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安定のベテラン集団・横浜M J1の荒波乗り切るか

サッカージャーナリスト 大住良之

「世界中で、Jリーグほど難しいリーグはない。上位、下位の力の差がほとんどなく、どんな結果でも起こりうる」(浦和レッズのミハイロ・ペトロビッチ監督)

大詰めのサッカーJ1。11月23日までに全34節のうち32節を消化、残り2節の時点で、横浜F・マリノスが圧倒的優位に立った。

首位から4位まで未曽有の大接戦

23日の第32節を迎えた時点で、首位横浜Mが勝ち点59、以下2位浦和58、3位サンフレッチェ広島57、そして4位鹿島アントラーズ56と、優勝争いは緊迫していた。

首位横浜Mは、大黒柱のMF中村俊輔が10月下旬に胆のう炎で戦線を離脱、第31節の名古屋グランパスとのホームゲーム(11月10日)を欠場すると1-2で敗れた。2位浦和が追加タイムの失点でベガルタ仙台と3-3で引き分け、かろうじて首位を守ったものの、残り3節の時点において勝ち点1差ずつで首位横浜Mから4位鹿島までが接近するという未曽有の大接戦となったのだ。

だが11月中旬に日本代表のベルギー遠征があり、翌週の週末にJリーグがなかったことは、中村のコンディションを考えると大きかった。

横浜Mは20日に日本フットボールリーグ(JFL)の長野パルセイロと天皇杯の4回戦を戦い、延長の末2-1で勝った。この試合の69分から延長戦まで61分間プレーしたことで、中村は週末のJリーグに備えることができた。

中沢が決勝点、磐田相手に勝ちきる

その週末の23日、横浜Mはジュビロ磐田とのアウェーゲーム。すでにJ2降格が決まっている磐田を相手に、前半から圧倒的な攻勢に出たが、磐田も粘り強く守り、なかなか得点を記録することができない。しかし69分、左CKを得ると、中村のキックにニアポストでFWマルキーニョスが合わせてヘディングシュート。磐田GK八田直樹が防いだものの、リバウンドにDF中沢佑二がいち早く反応、左足で蹴り込み、1-0で勝ちきった。

同じ23日、2位浦和はホームで川崎フロンターレと対戦。圧倒的にボールを支配して攻め込んだものの、1点のビハインドを追って57分にようやく追いついたと思う間もなく2分後にオウンゴールで勝ち越し点を許し、結局1-3で敗れた。

勝ち点差広げ、次節勝利で優勝決定

3位広島の相手は5位のセレッソ大阪。広島は再三のチャンスを決めきれず、逆に52分にC大阪の日本代表FW柿谷曜一朗の絶妙のスルーパスを受けたMFシンプリシオに決められて0-1で敗れた。

そしてリーグ前半の不調を脱し、首位まで勝ち点3差に迫っていた4位鹿島も、圧倒的な強さを誇るホームのカシマスタジアムでサガン鳥栖に1-2の苦杯。84分に1-1の同点とするゴールを決めたが、追加タイムの5分目に韓国代表MF金民友(キム・ミヌ)に決勝点を許してしまったのだ。

この日の結果、勝ち点を62に伸ばした横浜Mは2位浦和(58)に勝ち点差4をつけ、30日の第33節にアルビレックス新潟とのホームゲームで勝てば優勝決定という形になった。仮にこの試合に負けても首位から落ちることはなく、最終戦で川崎に勝てば優勝となる。

目立った補強なく不安のスタート

残り2試合で、数字の上で優勝の可能性があるのは、首位横浜Mのほか、勝ち点差4の2位浦和、同5の3位広島、そして同6の4位C大阪と5位鹿島。ただし横浜Mが連敗したとしても、得失点差で大きな差がある鹿島が優勝する可能性は限りなく低い。

今季の横浜Mは、昨季のエース格だった若手FW小野裕二がベルギーのスタンダールに移籍、MF狩野健太、MF谷口博之(ともに柏レイソルに移籍)といった中堅選手がチームを離れた。一方、目立った補強はなく、主力の高齢化もあって、不安のうちのスタートとなった。

実際、J2から昇格したばかりの湘南ベルマーレを相手にした開幕戦では、湘南のスピードについていけず、後半半ばまで1-2の劣勢。湘南の足が止まった終盤に連続得点して4-2の勝利という試合だった。

この試合、前半の横浜Mは動きにダイナミックさがなく、とても1シーズンを戦い抜く力があるようには見えなかった。しかし後半になるとチーム全体に出足が良くなり、プレスとそこからの攻撃が連動するようになった。そして試合の終盤には若いFW斎藤学がスピードドリブルからゴールを記録するなど、一挙に攻撃的な姿勢が出た。

快進撃の中心は中村、得点力も披露

続く清水エスパルス戦(アウェー)は5-0の大勝。この連勝でチームの自信は一挙に深まった。そして第6節まで6連勝、首位街道を爆走した。

横浜Mの樋口靖洋監督は52歳。三重県の四日市中央工業高校から横浜Mの前身である日産自動車に加入、24歳で引退して指導者の道を歩んできた。Jリーグではモンテディオ山形、大宮アルディージャ、横浜FCの監督を歴任。2010年に横浜Mに戻ってコーチとなり、12年に監督に就任した。1年目は開幕から7試合勝利がなく(4分け3敗)、苦しんだが、以後結果を出し、4位でシーズンを終えた。そして今年は、開幕からの猛ダッシュがきいた。

快進撃の中心となったのはMF中村。1978年6月24日生まれ、このシーズン中に35歳を迎えたが、細心のコンディション管理で運動量もプレーの切れもすばらしく、開幕戦では左サイドから30メートルのFKを直接たたき込むなど、得点力も見せた(第32節終了時で10得点)。

決定的といえる中村の今季MVP

横浜Mのシステムは、この中村を「トップ下」に置く4-2-3-1。そのポジションから自由自在に動き、攻撃を組み立て、またゴール前に進出して得点を狙うプレーこそ、横浜Mに今季のJリーグの主役を演じさせた原動力だった。

シーズン途中で胆のう炎を患うアクシデントに見舞われ、入院で3キロも体重が落ちるという危機に見舞われながらも、大半の試合でフル出場に近い時間をプレー。優勝がどのチームになっても、今季のMVPに中村が選ばれるのは決定的だと、私はみている。

今季の横浜Mの主力には、信じがたいほどの高年齢な選手が並んでいる。

平均31.36歳の11人でほぼ戦い抜く

優勝へ大きく前進した11月23日の磐田戦の先発は、GK榎本哲也(30歳)、4バックのDFは右から小林祐三(28歳)、栗原勇蔵(30歳)、中沢(35歳)、ドゥトラ(40歳)、MFはボランチに富沢清太郎(31歳)と中町公祐(28歳)、右サイドに兵藤慎剛(28歳)、左に斎藤(23歳)、トップ下に中村(35歳)、そしてワントップにFWマルキーニョス(37歳)。先発11人の平均年齢は31.36歳(相手の磐田は27.09歳)だった。

そしてさらに信じがたいことは、1シーズンをほぼこの11人で戦い抜いたということだ。

開幕から6連勝と好スタートを切っても、周囲は「途中で息切れするか、主力が負傷して戦力が落ちる」とみていた。実際、4月下旬から5月上旬にかけては4試合勝利なし(2分け2敗)という時期もあり、大宮に、そして後には広島に首位をキープされた。

しかしそれでもずるずると順位を落とすことはなく、今季の最低順位は、第15節と第16節終了時(7月前半)の4位。第21節(8月中旬)に首位を取り戻すと、以後2回広島に取って代わられたが、1節で首位の座を奪い返している。

水曜日にも試合がはいる「連戦」が多かった今年の夏に、横浜Mは粘り強く勝ち星を重ね、首位を守ったのだ。

ベテランの自己管理、若手の手本に

中村や中沢、そしてドゥトラ、マルキーニョスといった超ベテラン選手たちのプロフェッショナルな自己管理がチームに与えた影響も大きかったに違いない。誰よりも早く練習場に来て、誰よりも遅く練習場を出る中村の姿勢は、中堅や若手にすばらしいお手本となったはずだ。

32試合で重ねた総得点49は、12位の柏、13位の鳥栖(ともに50得点)にも劣る上から7番目。しかし総失点28は、C大阪と並ぶトップの数字だ。

開幕2試合は大勝だったが、これまでの18勝のうち実に13勝が1点差の勝利。粘り強い守備と、戦い抜くメンタルの強さも、今季の横浜Mの大きなポイントだ。ベテラン選手たちの経験と落ち着きが、その原動力になっているのは間違いない。

「前半戦」2位、「後半戦」最下位の大宮

ただし、濃厚にはなったものの、優勝が決まったわけではない。

冒頭のペトロビッチ監督の言葉のように、Jリーグは勝敗を予想するのが難しく、ときどき常識では考えられないことまで起こるからだ。

たとえば今季の大宮。第10節までは負け知らずで、昨年からの無敗記録を21試合に伸ばし(新記録)、第8節には横浜Mを抜いて首位に立ったが、第16節に今季2敗目を喫すると、以後は8連敗。その間に監督が交代したが、第24節に1勝しただけで、また32節まで8連敗。

2ステージ制なら「第1ステージ」では2位。「プレーオフ」への出場権が与えられるチームが、「第2ステージ」はわずか1勝、もちろん最下位。こんな不思議なことは、世界に例がない。

リーグ最多得点ながら勝負弱い浦和

首位に立つチャンスを再三逃してきた浦和の勝負弱さも不思議だ。私は、今季「優勝」に値するサッカーの質を持つチームがあるとしたら浦和だと思っている。「20点クラス」のエースストライカーをもたないにもかかわらず、リーグ最多の63得点を挙げていることでもわかる。しかし追加タイムの失点で引き分け、首位に立つチャンスを失うようなことが再三あった。

今季の横浜Mをひと言で表せば「安定」ということになるだろう。しかしそれでも、このJリーグでは、何かが起こらないとは言えない。今週末、30日の新潟戦(ホーム)で敗れるようなことがあると、12月7日の最終節に何が起こっても不思議はない。

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