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求められる結果…マンU・香川突き動かす危機感

イングランド・プレミアリーグは11節を終えて、アーセナルが勝ち点25で首位、リバプールが同23で追う展開になっている。この序盤戦で最大の話題となったのが昨季の覇者、マンチェスター・ユナイテッド(勝ち点20で5位)の足踏みだ。

27年間、チームを率い、リーグ戦で13度、優勝に導いたファーガソン監督が昨季限りで退任した。エバートンを指揮していたモイズ監督が後を継いだが、9月までの6試合で2勝1分け3敗とつまずいた。

欧州CLで勝てないと悟ったマンU

その話をする前に、近年のマンUのチーム状況について振り返っておいたほうがいいだろう。ファーガソン前監督のサッカーはオーソドックスなものだが、イングランド流に単純に縦に蹴ってしまうわけではない。なるべく早くサイドにボールを持っていき、外から攻めることを重視していた。

しかし、そのサッカーではもう欧州チャンピオンズリーグ(CL)では勝てないと悟ったのだろう。バルセロナ(スペイン)、ドルトムント(ドイツ)などは流動的でモダンなサッカーを身につけている。

ファーガソン監督は自分たちの限界に気付き、世界の最先端のサッカーを取り入れていこうと考えて、ドルトムントから香川真司を獲得したのだと思う。

短いパスで流動的なサッカー目指す

布陣が4-4-2でも、4-2-3-1でもマンUはサイドのMFにバレンシアやヤング、ナニなどウイングタイプの選手を置いてきた。そこに香川を配してアレンジしようというのが昨季のマンUの狙いだった。

左MFの香川には自由を与えて、中央に入っていくことも許した。そこで変化をつけてほしいということだったはずだ。それまでのマンUには変化をつけられる選手がルーニーしかいなかった。そこに香川を加えることで、短いパスを織り交ぜながら流動的に動くサッカーを目指した。

しかし、香川の移籍1年目のシーズンを通してみると、監督の期待に応えて力を出し切ったとは言いがたい。危険なゾーンに入っていくことが少ないし、前を向いて自分で仕掛けることが激減した。簡単にボールを放してしまうので、相手は怖くない。最後のところでの決定的な仕事が少なすぎた。

監督交代で評価一変、香川重視されず

ドルトムント時代と違って、周りにファンペルシーやルーニーら大物がいるので、自分の持ち味を出すより、周りに合わせようという気持ちが強くなってしまったのかもしれない。自分で何とかするのではなく、周りに使ってもらおうというプレーが多くなった。

チームになじもうとするのはわかるが、監督から求められているものを出せずに最初のシーズンを終えてしまった。出来としては60点ぐらいだったのではないか。

注目の2年目はモイズ監督に替わり、香川の評価ががらりと変わった。エバートン時代を振り返ればわかることだが、モイズ監督は大きい、強い、速いというフィジカルに優れた選手を好んで使う。香川のようなうまくて、こうかつな選手を重視しない。

志向するサッカーは典型的なイングランドスタイルで、単純に縦に蹴って、個人の力で打開しろという感じだ。エバートンはマンU、マンチェスター・シティー、チェルシー、アーセナルといったビッグクラブと比べると戦力が明らかに落ちるため、ボールを保持して攻めることは難しい。だから、サッカーが大ざっぱになるのは仕方ない面もあった。

「ルーニー中心に」戦い方に方向性

長年、そういうチームで指揮を取ってきたので、序盤戦は質の高い選手の多いマンUでどういうサッカーをしたらいいのかつかみきれていなかったのではないかと思う。戦術的にこういうサッカーをしようという思想は見えてこなかった。「ここはこうしよう」という細かな指示は出ていないような気がする。

香川についても、どういう価値があり、どう使ったらいいのか、見いだせなかったのだと思う。本人のコンディションが良くなかったこともあるが、リーグ戦の最初の8試合で1度しか使わなかったのは、監督が香川の本質をつかんでいなかったからではないか。本当に力があるのかどうか半信半疑なのだろう。

10月以降、4勝1分けと結果が出てきたのは、ようやく戦い方の方向性が見えてきたからではないか。なかなか勝てず、批判を浴び、ストレスを受けている中で、「ルーニーを中心に戦うしかない」ということに気付いたのだろう。当初はルーニーをも軽視していた感があるが、ここへきてチームの軸に置いている。

ルーニーの相方として香川に出番

決定的なところで気の利いたパスが出せるのはルーニーしかいないのだから、こうするしかないのだ。ルー二―を重視し始めたことに付随して、香川の出番も増えてきた。

モイズ監督は「どうやらルーニーとコンビネーションが合うのは香川のようだ」ということにも気付いたのだと思う。右利きのルーニーはどちらかというと左に流れてプレーしたがる。そこからカットインしていった方がシュートは狙いやすい。

その左サイドに香川がいてくれると、ルーニーは気持ちよくプレーできる。香川はパス交換をテンポよくしてくれる。ウェルベックなどのように、わけもわからず縦にボールを持ち込んでしまうことはしない。香川に預ければ、いいところにいいパスが返ってくる。

最近、香川の出番が増えたのは、モイズ監督が香川のことを高く評価しているからではないと思う。ルーニーとセットで出すには香川が一番と考えているからだろう。この2人を一緒に使えば機能すると考えているのだ。それでチームが勝ち始めたというのも大きい。

香川、生き残りへ持ち味出し切る必要

ここで香川は自分の持ち味を出し切らなくてはいけない。ボールを簡単に下げてしまうのではなく、前を向いて自分で何とかする姿勢を見せなくてはならない。

体が小さく軽いので、ペナルティーエリアの密集の中に入っていっても無理という考えは間違っている。相手にすれば、小さくて、ちょっと触っただけでも吹っ飛んでしまいそうな選手がペナルティーエリアに進入してくると体を強く寄せにくい。PKを取られる恐れがあるからだ。香川はそのへんを頭に入れてプレーしたほうがいい。

10日のアーセナル戦では香川の意識の変化がうかがえた。パスを盛んに呼び込んでいたし、周りにかなり指示を出し、守備にも必死に走り回っていた。チャンスをもらえているうちに自分を強烈にアピールしないと生き残れないという危機感が強くなっているのかもしれない。あれほど必死な香川を見たのは久しぶりだ。

上昇気配のマンU、優勝は難しいか

モイズ監督のパワー重視のサッカーに香川のプレーはなじみにくい。そこに香川も気付いているはずだ。しっかりしたサッカー観を持っている選手なので、「なぜ、そこで縦に蹴ってしまうの?」という疑問を持っているはずだ。

そういう中で、ある程度の妥協点を見つけてプレーしているのが現状だろう。とにかく、いいプレーをし続けないと、またベンチからも外されてしまう恐れがあるのだから、大きな試合で点を取るなど明らかな結果を残す必要がある。

何とかマンUは5位まで上昇してきたが、優勝は難しいと思う。攻撃陣はコマが豊富だが、DFラインがもろすぎる。ファーディナンドもビディッチもスモーリングもエバンスもトップクラスの力がない。来季に向けてCBの補強が必要だろう。

V候補はチェルシー、CBが決め手に

首位に立つアーセナルは新戦力のエジルに負うところが大きい。エジルがどこまで好調を維持できるかにかかっている。前節、マンUとの大一番に敗れたように、ここぞのときに勝ちきれないのが気になる。いいサッカーをするが、勝負弱いというのがチームカラーのようになってしまっている。

では、どこが優勝するのかというと、モウリーニョ監督が復帰したチェルシー(現在4位)のような気がする。ここまでは欧州CLに重きを置いてきたが、決勝トーナメント進出に大きく前進したので、ここからは国内リーグに力を入れると思う。マンU、アーセナルと比べるとCBに力があるのが決め手になるのではないか。

(元J1仙台監督)

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