名建築を楽しめる温泉宿 東西ベスト10
忙しさや雑事から離れ、ゆったりしたひとときを満喫できる温泉宿。泉質や宿のサービスなど宿の選び方はいろいろだが、今回は名建築を楽しめる宿を専門家に聞いた。国の重要文化財や登録有形文化財、日本を代表する建築家が手掛けた宿がずらりと並んだ。
<東日本>

明治の和洋折衷
メーンダイニング「ザ・フジヤ」では頭上に注目したい。日光東照宮本殿をモデルにした5メートル超の格天井には高山植物や鳥などが描かれ、欄間の彫刻や装飾は荘厳さを感じさせる。館内ツアーが毎日あり、宿泊客の3分の2が参加するという。「喫茶だけでも建物を体感したい」(富本一幸さん)、「夕食時にダイニングから見えるライトに照らされた花御殿は一見の価値あり」(山崎まゆみさん)(1)宮ノ下温泉(2)0460・82・2211(3)花御殿2万8500円~
湯殿にアーチ窓
「法師乃湯」は杉皮ぶき屋根の木造平屋建ての湯殿で歴史を感じさせる。英国人鉄道技師の意見によるというアーチ型の窓から湯へ光が降り注ぐさまは幻想的。のちに補強した杉の丸太の梁(はり)も迫力がある。「本館の梁が出ている客室と浴室が見どころ」(郡司勇さん)(1)法師温泉(2)0278・66・0005(2)別館1万5750円
庭園に離れが点在
館内に飾り屋根
雪の庭に灯火
豪農などの民家を移築しており太い柱や梁が迫力(1)六日町温泉(2)025・772・3470(3)2万6250円
松籟荘と桃山風呂が国の登録文化財(1)湯田中温泉(2)0269・33・2111(3)松籟荘2万6800円~
文人や画家が愛用。天平風呂が国の登録文化財(1)修善寺温泉(2)0558・72・2007(3)3万1500円
国の重要文化財に泊まれる温泉宿(1)箱根湯本温泉(2)0120・29・2301(3)明治棟2万1000円~
平田雅哉氏による本館の大観の間と松風の間は見学も可(1)熱海温泉(2)0557・81・8137(3)2万5620円
<西日本>
武家造りの荘厳さ
別棟「平田館」は「吉兆」などを手掛けた数寄屋造りの名匠・平田雅哉氏によって1960年に建てられた。庭園に面した大浴場の「尚(しょう)の湯」は本館客室の宿泊客も利用できる。「数寄屋造りの結晶。各部屋で異なる趣も味わい深い」(山田祐子さん)、「(平田館の)特別室『観月の間』に込められた知恵と技には言葉も出ない」(武田真理子さん)(1)城崎温泉(2)0796・32・2211(2)3万7800円~
川からの眺めは壮観
ガラス越しに滝
客室と林の一体感
スイスの山荘風
重厚な趣の玄関や本館などが国の登録文化財(1)下呂温泉(2)0576・25・4126(3)1万9500円~
自然を楽しむ無駄を排した洗練された造り(1)山代温泉(2)0761・77・1340(3)5万925円~
数寄屋造りで本館客室は平田雅哉氏による設計・施工(1)芦原温泉(2)0776・77・2001(3)2万3100円
自然と共生する宿(1)久住高原温泉(2)0974・76・1223(3)1万4500円
明治から昭和初期の正門や本館などが国の登録文化財(1)日奈久温泉(2)0965・38・0611(3)1万4700円
表の見方 数字は選者の評価を点数に換算。(1)温泉地名(2)問い合わせ先電話番号(3)宿のおすすめプランの一例料金(1泊2食付き、1室2人利用時の平日の1人分、消費税とサービス料込み、入湯税除く)。写真は東日本の1位以外は宿の提供。
■文化財にお泊まり

元来、宿は経営者の好みや時代背景を映す。欧米の文化や技術が入ってきた明治時代の宿は和風建築と西洋建築が見事に調和し、和洋折衷の美しさが際立つ。東日本1位の富士屋ホテルや西日本5位の雲仙観光ホテルなど外国人向けに開業した宿が象徴的だ。
昭和になり鉄道網が整備されると、温泉巡りが一般の人々にも広がり始める。東日本4位の歴史の宿金具屋のように、様式にこだわらず職人たちの最高の技を尽くして見る者を圧倒する建築が非日常を求める客を喜ばせた。これら文化財の宿に共通する欄間の彫刻や障子のデザインなどはもはや再現が難しく、一見の価値がある。
高度成長期を経て温泉観光が一般化すると、くつろぎが求められるようになり、村野藤吾氏や数寄屋造りを得意とした平田雅哉氏といった建築家の手による温泉宿が増えた。宿全体のたたずまいはもちろん、庭や客室の照明など細部まで配慮されている。稲葉なおとさんは「その建物ならではの居心地のよさを感じ取ってもらえたら」と話す。
館内のガイドツアーなどを催す宿もあり、事前に勉強しておくとより楽しめる。中には段差が多かったり照明が暗かったりする施設もあるので、事前に確認しておこう。
◇ ◇ ◇
調査の方法 国指定文化財や、建築や温泉に詳しい専門家らに推薦された各地の名建築とされる温泉宿でリストを作成。約70軒を東日本と西日本に分け、専門家に建築を楽しむ目的で順位をつけて10軒選んでもらった。選者は次の通り(敬称略、五十音順)
雨宮健一(近畿日本ツーリスト国内旅行部)▽稲葉なおと(『匠たちの名旅館』著者、1級建築士)▽木村麻紀(JTB東日本国内商品事業部)▽郡司勇(温泉研究家、1級建築士)▽武田真理子(柴田書店「月刊ホテル旅館」編集長)▽富本一幸(トラベルニュース編集長)▽西村りえ(温泉ライター)▽藤森照信(工学院大学教授)▽山崎まゆみ(温泉エッセイスト)▽山田祐子(井門観光研究所)
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