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厳しいラリーでさえるトス 女子バレー・宮下遥(上)

「セッターの彼女、いいですね」。女子バレー全日本経験者や名セッターがそんな賛辞を贈るという。宮下遥、19歳。花開かんとするポテンシャルに、その道の人ほど気づくらしい。大阪国際大和田中に在学時からV・プレミアリーグの岡山シーガルズに加わり、2009年に15歳2カ月のリーグ最年少でデビュー。

身長176センチの大型セッター。体の芯で上げるトスが武器

全日本セッターとして一歩

大人に交じってトスを上げてきた少女は、8月の国際大会で全日本セッターとして一歩を踏み出した。

身長176センチ。ロンドン五輪後に現役を退いた先代の竹下佳江(同159センチ)から随分と大型化になる。トスをセットする位置が高く、相手は中央かサイドかを見分けづらい。その小さな時間差が、アタッカーを大いに楽にする。

でも、本当の武器はそこではない。「筋力、ジャンプ力、体の頑健さでは一流の下」と岡山シーガルズ監督の河本昭義は評する。その宮下がコートで放つひらめきを、岡山の先輩セッターだった岡野弘子らは目にしてきた。

「こんなトスもするのかって。次は何を、と思わせる」。思い切りの良い、強気のトスワーク。初出場の全日本で、日本はセンター攻撃が少ないと他国から認識されるなか、果敢に中央から組み立てた。「3本連発でセンターに上げるの、あいつくらいでしょ」。河本は楽しげだ。

体全体でボールをキャッチ

そこには宮下なりのアルゴリズムがあり、エース木村沙織が本調子でないなかではじき出した一手。一昨年、岡山で先発し始めたころは「上げるので精いっぱい」(岡野)。今は本人もセッターのツボを心得る。「同じレフトでもスパイカーにはそれぞれ違う良さがある。どう引き出すか」

体の芯で上げるトス、と河本は形容する。手首が非力な宮下はトスを手で上げない。返球されたボールの下へ向かい、体全体でボールをキャッチ。この一連の重心移動に秀でる。腕に頼るセッターは疲れるとトスの軌道を乱す。宮下はそんなへまはしない。

この能力ゆえ、逆説的だが宮下はセッターに正確に返るパスよりも「シーソーゲームのさなかに来る生きたボール、悪球をさばくときの精度が高い」と河本はいう。実戦の厳しいラリーでこそトスがさえるのだ。

気持ちの強さと集中力が武器

中学3年の某大会。味方レシーブがネット中段にそれた。宮下はバッと座り込み、打つ味方が打ちやすい「間」も瞬時に計算しつつ、自然な速攻のトスへ変えた。「普通のセッターがさばけない球をさばける。予想外のボールに対する反応が常に強気。そこが非凡さ」

セッターで難しいことは? 宮下に尋ねると「全部です」。眼光に力がある。物おじしない。トスもそうだ。河本がよく口にする小言がある。宮下が生真面目に、無難にトスを上げ始めたとき。「そんなお前、全然魅力ないわ。普通に上げたら、たぶんリーグで一番下手だよ。お前の武器は何?」

それは19歳らしくない気持ちの強さに集中力。しおらしくては、セッター・宮下は輝かないのだと。

「代表で最初は、うまくいかないとネガティブに考えがちで。でも3カ月経験して『では、こうすれば』とプラスにとらえられるようになった」と宮下。遠くない将来、全日本で重責を担っても、この強気を貫けるなら――。

(敬称略)

〔日本経済新聞夕刊10月15日掲載〕

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