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ダイヤモンドの人間学(広澤克実) プロ野球、本来のドラフトに立ち返れ

10月24日に行われたプロ野球恒例のドラフト会議で、今年のパ・リーグ最下位の日本ハムは、3回連続で抽選を外してしまった。「戦力均衡」がドラフトの主目的ならば、その機能を果たしているのか疑問である。ドラフトを本来の姿にするためにはどうすればよいか、方策を探ってみたい。

フォークボールとスプリットの違いは

本題に入る前に、近ごろやたらと新しい球種が増えて「違いがわからない」という声をよく耳にするので、ここで触れておきたい。

10月27日の日本シリーズ第2戦、楽天・田中将大と巨人・菅野智之の投げ合いを見ていた息子が言った。

「フォークボールとスプリットはどう違うの?」

言われて中継をみると、両投手の持ち球が紹介され、田中の持ち球の中に「スプリット」という球種があり、菅野の持ち球の中には「フォーク」という球種があった。同じような球筋に見えるが、何が違って、なぜ呼び方が異なるのか、そんな疑問を抱くのは息子ばかりではないかもしれないと思った。野球ファンならフォークボールの投げ方ぐらいは知っているし、田中も菅野も指を開いて投げているので、視聴者も余計戸惑うことになる。

スプリットは正確に言うと「スプリットフィンガード・ファスト・ボール」(略称SFF)という。

「スプリット」は「分かれる、離れる」という意味で、ボウリングにおいて第1投後残ったピンが離れている状態や、ボクシングの判定が分かれたときに「スプリット・ディシジョン」といった使われ方をする。また、離婚といったケースでもスプリットという単語を用いることがある。

指を開けば全て「スプリット」

野球の投球の場合は「指(人さし指と中指)が離れている」という意味で使われ、「SFF」は「指を離して握って投げる速球」ということになる。要するに、指が離れていればスプリットというわけだ。解説者の中には指の開きが小さいとスプリットで、両指でボールを挟むくらいまで大きく開くとフォークボールと説明したり、変化の小さい方をスプリット、大きい方をフォークボールと説明したりする方もいる。しかし、そもそも指を開けば全て「スプリット」なのである。

「フォークボール」の由来はボールを握った様子がフォークで突き刺した様子にみえることや、指を離した様子がフォークの形に見えるからだという。つまり、こちらはボールを握った形がどう見えるかという印象や見え方を基準にした表現で、ボールの変化や指の開きの度合いは関係ないのだ。

野球界の中だけで通用しても…

もっとも、フォークボールの元祖といわれる明治大学の大先輩、杉下茂さんによるとフォークボールとは無回転で揺れながら落ちるのが"本物"だそうだ。揺れているかどうかが肝心で、その意味では今の投手が投げているものはどれも本物のフォークでなく、みんなスプリットだという。あくまで、杉下さんによるフォークボールの定義である。

とにもかくにも、指を離して投げるという意味でフォークボールはスプリットの一種ということになる。

フォークボールにもスプリットにもそれなりの由来と定義はあるわけだが、見た目の印象は人それぞれだろうし、そもそもボールを握った手はグラブで隠れてしまっていて、一般のファンからすると非常にわかりづらいと思う。野球界のなかでは使い分けているつもりでも、混乱が生じるのは当然だろう。

このように野球には業界内では通用するが、一般的にみると「どうして?」ということが多い。数ある「どうして?」の中でドラフト制度も不可解な制度かもしれない。

逆指名時代の影響、勢力図に関係

ドラフトはそもそも戦力均衡と、高騰していた新人の契約金を抑えるために1965年に始まった制度であり、1回目に堀内恒夫氏(巨人)や鈴木啓示氏(近鉄)らが指名された。

その後制度は何度も変わり、93年以降、大学・社会人選手の「逆指名」「自由枠」あるいは「希望枠」という制度ができて、ほとんど本来のドラフトの体をなしていない時期があった。

自由枠はドラフト前に高校生以外の大学・社会人選手らを2人まで自由競争で獲得できる制度。「自由競争」の揚げ句、契約金の上限を破るケースや、裏金を与えて選手を囲い込むなどの不正の温床になったのは周知の事実だ。

2006年限りでこうした制度は廃止されたが、逆指名時代の影響は今のプロ野球の勢力図に大きく関係している。逆指名を廃止した後も本来の機能が回復したか、となるといまだに疑問は残る。

日本のプロ野球のドラフトは08年以降、1巡目が入札式 、偶数巡目がウエーバー順で奇数番目が逆ウエーバー順になっている。2巡目がウエーバー順、3巡目が逆ウエーバー順、4巡目がウエーバー順、5巡目が逆ウエーバー順となっていく。

弱いチーム優遇、ウエーバーの狙い

ウエーバーとはその年の最下位のチームから順に指名するもので、米国のプロスポーツのドラフトはほとんどこの方式である。逆ウエーバーなら1位のチームから指名することになる。

セ・リーグとパ・リーグの優先順位はその年のオールスター戦の結果決まる。オールスター戦で勝ったリーグの最下位がウエーバーの最初に指名し、負けたリーグの優勝チームが最後に指名する。

今年のオールスターは1勝1敗1分けだったのでクジを引き、パ・リーグが優先されることになった。従って、今年のドラフトのウエーバー順は1番目が日本ハムで12番目が巨人となった。

弱いチームを優遇するのがウエーバーの狙いなのだが、現在のドラフトで問題なのはこの制度の適用が2巡目、つまり全体指名の13番目の選手からということだ。肝心な1巡目は各球団ヨーイドンの入札方式なのだ。

日本ハムは2巡目で今年の有力新人の"13番目"の選手を優先指名できたが、1巡目の指名は重複して抽選となってしまった。松井裕樹(桐光学園)の抽選で敗れると、以後も柿田裕太(日本生命)、岩貞祐太(横浜商大)を逃し、やっと渡辺諒(東海大甲府)を獲得した。つまり4番目に欲しかった選手を獲得したということだ。

1位指名、全選手が活躍できるか

1位指名の12選手がすべて活躍するとは限らない。将来性に期待がかかる高校生から即戦力とされる大学生や社会人までが混在するなか、実力を見定めるのは難しいし、渡辺君には奮起してもらいたい。

だが、日本ハムが結果的に1巡目の中で12番目に近い選手を指名した形になったのは確かだ。2巡目は全体の13番目に相当する選手を指名したものの、3巡目は逆ウエーバー、4巡目がウエーバーなので、それぞれ36番目、37番目の選手を指名した形になった。

ちなみに指名権の優先度でいえば、最下位のはずの巨人は1巡目の石川歩(東京ガス)を外したが、2番目に欲しかった選手であるはずの小林誠司(日本生命)を指名できた。一番後になる2巡目では全体の"24番目"の指名となったが、3巡目は真っ先に選べるので、全体の"25番目"を指名したことになる。果たして最下位のチームは優遇されたと言えるだろうか。

米国のドラフトは「完全ウエーバー制」である。日本のドラフトは2巡目以下の中途半端なウエーバー制であり、本当に戦力均衡を目指すならば1巡目から完全ウエーバー制にすべきだ。

FA取得年数の短縮も一案

完全ウエーバー制のもとで、意中の球団に指名されなかった選手がかわいそうじゃないかと言い出す人がいるかもしれない。しかし そういう選手のためにある制度がフリーエージェント(FA)なのだ。一定期間ドラフトで指名された球団で活躍し、晴れてFAで意中の球団に行けばいい。完全ウエーバー制に伴い、FA取得年数(現行は原則8年)を短縮するのもいいだろう。

仮にFA取得年数が6年になれば、意中の球団からのドラフト指名を待つために1年浪人したり、進学したりということは少なくなるはずだ。巨人の長野久義は大学卒業時の06年秋のドラフトで日本ハムに指名されたが、社会人のホンダに進んだ。ホンダからプロ入りするときもロッテの指名を受けて断っており、意中の巨人に入団したのは10年、26歳になる年だった。もし最初に指名された日本ハムに入って6年でFA権を取得していれば、今ごろ普通に巨人に入っていたわけだ。FAまでの期間を短くすることで、過去に起こったようなドラフトの悲劇もおおむねなくなるであろう。

おかしな「田沢ルール」

「田沢ルール」というおかしなものもある。ワールドシリーズでも活躍したボストン・レッドソックスの田沢純一が、プロ野球を経ずに渡米した際に、日本側は特別ルールを作った。海外に"直行"した選手は向こうの球団を退団しても2~3年間は日本のプロ野球では受け入れないというルールだ。アマチュア選手の流出に歯止めをかけるためなのだが、選手にとって相当な制裁措置といっていいだろう。

一般の人からすると、メジャーに直行するのも、日本の球団への入団を見送るのもプロ野球を蹴ったという点では大差ないことだろう。このような理論を押し通すなら、日本プロ野球のドラフト指名を受けて入団しなかった選手も「田沢ルール」に準じて扱うべきだ、と考えるのは自然である。

1年浪人するケースと、メジャーに行くケースの扱いがあまりにも違うのは理不尽で、特定の球団の利益になるだけである。

おぼつかない戦力均衡

また、高校生と大学生はプロ入りするために志望届を出すルールになっているが、プロ入りの意思を表明しながら、意中の球団でなければ入団しないというケースがみられる。これは一般の会社に当てはめると「採用されても意中の部署に配属されないときは入社しません」と言っているようなものだ。

「嫌いな部署でも黙って働け」というのでは、プロ野球もあまりに傲慢というのであれば、これもやはりFA制を改革し、移籍の自由を早く認めることでバランスは取れる。

 「希望球団以外ならメジャーへ行く、浪人する」と言われて、球団が指名に及び腰にならざるを得なくなった現状をみれば、戦力均衡など到底おぼつかない状態である。それに加え、潤沢な資金で逆指名選手を獲得できた時代の選手が主力となって活躍しているとなれば、その制度を利用できたチームとできなかったチームの差は歴然である。

アメリカンフットボールのNFLでは選手年俸総額に上限を設ける「サラリーキャップ制」を採用し、貧乏チームでも優勝できるシステムになっている。全32チームが優勝のチャンスをできるだけ等しく与えられることで、どのチームのファンも夢と希望を持てるのだ。

逆にリーグの戦力が均等になったことで連覇ということはめったに起こらなくなった。04、05年にペイトリオッツがスーパーボウルを連覇して以降、毎年、王者が変わっている。

広がるリーグ内の"格差"

一方、日本のプロ野球、特にセ・リーグではここ数年上位球団の顔ぶれが決まってきている。今年広島が16年ぶりにAクラスになって話題になったが、これはリーグ内の"格差"が広がっていることの証拠にほかならない。

このままでプロ野球がファンの興味をいつまでひき付けていけるのか、ドラフト制など改善すべきところは多い。

(野球評論家)

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