トヨタ・ホンダがライバル、大和ハウスがロボットで描く未来
樋口武男・大和ハウス工業会長に聞く

――新規事業に力を入れています。
「あす不可欠の」事業を創出していくことをスローガンにしたい。この表現は、安全・安心、スピード・ストック、福祉、環境、健康、通信、農業の頭文字から付けた。
新規事業としての種をまいている代表例がロボットだ。現在、寝たきりの人の排せつを助ける「マインレット爽(さわやか)」や、歩行の機能回復を支援する「HAL」、セラピーに役立つ「パロ」などを扱っている。
日本の人口に占める75歳以上の比率は現在12%台だが、2025年には18%台、2055年には27%近くまで上昇する見通しだ。介護する側もシニアという、老々介護が迫っている。少子高齢化時代に貢献できるものを提供していく。
――具体的にどう拡大していきますか。
ロボットの機能として(1)高齢者・障害者の自立支援(2)女性・高齢者の社会支援(3)住宅空間での生活支援――が考えられる。これまでマインレットの開発会社や、HALの開発会社に出資してきたが、今後は提携先を通じた製品づくりを一段と強化する。

社内の研究所を生かして自社開発品も増やしていきたい。大手IT企業、ベンチャー、大学などから事業化の相談が相次ぎ寄せられており、案件に応じて資金も拠出していく。
個別の製品でいえば、HALはすでに病院や介護施設など160施設に供給している。今後は自宅でも利用しやすい新型HALの開発を急ぐ。現在は使用時に専門家が取り付ける必要があるが、小型で使い方が簡単な製品を投入し、家庭でも使えるようにする方針だ。
マインレットは自分自身でも、使い勝手を確認した。寝たきりの人は国内に140万人いるともいわれる。介護する側も大変だろう。実証実験を繰り返しており、より利便性を高めたものに改良し、海外にも販売していく。海外では現地のパートナーと組んで売っていくことになる。ロボット事業では、トヨタ自動車、ホンダ、パナソニックなどそうそうたる企業が競合相手になる時代が来てもおかしくない。
製品名 | 特徴 | 開発組織 |
HAL | 歩行機能の 回復支援 | サイバーダイン (茨城県つくば市) |
パロ | 癒やし効果 を考えたア ザラシ型 | 産業技術総合研究所が開発、知能システム(富山県南砺市)が商品化 |
ポポ | 歩行のリハ ビリ支援 | モリトー (愛知県一宮市) |
マインレット爽 | 自動排せつ処理 | エヌウィック(仙台市) |
モーグル | 狭小空間の点検 | 大和ハウス工業 |
シニアポーズ | 老いの疑似体験 | 大和ハウス工業 |
――ロボットのほかに、農業事業も始めました。
プレハブ住宅のノウハウなどを生かし、アグリキューブの名称で植物工場ユニットを製品化した。価格は550万~850万円程度するが、月1棟のペースで売れ出している。
老人ホームが入居者の交流の手段に使ったり、社会福祉法人が授産施設として役立てたりしている。屋外設置型以外に、最近では室内設置型のアグリキューブも開発し、大学に遺伝子組み換え野菜を研究する目的で納入した。
郊外型レストランや高等専門学校などからの引き合いもあり、潜在市場は大きいとみている。海外販売も視野に入れている。将来は農家向けに価格を抑えた製品を投入するほか、自社で農産品を生産することも念頭にある。
――2013年3月期の連結売上高は2兆0079億円。急速に規模を拡大しています。
もともと今期を最終年度とした第3次の3カ年計画では、2兆円到達は今期の予定だった。ところが1年前倒しで前期に達成できたので、新たに今期を初年度とする第4次の3カ年計画を策定中だ。第4次の最終年度にあたる16年3月期の計画は、手堅く見積もって3兆円を少し下回る数値で公表することになりそう。ただ実際には3兆円突破を目指したい。

創業100周年の2055年には10兆円を達成できる下地をつくっていく。種をまいている新規事業も、もうひとつ先の第5次3カ年計画の段階では1000億円単位の事業になっているのではないか。
国内の人口は2060年に8600万人まで減る半面、世界人口は増え続け100億人に近づくだろう。現在、海外売上高は百数十億円だが、10兆円の段階ではグローバル化が進み、国内3兆5000億円、海外6兆5000億円の内訳をイメージしている。もっとも2055年だと、さすがに自分の目で達成したことを確認できない。後輩たちには、20年くらい前倒しで達成してもらいたいところだ。

――フジタ、コスモスイニシアなどM&A(合併・買収)を繰り返してきました。10兆円体制に向け、自前での事業育成と並行して、国内外で大型のM&Aを増やしていきますか。
「次はどこを買うんですか」と聞かれることが増えたが、M&Aありきで考えているわけではない。互いに利点がある組み合わせの場合だけ踏み切る。
人材の活用こそ成長の源泉だ。人事はひらめきが大事。オーナー(大和ハウス創業者の石橋信夫氏)も経験に裏打ちされたカンを大切にしていた。若手でもこれはと思う人材がいたら、どんどん幹部に登用していく。次世代リーダーを育成するために始めた大和ハウス塾も6年がたち、300人近くが学んだ。このうちグループを含めて役員クラスになった者が30人を超える。
もちろん実績が3年続けて横ばいにとどまったら、残念ながら交代してもらう。仮に登用した人材の一部が成果をあげられなくても、そんなことで会社はつぶれない。むしろやる気あふれる若手の能力を生かした方が、どれだけ会社のためになるか分からない。
(電子報道部 村山浩一)