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あなたは高所得者? 介護負担が大違いの新基準

年金280万円メドで検討進む

 高齢であっても収入が多い人には今よりもさらに負担してもらう。政府はこんな方向で介護保険制度の改革議論を進めている。限られた富裕層だけに関係する話ではない。大企業の元社員などで負担増になる可能性がある。どんな議論が進んでいるのか。どう備えていけばよいのか。

神奈川県に暮らす斎藤久さん(74、仮名)は元銀行員。年収は厚生年金と基礎(国民)年金の公的年金で約270万円。さらに銀行の企業年金が約190万円あり、合計約460万円。今は元気で悠々自適の生活だ。

この斎藤さんが要介護状態となり、介護保険を利用するようになったら、2015年度にも負担が今より倍増するかもしれない。現在、介護保険でヘルパーなどのサービスを利用したとき、利用者負担は使ったサービス費用の1割。これを一定所得以上の人は2割に上げることが検討されているためだ。

個人単位で判定

この「一定所得」の基準案として挙がっているのは合計所得金額が160万円以上もしくは170万円以上の人。合計所得金額とは各種収入から必要経費などを引いた所得の合計額。年金収入ならば公的年金等控除後の額となり、年金収入だけなら280万円以上もしくは290万円以上の人が当てはまる。

年金以外に事業収入があるなら、そこから必要経費を除いた額、会社勤めをしていて給料があるなら、給与所得控除後の額などを合計して、基準以上かどうかで判断する。また、世帯ではなく、個人単位で判定する。斎藤さんには国民年金約45万円をもらっている妻(72)がいるが、妻の負担は増えない見通しだ。

介護保険を利用するにはまず、介護の必要度合いの判定を受ける。中程度の判定である「要介護3」の人は現在、月平均約1万4千円を負担しているが、2割負担ならば約2万8千円に急増する。要介護状態は何年も続く場合があり、一時的な負担増では済みそうにない。斎藤さんは「仕方ないのかもしれないが、介護以外に医療費などもかかるので、蓄えがなければ大変になるのでは」と不安げだ。

この「一定所得」以上の基準に該当する人はどのくらいいるのだろうか。厚生労働省は合計所得金額が160万円以上の人は65歳以上の国民の約2割と推計する。

年金制度に詳しい特定社会保険労務士の東海林正昭さんは「個人の厚生年金と基礎年金といった公的年金だけで年280万円を超える人は最近はめったにいない」と話す。基準に該当し、2割負担となるのは公的年金に加えて別の収入が結構ある人と見る。斎藤さんのように大企業にずっと勤めていて、充実した企業年金ももらっている人、アパート経営などで不動産収入がある人などが該当しそうだ。

利用者負担が重くなり過ぎないように、介護保険制度では1カ月当たりの負担限度額が定められ、それ以上は払わなくてよい仕組みを設けている。この制度についても一部の高所得者については限度額を引き上げる。今は月3万7200円を4万4400円とする案が出ている。

こちらの高所得者の基準は2割負担の基準よりも高くなる見通し。公的医療保険制度でも現在は70歳以上の人が医者にかかった場合の負担は使った医療費の1割。ただし現役世代並みの収入(単身世帯で年収383万円以上など)があるなら、現役世代と同じように3割負担になる。これと同じ基準を使う方向だ。

貯蓄で備えを

このほかにも収入や資産に応じた負担増案がある。24時間365日体制で世話をしてもらえることから人気の介護施設、特別養護老人ホーム。この特養ホームに入居する際、低所得者には補助が出る。ユニット型と呼ばれる個室タイプのホームでは通常月13万円以上かかる費用が補助を受ければ5万円程度で入居できることもある。

ここで「世帯分離」という手法を使えば、世帯全体で結構な収入があっても、個人としては収入が少ないときに低所得者と見なされ、補助が受けられることが多かった。先の斎藤さん世帯の例なら妻が特養ホームに入居するとともに世帯分離すれば、妻の年金は少ないので補助を受けることができた。しかし改革案は世帯分離しても配偶者に住民税が課税されるだけの収入があれば補助対象外とする。

では本人も配偶者もあまり収入がなければ、すんなり補助を受けられるかというと、楽観はできない。預貯金や有価証券、不動産で一定以上の資産がある場合は認めないことも検討されるからだ。

少子高齢化が進み介護や医療などの社会保障制度の財政はますます厳しくなる。収入が比較的多い層などを中心に制度の使い勝手が悪くなる方向で見直しは進む。

ファイナンシャルプランナーの内藤真弓さんは「このような状況への対応の基本は貯蓄。不安だからといって、保険会社の民間介護保険などに加入するのは早計」と話す。貯蓄は様々な場面で利用でき、自由度が高い。一方、民間保険は保険金が出る要件が厳しいこともあり、お得とは言い難い。自分の健康に留意し、住んでいる地域で助け合えるような環境をつくっておくことなども大切になる。

介護保険制度の改革案は厚労省の審議会で検討のうえ、来年の国会に法案が提出される予定だ。(編集委員 山口聡)

[日本経済新聞朝刊2013年10月30日付]

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