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水産資源、世界では3割が乱獲 完全養殖こそ将来担う

マルハニチロ 池見賢社長

マルハニチロの池見賢社長

マルハニチロは4月1日付で池見賢氏が社長に昇格した。6年ぶりの社長交代は、新型コロナウイルス拡大という逆風下での船出となった。飲食店向けの水産物や業務用食品が、来店客の減少などにより打撃を受けており、海外での成長確保が一層重要になる。中期的には水産資源の枯渇が懸念される中、池見社長は「会社の将来のためクロマグロの完全養殖などに力を入れ続ける」と強調した。

冷食や水産物外食向け苦戦

――4月に着任し、どんな気持ちで社長の仕事をスタートしましたか。

「想像を絶する厳しい船出です。とはいえここまで来ればやるしかない」

――コロナ拡大はどんな影響がありますか。

「外食業界は外出自粛や3密回避、そしてインバウンド客がいなくなったことなどで厳しい状況で、当社にも大きな影響があります。例えば当社の冷凍食品の売り上げの半分以上は業務用ですが、そこが落ち込みました。水産物も影響があります。マグロやホタテ、カニなどの高級商材は家庭ではあまり食べず、宴会や旅行先、外食などで消費されるので懸念しています」

――逆に売れ行きが良いものもありますか。

「消費者の『巣ごもり需要』で、市販用の冷凍食品やレトルトカレー、缶詰は特需のように伸びています。水産でもサケやサバの切り身など家庭で調理しやすいものは好調です」

――海外はどうですか。

「当社は海外でライセンスを獲得し、漁業をやっています。人の移動制限が船員の入れ替えなどの際に影響しています」

――2013年にオーストラリアの漁業会社を傘下に入れたほか、北米など各地で水産資源の調達・加工・販売に力を入れてきました。今後の海外展開は。

「日本での水産は、川上の漁業から川下の流通まで厳しくプラスイメージがあまりありませんが、海外では成長産業です。健康志向もあって、途上国では手軽なたんぱく源です。世界で1980年代に1人あたり約11キログラムだった水産物の年間消費量は今、20キログラムを超えています。人口はさらに増加します。きちんと魚の資源を押さえることができれば、企業としては発展できます」

「もっともそれほど簡単ではなく、資源なので外国からの投資に対し各国で規制があったり、(企業などを)買収できたとしてもかなりの資金が必要だったりします。それでも我々は色々なところを狙っています。企業展開の大きなチャンスです」

――2月に新たな遠洋漁船「第八新生丸」を竣工しました。

「高級魚『メロ』を南極海でとります。日本の遠洋漁業のライセンスで漁ができるのですが、漁場には氷が張っているところがあるので、氷の中にも入っていける船をつくりました。メロは米国や中国でよく売れます。オーストラリアのグループ会社でも新たな船を造るなど、効率を高めるための投資を続けています」

――マルハニチロは2010年、クロマグロの完全養殖に民間で初めて成功しました。今後、養殖事業をどう展開していきますか。

「天然の水産資源は世界的に3割が乱獲と言われます。6割はこれ以上、漁獲を増やすといけない状態です。余裕のある資源は1割に達しません。これからは養殖をやっていくしかない。通常のマグロの養殖は、天然のマグロのこどもをとって大きくしますが、完全養殖は卵からふ化させるので、天然資源に依存しません。サステナブルな経営戦略を進めるうえで象徴的な取り組みです。ただ簡単ではなく、通常の養殖よりも育てる期間が長く、コストも膨らみますがやり続けます」

――15年に、完全養殖マグロの商業出荷を開始しました。顧客の反応はどうですか。

「大手量販店も取り組みを評価してくれますが、こうした商品の付加価値に対し、消費者がお金を払ってくれるかどうかが課題です。まだ日本では付加価値を感じてもらえず、養殖も完全養殖も同様の値段です。いまはコロナの問題で休止していますが、付加価値を認めてくれる欧州に出荷を始めました」

――安定して稼げる事業に育てるまでのハードルは高そうですね。

「当社は今年、創業140周年です。当社がずっと依存してきた天然資源を枯渇させるわけにはいきません。完全養殖のようなことに力を入れないと(企業として)存続できません。マグロについては、日本では行政の関係や規制などから、通常の養殖で新たに事業を広げていくのが難しく、拡大には完全養殖が必要という事情もあります」

――養殖業はこれからも技術が進化しますか。

「例えばカメラで成長を判断して、季節変動のデータとあわせてAIで餌の量を変えることが考えられます。AIを使って画像で魚数を計測することもできます。将来はサーモンを海外で養殖できる企業になりたいとの思いもあります」

加工食品の品目削減し収益改善

――加工食品は利益率の低さが課題ですね。

「マルハグループ本社とニチロが統合したことで生産拠点やアイテムが多かったのですが、立て直す施策を打ち、中期計画でも予定通り進んでいます。品目数削減だけでなく、最終的には生産拠点の集約も検討する必要はあるでしょう。冷凍食品はさらに伸ばせる分野です。介護向け食品などは高いニーズがあります」

――13年、旧アクリフーズの冷凍食品への農薬混入事件のとき、池見さんは経営企画部長の職にありました。当時の事件からどんな教訓を得ましたか。

「表面的には従業員が工場で農薬を混入させたということですが、検証委員会に調べてもらうと、色々な課題が見えてきました。再生に向けて、一つ一つ課題をつぶしてきました」

「例えばグループ経営のガバナンスや、監視カメラなど衛生管理システムを強化しました。働くみなさんが何を思っているのか、把握できる体制も重要です。一番大切なのは、何のために働いているのかというグループ理念を浸透させることです。役員が全事業所を回り事件を風化させないための活動をしています。これはどんなことがあっても続けます」

(聞き手は日経MJ編集長 鈴木哲也)

池見賢
1981年京大農卒、大洋漁業(現マルハニチロ)入社。海外業務部部長役などを経て14年取締役、19年取締役専務執行役員。20年4月から現職。ソロモン諸島やタイなど海外でのキャリアが長い。兵庫県出身。62歳。

逆風下の船出、10年来の目標に挑む


 あまり目立つ存在ではないマルハニチロだが食品業界にあって有数の事業規模を誇る。2020年3月期の売上高は9052億円、営業利益は170億円にのぼる。22年3月期まで4年間の中期計画では売上高1兆円、営業利益310億円という目標を掲げてきた。
 池見社長にとって特別な意味を持つ数字だ。07年のマルハグループ本社とニチロの統合に際して「売上高1兆円、営業利益300億円」との目標を心に刻んだからだ。その後リーマン・ショックや大震災、農薬事件と逆風が続いた。今回もコロナ禍で中計の達成時期の見直しを迫られた。ビジョンを諦めない強い意志が求められそうだ。(逸見純也)
[日経MJ2020年6月1日付]

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