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韓国ゴルフの先駆者、グレース朴の早すぎる引退

ゴルフライター 川野美佳

昨年引退を表明していた女子ゴルフのグレース朴(韓国)が、母国で20日まで行われた米ツアーのハナバンク選手権でファンの前に久々の雄姿を見せた。これが彼女にとっては現役最後の大会。初日には旧知の朴セリ(同)とクリスティ・カー(米国)が同組で回って露払いを務め、一時代を築いた韓国のパイオニアに引退の花道が用意された。

「自分の居場所はここだったんだ」

「直前になってこの大会に出場することが決まったので、満足な準備ができなかった。でもこうして温かい仲間たちに囲まれると、自分の居場所はここだったんだ、と改めて思わされます」。グレース朴は笑顔を交えてそう心境を語った。

まだ34歳の若さ。引退を惜しむ声もあるが2004年メジャー初戦のクラフト・ナビスコ選手権に優勝し、絶頂期を迎えた直後、腰痛を発症。ここ10年近く思うような結果を出せず低迷してきただけに、本人はサバサバとした表情で「引退」の2文字を受け入れていたようだ。

朴セリが全米女子オープンと全米女子プロ選手権(現ウェグマンズLPGA選手権)を制し、センセーショナルに世界デビューを飾ったのが1998年のこと。時を同じくして2歳年下のグレース朴は米アリゾナ州立大学に入学。オールアメリカンに選ばれ、全米のアマチュアタイトルを総なめにした。ゴルフウィーク誌のプレーヤー・オブ・ザ・イヤー(年間最優秀選手賞)にも選出されている。

アマ55冠もプロでは活躍続かず

ちなみにグレース朴はソウル生まれだが小学校卒業後、単身ゴルフ留学のため渡米し、ジュニア時代から卓越したゴルフセンスで全米にその名をとどろかせた。その頃、グレース朴を指導していたのが「54ビジョン」で知られるピア・ニールソン・コーチのパートナー、リン・マリオット氏だった。

「グレースはメンタルトレーニングが必要ないほど、前向きで気持ちの強いプレーヤーでした」とマリオット氏は振り返る。

朴セリはプロの舞台で、グレース朴はアマの世界で向かうところ敵なしの存在となる。グレース朴は翌99年にプロ転向するまでにジュニア、大学、アマのタイトル55冠に輝いている。アマ最強の称号を引っ提げプロ入りすると、2000年に初優勝を飾ったが、周囲の期待に反し華やかな時代はそう長くは続かなかった。

米ツアー通算6勝目を挙げた後、彼女のゴルフ人生は坂を転がり落ちるように暗転する。腰痛は深刻だった。しかし彼女は痛さをこらえ歯を食いしばって戦い続けた。そのことが症状をさらに悪化させた。治療のために奔走し、はり治療はもちろん、ネーティブアメリカンを頼って祈祷(きとう)や薬草などにすがったこともある。だが一向に回復ぜず、その名の通りグレース=優雅な姿をコースで目にすることはなくなった。

「私のアイドル」と韓国の後輩たち

華やかで、たおやか。だが、試合になると闘争心むき出しでキャディーと衝突することもしばしば。アグレッシブな攻めのゴルフが身上だった。朴セリに憧れてプロを目指した韓国人は多いが「グレース朴が私のアイドル」という後輩も少なくない。

「ゴルフには浮き沈みがつきものだけれど、グレースはどんなときも笑顔を忘れなかった。彼女のちゃめっ気たっぷりのスマイルを見ると、こっちまで元気になるんです。私たちはたくさんの喜びとたくさんの苦しみをともに分かち合ってきました」(朴セリ)

グレース朴は昨年引退を表明した後、朴セリのもとを訪ね、2人はかつての自分たちの栄光の日々をたぐり寄せるかのように練習に興じたという。「私たちは戦友であり姉妹のようなものなのです」(朴セリ)

数えるほどしか韓国人選手が米女子ツアーにいなかった時代を2人で支え、今やロレックスランキング(女子世界ランキング)のトップ10に韓国勢は4人、トップ100以内に40人が名を連ねるまでになった。だが今、グレース朴の同ランクは685位。一時代を築いた選手にとってその数字は残酷だ。

ハナバンク選手権でも優勝をさらったのは韓国勢同士のプレーオフを勝ち抜いた梁熙英。トップ10(タイを含む)以内にも6人が食い込んだ。そんな時代が来ることを15年前の朴セリやグレース朴は想像すらしていなかっただろう。

若くして成功、早く燃え尽きたのか

今年7月には日米で優勝経験を持つ具玉姫(韓国)が56歳の若さでこの世を去った。ゴルフ新興国だけにこの先、韓国のゴルフ界がどのような道を進んで行くのか未知数の部分が大きい。

世界ランク1位の朴仁妃(同)にしても、重圧のためここ数カ月は思うようなゴルフができていない。学校そっちのけで親ぐるみの英才教育を率先する韓国では、ゴルフのエリート路線からケガなどで落ちこぼれた少年少女の行く末が社会問題にもなっている。

人間的には未熟な部分も残すがゴルフだけはうまい。そんな少女たちが若くして成功を手にすれば、燃え尽きるのが早いのも仕方ないのかもしれない。グレース朴の引退は韓国のゴルフにまつわる様々なことを考えさせられる出来事だった。

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