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「ミラクル」Rソックス、必然のWシリーズ制覇

スポーツライター 杉浦大介

前年の地区最下位から一気に"世界一"へ――。米大リーグのワールドシリーズでカージナルスを下し、メジャー有数の名門球団レッドソックスの奇跡の快進撃は完結した。ア、ナ両リーグの最高勝率チーム同士のハイレベルな最終決戦を、レッドソックスが制した要因はどこにあったのか。そして、開幕前は低評価だったチームの勢いはどうやって生まれたのか。

101歳のフェンウェイ・パークでV決定

「(フェンウェイ・パークを)"ベースボールの聖地"と呼ぶ人に百パーセント同意する。特別なスタジアムだ。1918年を最後にこの球場でワールドシリーズ覇者になっていないのだから、僕たちはみんな今夜の試合の重要度は理解しているよ」

3勝2敗と王手をかけて迎えた10月30日の第6戦前、シェーン・ビクトリノは目を輝かせながらそう語った。

2004、07年にもワールドシリーズを制しているレッドソックスだが、その2度とも最終戦は敵地。今年で「101歳」を迎えたフェンウェイ・パークでの優勝決定となると、まだベーブ・ルースが投手だった時代まで遡らなければならない。

そんな歴史的背景も手伝ってか、第6戦のボストンは試合開始前からお祭りムード。選手たちも期待に応え、四回までに6点をリードする一方的な展開となった。中盤以降は"優勝のかかった試合"というよりも"一大パーティー"の趣となり、6-1の快勝でレッドソックスが8度目のシリーズ制覇を果たした。

打率6割8分8厘、オルティスMVP

長いシーズンの結末としてはあっけない感もあった。だが、4月のボストン・マラソン爆破テロ事件以降、全米が注目する「アメリカのチーム」となったレッドソックスの戴冠式としてはふさわしかったのだろう。試合後もほとんどのファンがスタジアムに残って表彰式を見守り、歴史的な夜を祝った。

最優秀選手(MVP)を獲得したのはデービッド・オルティス。今シリーズを通じて何と打率6割8分8厘(16打数11安打)、25打席で19度の出塁と驚異的な数字を残し、全米のベースボールファンに強烈な印象を残した。

好投・好守、打者は日替わりで決勝打

オルティスはワールドシリーズに3度出場し、通算打率4割5分5厘で歴代トップ(50打席以上)。超高校級の選手が地方大会で残すような数字を最高峰の舞台でたたき出し、「現代最高のクラッチヒッター」の称号は揺るぎないものになったといってよい。

この「ビッグ・パピ」(愛称)を除くと、レッドソックスの平均打率は1割6分9厘。とはいえ、今回のワールドシリーズではオルティスだけが孤軍奮闘したイメージが残ったわけではない。

投手陣ではエースのジョン・レスター(2勝、防御率0.59)、2番手のジョン・ラッキー(1勝、同2.57)が役目を果たし、救援陣では上原浩治、田沢純一の日本人コンビも見事な働きをみせた。

打線でも第4戦ではジョニー・ゴームズ、第5戦ではデビッド・ロス、第6戦ではビクトリノが日替わりで決勝打を放ち、守備では遊撃手スティーブン・ドルーが好守でチームを救った。

「常に集中、小さなことをやり遂げる」

「自分が出場した中で最も特別なワールドシリーズだったかもしれない。ハートの強いやつらばかりだったからね。04、07年ほどの才能には恵まれていなかったけど、常に集中し、小さなことをやり遂げてくれる仲間たちばかりだった。こんなチームで勝てるというのは本当に特別なんだよ」

MVPトロフィーを手に記者会見場に現れたオルティスの言葉は、単なる外交辞令には思えなかった。実際にポストシーズンを通じて、いや、レギュラーシーズン中まで遡っても、今季のレッドソックスほどまとまりを感じさせたチームは珍しい。

69勝93敗で最下位に終わった屈辱的な昨シーズン後、レッドソックスは7000万ドル(約68億6000万円)近くを補強に費やした。ただ、獲得したのはビクトリノ、マイク・ナポリ、ゴームズ、ロス、ライアン・デンプスター、上原といった中堅クラスばかり。目玉選手が不在だっただけに、その補強効果に疑問を呈する声が多く出たのもやむを得なかっただろう。

爆破テロから立ち上がる市民とともに

しかし、そんな懐疑の視線をよそに、球団フロントは「ボストンでプレーしたいと思っている選手を集めた」と明言。実際にビクトリノ、ゴームズ、ロスといったハートの強さで知られるベテランたちは、熱狂的なファンが集うフェンウェイ・パークで生き生きとプレーした。

社会的事件とスポーツを安易に結びつけたくはないが、ボストン・マラソン爆破テロ事件後、レッドソックスの戦いぶりが見るものに特別な力を感じさせたのもまた事実である。事件後初の試合となった4月20日のセレモニーで、オルティスが街の復興を高らかに宣言。それ以降、「ボストン・ストロング」は全米に知れ渡るキャッチフレーズとなった。

「ボストンを背負ったなんて思ってない。そうじゃなくて、僕たちが人々の背中に飛び乗ったんだ。彼らの前で諦めるわけにはいかなかったからね」。そんなゴームスの言葉に、真実が隠されているのだろう。

昨季の屈辱の後で再起に燃えていたダスティン・ペドロイア、ジャコビー・エルズベリー、レスター、ラッキーらに、もともとモチベーションの高さで知られたプロ集団が加わった。そこに悲劇直後のボストン市民の後押しが重なり、ノリの良い選手たちはさらにそろいの口ひげまでたくわえて気勢を上げた。こうして様々な要素が連なることで、素晴らしいケミストリー(化学反応)を誇るレッドソックスがついに誕生したのである。

後半に救援陣攻略、プランを着実遂行

もちろん、だからといって、特にプレーオフでは楽な戦いが続いたわけではない。タイガースとのリーグ優勝決定シリーズでは、第2戦の八回裏にオルティスの同点満塁本塁打が飛び出すまでは2連敗の危機にさらされていた。ワールドシリーズでも第3戦を終えて1勝2敗とリードを許し、第4戦でゴームズが勝ち越し3ランを放つまでは戦況は不利に思えた。勝負はほとんど紙一重に見えた。

しかし振り返ってみれば、試合後半に救援投手を攻略したそれらの起死回生の一発は、「ミラクル」ではなく「必然」だったのだろう。

今シーズン中、レッドソックス打線が1試合平均で相手投手に投げさせた球数は158でメジャー最多。プレーオフに入っても、辛抱強く相手先発に多くの球を投げさせるプランを冷静に遂行し続けた。

エース級投手の攻略が容易でなくとも、可能な限り早いイニングでの交代に追い込むことで活路を見いだすのが常とう手段。力の劣るリリーフ陣を引きずり出し、そこから逆転劇が生まれたことが偶然だったとは思えない。

「みんなが同じ目標を持って集まった」

レイズとの地区シリーズではデビッド・プライス、マット・ムーア、タイガース相手のリーグ優勝決定シリーズではジャスティン・バーランダー、マックス・シャーザー、ワールドシリーズではアダム・ウェインライト、マイケル・ワカといった球界を代表する好投手とばかり対戦し、同じ戦法で乗り越えてきた。

ワールドシリーズでは、七回以降までマウンドに立ったカージナルスの先発投手は第5戦のウェインライトのみ。オルティスの打棒だけでなく、抜群のケミストリーに裏打ちされたこの一丸の姿勢がなければ栄冠にはたどり着けなかったはずだ。

「去年からここにいた選手たちも、フリーエージェントで加わったものたちも、みんなが同じ目標を持って集まってきた。可能な限りシンプルに、勝利のすべを探すための準備を進めてきた。このチームには"ウイニングプレーヤー"が集まっているんだ」。ジョン・ファレル監督のそんな言葉も胸に響いてくる。

バランスの良さと真摯な姿勢で頂点に

バランスの良さと真摯な姿勢が売り物だった今季のレッドソックスは、デレク・ジーター、ポール・オニール、ティノ・マルティネス、マリアノ・リベラといった勝負師たちを軸にワールドシリーズ3連覇を果たした1998~2000年のヤンキースをほうふつとさせる。シンプルに勝利だけを追いかけ、正しい方法でプレーするチームに、今も昔も女神はほほ笑むもの。だとすれば、ボストンの成功はやはり必然の結果といってよかったに違いない。

フェンウェイ・パークでの95年ぶりの優勝決定が実現し、名門チームの歴史に新たな1ページが加わった。多くのことを自らの力で切り開いてきたとはいえ、地元での栄冠だけはタイミングの良さに恵まれた幸運だったのだろう。いや、このフィナーレは、1年間を全力で戦い抜いたチームとファンへの天からのご褒美であるように思えた。

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