプには参加するらしい。協定の盲点で、出場停止中でもキャンプには参加可能なのだ。「誰でもそれぞれ意見を表明する権利がある。それが米国という国のいいところだ」。昨季、ロドリゲスについて聞かれると決まってこう答えていたヤンキース・ジラルディ監督。この春も、何事もなかったかのように受け入れられるのか。

「フロリダでの(ロドリゲスの)移動には米軍の警護がいるだろう」。冷やかし記事が早くも登場している。

(原真子)

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