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医療費、「何を保険で」もっと詰めを 平井克彦氏と川渕孝一氏が議論
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2013/12/15 3:30
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 消費税増税まで約3カ月。超高齢経済を乗りきるには、税負担の拡大とともに高齢者が使う医療費の膨張に歯止めをかける制度改革が不可欠。解はどこにあるか。企業健保の声を代表する健康保険組合連合会の平井克彦会長(東レ相談役)と、国の医療政策に発信をつづける東京医科歯科大の川渕孝一教授が議論した(文中敬称略)。

■平井氏「病気の予防、現役世代から」

平井克彦(ひらい・かつひこ)氏 東京大経済学部を卒業後、東レに入社。1997~2002年に同社の社長。08年から健保連会長。74歳。

平井克彦(ひらい・かつひこ)氏 東京大経済学部を卒業後、東レに入社。1997~2002年に同社の社長。08年から健保連会長。74歳。

――国民医療費が40兆円に迫る勢いで増えています。膨張に歯止めをかける方策はありますか。

平井 提供体制では高度急性期に偏りすぎている病院の現状を是正し、慢性期の受け入れを増やす。患者が入院する期間を短くすることも急務だ。後発薬の普及、医療の情報技術の活用も重要になる。総じて言えば、何もかもやらなければいけない。

保険運営者の立場では、健康相談や検診など様々な保健事業を通じた取り組みがある。これをさらに強化することで、病気の予防や重症化の予防につなげることができる。予防への取り組みは企業の労働生産性を向上させる。時間はかかるが、現役世代からの健康づくりが将来的な医療費適正化になるという思いを強くしている。

川渕 診療報酬の改定年でない時も、自然増として医療費が膨らんでいる。高齢化や人口の増減に加え、医療技術が高度化している。政府の公表資料ではこの部分は「その他」でひとくくりにされているが、技術革新がどれくらい費用を押し上げているのか、診療報酬の改定時に解明が必要だ。

これまでの予防に加え、今後は「未病」という概念も重要だ。病気の重症化を防ぐことで、1人当たりの生涯にかかる医療費を安く済ませようという発想に由来する。その際に、予防も含めて公的医療保険の守備範囲のルール化が欠かせない。何を保険でみて、何をみないのか。いわゆる混合診療の拡大論と並行して、概念論でなく客観的に、もっと詰めた議論が必要になる。

平井 今は医療機関で受診し、医師から処方箋を受け取った薬(医療用医薬品)は全て公的保険の給付対象となり、保険から(費用の7~9割を)支払う。このうち風邪薬、胃腸薬など個人がドラッグストアでも買えるような薬は公的保険の給付対象から外していく考えはあると思う。通院しないでドラッグストアで風邪薬を買えば、公的保険の対象にはならない。

■川渕氏「『とれるところからとる』に懸念」

川渕孝一(かわぶち・こういち)氏 一橋大商学部卒、シカゴ大大学院修了。国立医療・病院管理研究所などを経て現職。専門は医療経済学。54歳。

川渕孝一(かわぶち・こういち)氏 一橋大商学部卒、シカゴ大大学院修了。国立医療・病院管理研究所などを経て現職。専門は医療経済学。54歳。

――高齢者医療の見直しにどう取り組むべきですか。現行制度では、不可抗力的に保険からお金が吸い上げられている印象が強いようです。

平井 保険財政は極めて厳しい状況で、このまま行くと国民皆保険の維持すら困難な状況に陥る。保険財政の安定の議論が入り口のはずだ。保険支出の6割を、高齢者医療向けの負担が占めている。過大な負担の見直しにどう取り組むか。8月までの政府の社会保障制度改革国民会議は、この点をまったく議論せず、結論を先送りした。

健保組合などの保険料で高齢者医療を支えることが嫌だと言っているわけではない。ただ、今の仕組みは、現役世代が耐えられるレベルを超えている。65~74歳の高齢者の医療費を賄うために投じる公費の割合を75歳以上の高齢者と同じ約5割にする。残りを現役世代の保険料による支援と高齢者の自己負担で賄う方式への改革をこれまで主張してきた。しかし議論が先送りされているのが実情だ。

川渕 どこの国でも国民皆保険制度が始まると、医療費は伸びる。61年に皆保険となった日本では、80年代初めから診療報酬(医療費)の伸びを国民所得の伸び率に抑えていた。ただ、2000年以降に経済の成長率はほぼゼロとなったが、医療費はなお増加基調が続いている。

ドイツやスウェーデンに比べて、日本の社会保険料の負担は少ないとされている。未曽有の少子高齢社会を迎える我が国が真の福祉国家を目指すためには、特に大企業にはある程度の保険料を払ってもらわなければいけない。

日本の大企業は数のうえでは全体の0.2%だが、法人実効税率が高いにもかかわらず、企業全体の利益の7割、納税額の5割、設備投資の7割を占めているという。そうしたなか国民会議は最終報告書の中で「とれるところからとる」という発想を打ち出した。保険料を払える者だけが日本に残るという国民皆保険の空洞化に発展しないか心配だ。

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