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ソフトバンク長谷川、長嶋の姿だぶる打撃の求道者

川上哲治氏が10月、亡くなった。振り返るに、戦後のプロ野球の発展はこの「打撃の神様」に近づこうとする猛者たちの奮闘が下地にあった。一昔前では榎本喜八に張本勲、現代ならイチローや内川聖一。そんな「安打製造機」の系譜に加わろうかという打者がまた1人現れた。今季、打率3割4分1厘、198安打でパ・リーグの首位打者と最多安打のタイトルを獲得したソフトバンクの長谷川勇也(28)だ。

2試合連続で無安打、わずか6度

今季最終盤、史上6人目のシーズン200安打達成は秒読み段階に入っていた。142試合目となる10月3日の西武戦で2安打し、残り2試合であと2本に。ところが、4、5日の日本ハム戦は快音が響かず、あえなくタイムオーバー。

消化試合なら、打席が多く巡る1番を打つこともあり得たが、チームはクライマックスシリーズ(CS)進出の可能性を残しており、定位置の3番に固定された(10月4日は1番中村晃と2番今宮健太が5度打席に立ち、3番長谷川以下は4度だった)。CS進出と個人記録の二重の重圧がスイングを微妙に狂わせたのか。チームは4位に終わり、結局、一兎(いっと)をも得られなかった。

長谷川の打撃成績
試合安打本塁打打率
2007公式戦出場なし
 0871524.235
 091431597.312
 101341133.255
 111251154.293
 121261124.278
 1314419819.341

それでも、年間200安打が手の届くところまでいった事実は色あせない。今季、2試合連続で無安打だったのはわずかに6度。シーズンを通じて休止状態がほとんどなかったことからも、長谷川の生産性の高さがうかがえる。

安打量産の秘訣は「間(ま)」にあるといえるだろう。タイミングの取り方として、投手が投げた後にステップする打者が多いなか、長谷川は投手の手から球が離れるか離れないかという段階で、もうステップを終えている。

どちらがより有効かは別にして、長谷川の打法ではステップ完了からスイング開始までの「静」の時間を長くとれる分、じっくりボールを見ることができる。

ソフトバンクの藤井康雄打撃コーチの話。「ボールを十分に呼び込んで、体に近いところで(強い力で)打てる。外角、真ん中、内角と、それぞれについて自分のミートポイントをしっかり把握している。そこにきたら(確実に)打てる、という感覚の持ち主」

「構えと、振り出しの角度」重視

左打ちの長谷川は捕手寄りの左足に重心を置いて打つスタイルを採る。それが証拠に、内角球をさばく際に右足が浮くことも。後ろ足を軸に体をコマのように回転させて打つ長谷川に、藤井コーチは往年の大打者をだぶらせる。「長嶋茂雄さんみたいなイメージ。(前側の足を)アウトステップしながら、後ろ側の肩が残って(体がぶれずに)打てる。山本浩二さんもそうだった」

加えて、「今の形が確立すれば、毎年コンスタントに成績を残せるものを持っている」とも。安打製造機の系譜の仲間入りもそう遠くないかもしれない。

好打を続けるにあたっては高い確率で球をバットの芯に当てることが重要になるが、長谷川は「芯に当てようとは思っていない。スイングをしたら芯に当たっているということ」と話す。たとえ芯に当てることができても、小手先の振りなら強い打球は飛ばない。まずは全身全霊のフルスイングがあってこそ、との信念がある。

そのフルスイングで大事にしているのは「構えと、振り出しの角度」。構えた際、昆虫が触角を動かすようにバットを揺らめかすのも「間」をとる作業の一環。早めにステップしてじっと獲物を待ち、始動時のバットの傾きが理想とぴたり重なった次の瞬間、鮮やかなクリーンヒットが生まれる。

本拠地のヤフオクドームで試合があった日、長谷川の帰りは遅い。その日の結果にかかわらず、入念に打撃フォームを点検するからだ。決勝二塁打を含む3安打でチームのサヨナラ勝ちに貢献した9月15日の日本ハム戦の後も、「今が良ければいいというやり方はしたくない。これで明日しっかり挑める、と気持ちが固まるまでは(帰れない)」と話し、居残り練習へと向かった。

打撃を極めんとする姿勢から、求道者の形容がふさわしい。そんな長谷川の心髄は今年のオールスターゲームでもうかがえた。7月20日の第2戦(神宮)で3安打し、敢闘選手賞を受賞。セ・リーグの山口鉄也(巨人)から打った左越え二塁打について、「(3本の中で)一番良かった。レフト方向へ強い当たりをと思い、狙い通りに打てた」と振り返った。本塁打を打ってMVP(最優秀選手)を、と気が大きくなる選手が多いなか、お祭りムードに流されずに自分の打撃に徹する姿勢が光った。

チームメートの内川と切磋琢磨

山形・酒田南高、専大を経て2007年に大学生・社会人ドラフト5巡目でソフトバンクに入団、3年目の09年にはパ・リーグ4位の打率3割1分2厘の成績を残した。4年目から昨季までの3年間はいずれも打率2割台と伸び悩んだ鬱憤を晴らすかのように、今季、一気に飛躍。その要因について、藤井コーチは「昨年までは逆方向(=左翼方向)に打つ意識が強かったが、今年は引っ張ることもできて、ヒットゾーン(の角度)がより90度に近くなった」と説明する。

長嶋が英雄になった背景に同僚の王貞治の存在があったように、長谷川の活躍もチームメートの内川との切磋琢磨(せっさたくま)に負うところが大きかった。ライバルとしのぎを削ることでどんな打者に成長していくのか。新たな職人の歩みを、打撃の神様も天から目をこらして見守ることだろう。

(合六謙二)

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