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レース目前、マラソンで勝負強い人の5つの傾向

ランニングインストラクター 斉藤太郎

11月下旬から12月上旬にかけては1年の中で最も多くのランナーがフルマラソンに出場するシーズンです。私は実業団の指導者から、多くの一般ランナーを指導する立場に移って12年になりますが、レースを目前に控えてランナーはどういう心理に陥りやすいのか、どういう人が成功を収めるのかといった全体像が見えてきました。今回はレース本番で良い結果を出せる人、そうでない人の傾向を比べてみたいと思います。

物の力や人の助けに依存しすぎない

これまで重ねてきた練習の成果を発揮するために大切なのは、何事にも平常心を保ち続けることです。今年の夏の甲子園、初出場で優勝した前橋育英高の荒井直樹監督は「凡事徹底」が座右の銘だそうです。特別なパフォーマンスを発揮するという事ではなく、非日常の大舞台に立っても、いかに普段通りの事ができるかどうかが勝負なのです。

ランナーの中には百点満点の結果を狙うあまり、レース直前期に特別なことをしようとする人も見受けられます。普段はしたことのないような練習のパターン、食生活などに手を出してしまいます。また緊張が高まったり精神的に追いつめられたりするために、そうなってしまうこともあります。物事が手につかず、普通を貫くことがなかなかできません。

平常心を保てない人の特徴として「○○依存」が挙げられます。力を発揮するためには、ストレッチなど自らのケアで疲れを抜くとか、コンディションを整えていくことが本来の姿ではないかと思います。ところがマッサージへ通う頻度が増えたり、サプリメントに頼ったりということになりがちです。

ある程度までは必要かもしれませんが、物の力や人の助けにあまり依存しすぎると精神的には弱くなります。マラソンは最終的には体が資本、自分自身が戦う武器となる競技です。自分で自分を磨き上げるということの大切さを見失わないようにしてください。

練習不足でも次につながる走りはできる

トレーニングで身に付く走力をお金に例えると、財布にお金をためていく時期はレース2週間前あたりで終了。ここまでにいくら貯金しようと決めて練習してきたはずです。ここからはそのお金をレース当日うまく使い切るための練習になります。もう増やすことは考えるべきではありません。

むしろ練習しすぎて財布が破けでもしたら、お金が落ちて減ってしまうこともあります。目標額に届いていないと自覚しているのでしたら、レースではそれなりの計画的な使い方をしてください。

万全ではないかもしれない、でもそれをきちんと自覚した走り方を貫く。そんなマラソンにも楽しみ方があるはずです。それも勇気だと思います。貯金不足ながらもお金を使い切る走り方ができたら、必ず次につながるものです。

自分の力量(たまったお金)を自覚して、うまく使い切る戦術を立てる人は成功を収めます。その都度、自分の中での快走を重ねられています。

練習の成果を発揮する晴れ舞台で一斉にスタート(第3回大阪マラソン)=共同

財布の中身は増やせないのに、レースが近づいてきても練習量を落とせない人、もしくはレース想定タイム通りに走るなど質の高いトレーニングによって安心したいという気持ちが強い人はレースにピークを合わせられません。調整練習とは何か、鍛える期間の練習との違いは何か、いま必要なことを見失ってはいけないということです。

調整練習については、連載の前回「本番前2週間、フルマラソンで力を出し切る調整法」(2013/10/24)も参考にしてください。

あれこれ食べ過ぎは失敗のもと

レース直前期の食生活でも平常心。いつも通りの食事を続けていくべきだと思います。レース前だからといって、これは絶対に食べなくてはいけないという類いの物はありません。数日前から炭水化物を中心にする(カーボローディング)程度で十分です。

マラソンを走る主なエネルギー源となるグリコーゲンを体内に蓄えるためのカーボローディングですが、度を超した取り方で胃がもたれてしまったという失敗例もよく耳にします。いつも通りという点では、競技選手でもレース前夜に生ビール1杯くらいは飲むことも珍しくないです。

あれを食べてはダメ、これもダメ、ダメだらけで自滅してしまう人がいます。反対に、うたわれている効能に引かれて、あれは良い、これも良いと何でも取ってしまう人。一つ一つの効能は良いかもしれませんが取りすぎて失敗するパターンです。体の中では大変な化学反応が起きているのではないでしょうか?

当日のレース会場などでも、たまたま配られたものを食べてしまうということがあります。本当に必要な物はあらかじめ自分で持って行って取るようにしましょう。長い時間をかけて仕上げてきた結果を出すレース。行き当たりばったりの行動でダメにしたくはないですよね。

体を動かすことで疲れを抜く

本番までに疲労を抜く方法でも成否が分かれます。42.195キロ完走のために高めてきた体力、もはやちょっとやそっとのことで疲れてしまうような体ではないはずです。長距離ランナーの体は、体を動かし筋肉をポンプのように伸縮させることで血液が体中を循環し、老廃物が除去されて疲労が抜けやすくなっています。じっとしていても、なかなか疲労感は抜けてくれません。

練習の質と量を少しずつ減らしていくことで疲労を抜く、走ることや歩くことは生活の中に最後まで自然に取り入れながらレースを迎える。こんなスタイルを苦ではなく当たり前に続けていれば快走につながります。

横たわって寝ることで疲れを取りたい、あまり外へは出たくない、少しでも動くと疲れてしまうような気になっている。こんな状態では戦う前から既に負け戦です。レース前の週末こそ30分程度の散歩でもいいので、外へ出て体を動かすことで疲労を抜きましょう。

苦闘の末、歓喜のゴールにたどり着く(第8回湘南国際マラソン)

スタート前、一つ一つの行動に自信を持って

いよいよレース当日、スタート会場入り。受け付けを済ませ、落ち着けて冷えない場所を探して自分の拠点とします。ナンバーカードをウエアに取り付けて身なりを整えた後は、スタートまでの時間を考慮しつつ、ストレッチをするなどして気持ちを落ち着かせましょう。

ここまできたら「風林火山」の心境。林のように心静かにスタートを待ち、山のようにどっしりと構えましょう。走り出したら風のように速く。終盤になるほどライバルたちを追い抜き引き離し、侵略すること火のごとくゴールしてください。

レース会場ではスタート2時間前など、どんなに早い時間に到着してもジョギングをしている選手がいます。それを見てにわかに「自分も走らねば」と焦ったりしないこと。周りに左右されて動くことのないように気をつけましょう。一つ一つの行動に自信を持って自分のやり方でスタートに備えてください。

ウオームアップの必要性とポイントについては、連載の「いきなり走り出すとケガ ウオームアップ入念に」(2013/10/10)でお話ししました。レース直前のウオームアップでは体を動かすとともに、自分と対話をしながら気持ちを高めていきましょう。

ゴール見据えてストーリー組み立て

号砲とともに一斉にスタート。市民マラソンというのは人間の集団大移動、川の流れのようなものです。人の群れの流れに乗りながらどれだけ自分を見失うことなく、ゴールを見据えて自己コントロールできるかがカギとなります。自分のレースの流れを組み立てていき、自分なりのストーリー展開を思い描きつつ走りたいものです。

まだゴールは先だというのに、周りのランナーと抜きつ抜かれつの小さな戦を繰り返す人がいます。たまたま横に並ばれた相手が気になって仕方がない人、自分の走りに集中できない人も。無駄な動きになってしまったり、エネルギーを大量消費したりします。

高速道路でもこんなムラのある運転をするドライバーがいますよね。終盤になって、いかにあの時の小競り合いが意味のないものだったのかを悟ることでしょう。2時間後、3時間後も同じペースで走り続けている自分をイメージして、序盤の無駄な動きを極力省くようにしましょう。

つらいときには都合よく考える

レース終盤は肉体的にも心理的にも苦しくなってきます。自分の中に「言い訳を用意するような自分」と「それでも頑張り通そうという自分」とが現れてきて葛藤に。走り出しはそうでもなかったのに、1キロごとの距離表示がなかなか見えてこなくなる……。

前にも紹介した村上春樹さんのエッセーにある言葉「走り続けるための理由はほんの少ししかないけれど、走るのをやめるための理由なら大型トラックいっぱいぶんはある」。この言葉に共感したランナーは本当に多いようです。誰しもスタート時に期待していた輝かしい結果、それに向かうモチベーションをどこまで維持できるか?

「あと5キロ『も』……」と考えるのではなく、「あと30分の『辛抱』」「皇居1周『だけだ』」と考える方法もあるでしょう。つらくなってきた時に、ただ現状をつらいと認識するのではなくて、都合よくイメージしやすい形で自分に言い聞かせられる人は強いと思います。

<クールダウン>ウエア選び、終盤の気候をイメージ
 夏場は薄着で荷物が少なくて済みましたが、これからの季節はウエアもかさばるようになります。私は出張時には「ランニングにも使えて、地味である」シューズやジャケットで移動するなど、荷物を減らす工夫をしています。
 レースに向かう時の荷物のサイズは実に個人差があります。どうにかなるだろう派はリュック程度とすごく身軽。一方で色々な状況を想定してしまう思慮深い派は大きなドラムバッグ。重くてかさばるかもしれませんが、ウエアは「快晴で走りやすい時バージョン」と「寒い雨天バージョン」の2通りくらいを想定して準備することをお勧めします。
 また内陸部でのレースでは、スタート時の朝9時ごろは冷え込むものの、3~4時間後のお昼を過ぎるころには10度近く気温が上がることもあります。スタート時の感覚だけではなく、レース終盤の気候をイメージして作戦を立ててみてください。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)など。

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