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スポーツを科学する 楽天・田中はニュータイプ? 150キロ剛速球の秘密

5カ国・地域の王者らが対戦したアジアシリーズが終わり、今年のプロ野球は全日程が終了した。同シリーズでは準決勝で統一ライオンズ(台湾)に敗れたものの、今季は球団創設9年目の楽天が悲願の日本一に輝いた。チームをけん引したのは、なんといってもシーズン24勝無敗の日本記録を打ち立てたエースの田中将大だった。投手の投球フォームの研究をしている金沢星稜大学人間科学部スポーツ学科の島田一志准教授は、田中は150キロの速球を投げる豪腕の中でも新たなタイプの投手と分析する。

回転スピード、1秒間に約1500度

島田准教授は、投球する際に手足の先や関節部など身体の20カ所以上のポイントがどう動くかを測定するなどして様々な投手の特徴を調べている。

150キロを投げる投手にはどういった特徴があるのだろうか。同准教授によると、一般的には「投球モーションで踏み出した足が地面に着いたとき、打者の側から見ると、速球派の投手は背中部分が大きく見える傾向がある」という。

右投手なら踏み出した左足が地面に着く瞬間まで右肩の位置は一塁側の方向で我慢し、そこから一気に上半身をひねることで右肩を三塁側方向に横回転させてボールを投げ込む。肩の水平方向の回転スピードは、速球派の投手だと1秒間に約1500度(1回転が360度なので1秒間に4回転以上するのと同じ速さ)にも達するそうだ。

「上体を開くな」は理にかなう

このように上半身をダイナミックに使うことで、ボールにより大きなエネルギーを伝えている。プロ野球のコーチらがよく「上体を開くな」と投手にアドバイスしているが、これはこうした仕組みを説明していて、速いボールを投げるためには理にかなっているという。

さらにいうと、オーバースローで真上から投げ下ろすのではなく、ややヒジを下げたスリークオーター気味に投げた方が速い球を投げやすい傾向にあるという。

それはなぜか。オーバースローの場合は上方に弧を描くように投げるのでボールの位置が上下してしまってどうしてもエネルギーロスが生じるが、スリークオーターだとボールの上下動が小さいために早いタイミングでボールにより多くのエネルギーを伝えられるからだ。また、スリークオーターの方がヒジを伸ばして投げやすいため、投球フォームが大きくなり、腕もしなりやすくなる。

横浜や巨人で活躍して2008年に日本球界最速の162キロをマークしたクルーンやヤクルトの由規らがこのタイプの投手にあたる。

フォームが大きいと制球にバラツキ

ただ、こうした投げ方の場合は「投球フォームが大きく、ボールにスピードがある分、少しの誤差が大きな違いになってしまい、どうしてもコントロールという点ではバラツキが生じやすい印象がある」と島田准教授は語る。

実際、クルーンは日本球界に6年間在籍して計305回1/3を投げて四死球は129個、この2年間ケガで1軍登板がなかった由規はこれまでに計419回投げて203個の四死球を与えている。2イニングから2.5イニングに1人は四死球で走者を出していたという計算で、決して制球の良い投手とはいえなかった。

さて今季パ・リーグで最多勝利(24勝)、最優秀防御率(1.27)、勝率第1位(10割)の主要投手タイトル3冠に輝いた田中の場合はどうか。田中は走者がいない場面ではそうでもないが、得点圏に走者を置くとギアチェンジして150キロ台の速球をビシビシと投げ込み打者を牛耳ってきた。田中の得点圏被打率はわずか1割6分。8月23日のロッテ戦では自己最速の156キロをマークした。

踏み出した左膝の関節に注目

この田中を分析すると、先に挙げたクルーンらのようなダイナミックな投げ方ではなく、どちらかというと比較的まとまった投球フォーム。しかもスリークオーターではなく、オーバーハンドで投げている。「新たなタイプの150キロ投手」と島田准教授は話す。

田中が150キロ台のスピードボールを投げる秘密はどこにあるのか。「ほかにもいろいろ理由があるかもしれない」と断りつつ、同准教授は踏み出した足(左足)の膝関節の角度に注目する。「左足が地面に着いた後、腕を振ってボールをリリースするまでの局面で、左足の膝関節がほとんど曲がらない。そこが田中投手の素晴らしいところ」と指摘する。

投球フォームにおけるエネルギーの流れを見てみると、まずは軸足(右投手の場合は右足)に重心を乗せることによって軸足の股関節でエネルギーを生み出し、そのエネルギーを踏み出した足を地面に着ける過程で腰に移し、さらに上体をひねることで一気に上半身、そして腕へともっていく。

エネルギー、効率的に上半身に

しかし、足が地面に着いてからボールをリリースするまでの局面の後半部分で膝関節が曲がってしまうと股関節が下がり、せっかく生み出したエネルギーの一部が下方向に逃げてしまう。田中の場合は膝関節がほとんど曲がらないため、投げる瞬間には股関節がむしろ上がる傾向があり、エネルギーを非常に効率的に上半身に伝えているという。

こうした無理のない投球フォームで、しかもオーバースローで投げる。だからこそ田中は「150キロのスピードボールを投げてもコントロールが良い」と同准教授。実際、今季の田中は計212回投げて四死球は計35個しか与えなかった。こうしたことができるのは、田中が並外れた体格の持ち主で、なおかつ器用さを兼ね備えているから、というのが、島田准教授の分析だ。

大リーグの投手でもまれか

「個人的な印象としては、大リーグの投手でもこれほど効率的にエネルギーを伝えて150キロの速球を投げている投手はあまりいないのではないか」と島田准教授は話す。

日米間の新ポスティングシステムの締結が難航しているため不透明な部分もあるが、同システムを使って来季からの大リーグ挑戦もうわさされている田中。もしも渡米が実現した場合、田中の投球はメジャー球界でどんなインパクトを与えるだろうか。

(鉄村和之)

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