ウエアラブル元年 ロボットを着こなす日
写真は語る
メガネ型や時計型など、装着するウエアラブルコンピューター端末が注目されるなか、人体に装着して身体機能を補助、改善、拡張させ、人を支援する「ウエアラブルロボット」の開発が勢いづく。ガンダム誕生のきっかけともなった半世紀以上前の米国のSF小説「宇宙の戦士」に登場した「パワードスーツ」を彷彿とさせる装着型ロボが、福祉や医療、作業が困難な現場などで活躍し始めている。


「すごい! 動いた」。装着型ロボット「HAL」を開発したベンチャー企業、サイバーダイン(茨城県つくば市)の展示施設で見学に来た高校生の歓声があがる。「HAL」は人の身体能力を補助するロボットスーツで、脳からの指令を読み取り、装着した人が思い描いた動作ができるように助けてくれる。下肢に障害を持つ人の歩行訓練など福祉分野で活用されている。
欧州では8月に治療用として医療機器認証を取得し、脊髄損傷患者などの治療サービスにドイツで使われている。欧州連合全域での販売が見込まれ、年明けには大分県別府市にHALを使ったトレーニング施設を開設し、アジアからの需要を取り込む構えだ。


パナソニックの社内ベンチャー、アクティブリンク(奈良市)が開発した「パワーローダー」。グリップを握り、手首をひねると、モーターがうなりを上げ、ロボットハンドが動きを追従する。最大で100キログラムの重りを持ち上げることが可能で、全身に22軸の可動部とモーターを持つ、まさに"着るフォークリフト"のようなロボットだ。同社では開発で培った技術を転用し、装着すると荷重40キロまで耐えられるように脚力が増幅する改良版を販売している。
単純作業を得意とし人間を労働負荷から解放してきたロボットが、時代の流れの中で人間と能力を補完し合う存在になり始めている。ロボットハンドを研究する千葉大学の並木明夫准教授は「自律型ロボットより、人間と力を補い合うハイブリッド型の方が社会生活に早く浸透していくのでは」と予測する。
人が入れない危険な現場での活躍が期待されるロボットの開発も進んでいる。


「右上げて、左を下げる」。旗揚げゲームに興じているかのように、ロボットが正確に手の動きに同調する。自動ドア用センサーなどを手がける旭光電機(神戸市)は、離れた場所から自分の体を実際に動かす感覚で操作できるロボットを開発した。手袋型のコントローラーとディスプレー内蔵のヘルメットを装着すれば、ロボットの"目"から送られてくる映像を見ながら、腕や指などを思いのまま遠隔操作できる。劇薬を扱う医薬品の製造現場などでの利用が期待され、5年後の市場投入を目指し改良が進む。
一方、逆転の発想でヒトの手や指をロボットのようにしてしまう研究に取り組むのはベンチャー企業のH2L(東京・千代田)だ。腕に巻いた2枚のベルトから前腕の筋肉に電気刺激を与えて収縮させ、指のけんの動きをコントロールする仕組み。電気刺激の強さなどをパソコンソフトに学習させ、人の意思とは関係なく手や指を操ることができる。医療機関や研究施設で活用されている。
開発と商品化が急速に進むウエアラブルロボットの進化が、そう遠くない将来の暮らしの風景を一変させそうだ。

(写真部 瀬口蔵弘、柏原敬樹)