強化と人気回復…中日、新監督・GMに両道託す
「やはり勝っていないと、優勝争いしていないとだめなのだろうか」。プロ野球・中日の球団関係者がつぶやいた。今年、同球団の主催試合の入場者数は5年連続減の199万8188人(72試合)。200万人割れは、実数発表の始まる以前の1995年以来で、97年のナゴヤドーム開場以降では初めてだ。
9月17日から始まったナゴヤドームでの今季最後の巨人3連戦は象徴的だった。ドル箱のカードにもかかわらず1、2戦目はともに入場者数が3万人を割り込んだ。胴上げの可能性があった巨人のファンが数字を押し上げていなかったら、もっと落ち込んでいたかもしれない。
■高木監督でも観客減に歯止めかからず
いくら勝ってもファンは増えない――。2011年のオフ、観客動員の不振は、球団初のリーグ連覇を達成した落合博満監督を退任させた理由の一つとされた。当時の落合ドラゴンズは、選手の故障などの情報発信を戦略として制限。ファンサービスに熱心でないなどと批判を浴びていた。
後任は岐阜市出身の大物OB、高木守道氏。高木監督は「Join us ファンとともに」のスローガンを掲げ、春季キャンプで自らマイクパフォーマンスを繰り広げるなど、ファンサービスに力を入れた。戦績の面でも、昨季は6月まで首位に立ち、クライマックスシリーズでは日本シリーズ進出にあと1勝まで迫った。それでも、入場者数の減少傾向には歯止めがかからなかった。
今季はセ・リーグの全5球団に対して負け越し、12年ぶりにBクラスに転落。入場者数は200万人を割った。弱いから客が減ったという解釈は確かにわかりやすい。
ただ減少数で見ると、約8万2000人というのは優勝しても10万人強減った10年とそう大きくは変わらない。中日に関しては、ファンの減少とチームの戦績に強い相関関係があるかは疑わしい。実際、ある球団幹部は入場者数が伸びないことについて「ナゴヤドームに目新しさがなくなったことが原因だろう」とも分析していた。
■フロント刷新、コーチは重厚な布陣
今回、白井文吾オーナーは、坂井克彦球団社長らフロントも入れ替えた。ゼネラルマネジャー(GM)として3年ぶりに球団に復帰する落合氏と、以前に対立していたことが背景にあるとされるが、営業面の不振だけでも陣容一新の理由としては足りる。新たに球団社長兼オーナー代行となったのは販売の経験が豊富な佐々木崇夫・中日新聞常務取締役広告担当。他の新役員にも親会社や関連会社の販売担当の名前がある。
チーム首脳は重厚な布陣で固めた。落合GMと、来季現役26年目となる谷繁元信捕手兼任監督を軸に、ヘッドコーチに落合前政権時代の参謀だった森繁和氏、バッテリーコーチに元広島監督の達川光男氏を据えた。谷繁新監督は就任記者会見で「点をやらない、負けない野球」を掲げたが、落合前政権のコーチが戻ってくる今回の陣容はそれにかなうものだろう。
■外国人やFAで新戦力補強がカギに
今季はチーム防御率が3.81と前年の2.58から大幅に悪化した。統一球が飛ぶように仕様変更され、打者優位となった影響は全チーム同様だが、首位の巨人や、Aクラス入りした広島などと比べ悪化の度合いが大きかった。
肘の故障で5月に戦列を離れたエースの吉見一起をはじめ、故障者が相次いだことが決定的だった。3年目の左腕・大野雄大が10勝したが、防御率はチームと同じ3.81で負け数も10。エースの穴を埋めるにはほど遠かった。7勝5敗15ホールド2セーブと、先発中継ぎ両方で働いた09年のドラフト1位左腕、岡田俊哉の台頭は数少ない明るい材料。だが、来季は故障明けとなる吉見や山内壮馬にはフル稼働を期待しにくい。
野手も井端弘和が右肘と右足首を手術。12年の盗塁王・大島洋平も左肘の軟骨を除去した。前半戦の打線を引っ張ったルナも右膝の治療でシーズン途中に帰国している。監督兼任となることを考慮すれば、谷繁の控え捕手も今季以上に重要だろう。
24日のドラフトでは社会人、独立リーグの投手を3人、大学生捕手を1人指名した。あと、外国人やフリーエージェント(FA)、トレードでどれだけの新戦力を加えることができるかが、来季の浮沈を左右しそうだ。
■ローコスト・ハイリターン編成目指す
白井オーナーは落合GMについて、社長の下に置き、予算の権限は渡さないことを明言している。11年オフの落合退陣のもう一つの理由は「人件費高騰」ともいわれる。当時以上に入場者数が減少し財政面を圧迫している現状では、選手獲得にかけるお金にも限りがあるだろう。
白井オーナーが口にする「マネーボール」、大リーグ・アスレチックスのビーンGMばりの、ローコスト・ハイリターン編成が可能かどうか、落合GMの手腕が注目される。
(森青樹)