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本番前2週間、フルマラソンで力を出し切る調整法

ランニングインストラクター 斉藤太郎

これからのシーズン、週末ごとに各地でマラソンレースが目白押し。目標とする大会に向けて重ねてきたトレーニングの成果を存分に発揮したいものですね。とはいえ出場するフルマラソンが近づいてきたのに思うように練習を積めていない、というランナーもいることでしょう。「限られた残りの日数の中で最大限の努力はしたい……」。今回はそんなランナー向けに、大詰め段階の調整トレーニングのコツを紹介します。

急な能力アップ狙って負荷を高めすぎない

フルマラソンに向けた調整としてハーフのレースを走るのも一つの方法(第34回北海道ロードレース)

「区分け」といって、トレーニングの目的と流れを大きく分けて捉えると、「体に強い負荷をかける→回復する」を繰り返して強くなっていくのが「鍛錬期間」。そして鍛えて培ってきた力をレース当日に百パーセント発揮するためにコンディションを整える「調整期間」へと移行します。

調整期間に入るのはレースの2週間前がメド。既に調整期間に入ってから一獲千金を狙って体にムチを打つような練習をするのは禁物です。イチかバチかのような、急激な能力向上を期待して負荷の高すぎる練習をしないことです。

レース本番まで時間が無い、でも練習不足は否めない。そんなランナーを主にイメージして、土日の休みを中心にどのような練習をすればいいのか、走力別にメニューの一例を示します。自分なりの調整メニューを組むための参考にしてください。

ビギナー向けメニュー=初マラソン挑戦など

レースと同じ時間帯に20キロ走、体の状態チェック

〔レース2週間前〕 レース2週間前の土日に20キロを1回走っておきましょう。このくらいの距離を走ったときに体がどういう状況になるのか、その変化の推移をよく覚えておいてください。走った後は多少のダメージが残りますが、2週間かけて疲労は抜けていきます。

レース当日は42キロにチャレンジするわけですが、20キロ走を経験することで体が慣れた状態でフルの距離に臨むことができるはずです。また、レースと同じ時間帯に練習をスタートすれば、空腹具合や何を食べるべきかなど本番レースの予行演習にもなります。

ゆとりがある方は、時間を置いた夕方にでも、30分でいいのでジョギングもしくはウオーキングを入れてみてください。補助練習といいますが、スタミナがダメ押しで備わるとともに、筋肉の伸縮と血液の循環によって20キロを走ったときの疲労物質が抜けやすくなります。脚がほぐれる感覚を理解できるはずです。

トレーニングを順調に積んでいるならば30キロ走でもいいのですが、日ごろそれほど走っていない方や初心者の方は、そこまでの距離を走ってしまうと脚を痛めるリスクが高まります。30キロ走はもう少し時間的ゆとりがある4週間前あたりにしておきたいところです。

一度に長い距離を走る練習は効果がありますが、その1本のために練習が途絶えてしまうようでは意味が薄れてしまいます。30キロを走り切ったとしても、そのあと5日間は全く走れなければ、1週間の走行距離は30キロちょっとということになります。

それならば20キロ走にしておいて、翌日以降も5キロや10キロのジョギングを続けていったほうがフルマラソンの準備としては有意義です。

このことからわかるように、肝となる練習はきちんとこなす。そこで途切れてはダメ。1本走ったダメージを練習を続けながら(走りながら)抜いていくことが可能な範囲内でメニューを決めてください。

レースペースで走り筋力維持、完全休養は避ける

〔レース1週間前〕 レース1週間前にはレース想定ペースの感覚を確認する意味で、10キロのペース走を入れましょう。それすらダメージが残る不安があるという方は5キロのペース走を。それが終わった後に30分ゆっくりペースでジョギングをしてください。1週間前にレースペースで走っておくことで筋力の維持にもなります。

仕事の疲れがたまっているから1週間前は完全休養して疲労を拭い去りたいという方もいるかもしれません。しかし休養した結果、1週間後に疲れは抜けていたとしても、今度は筋力が低下してしまい、レース終盤に苦しい思いをする可能性が高くなります。

中級者向けメニュー=目標タイム4時間~3時間30分

準備のハーフ出場でピークを迎えてしまわない

〔レース2週間前〕 キャリアを重ねているランナーなら、レース2週間前の土日あたりに、フルマラソンを走るステップとして10キロレースやハーフマラソンに出場するということもあるでしょう。ただし、これはあくまで「通過点」。ピークは2週間後であることを意識して走ってください。

極端に練習量を落として脚を軽くするのではなく、通常通りの練習スタイルを維持してこの通過点のレースに臨むべきです。脚が「重たい、鈍い」という感じがするのは、疲れてはいるものの実は体にスタミナが備わっている証しです。速い動きはできないけれども疲れにくい体です。

走り出して汗を流し、しばらくしてようやく軽くなってくる。そんなコンディションがマラソンに適した脚の「良い重さ」なのです。

ところがその重たさを練習量を落とすことでリフレッシュし、本番ではないレースに調子を合わせてしまい、快調に走れて狙ってもいないのに自己ベストということがあります。それは喜ばしいことなのですが、本来の目標レースではなくてこの時点で調子のピークを迎えてしまっている可能性もあります。

そうなると通過点であるはずのレースの後、体調が下降線になります。前日に長めのジョギングをしてわざと脚を重たくするようにしたり、気持ちをセーブして走ったりすることで、調子のピークを早く迎えてしまわない配慮も必要です。

レース後に長めのクールダウンのジョギングを30分程度しておくといいでしょう。レースで頑張った筋肉をほぐす疲労抜き効果と、スタミナをさらに貯蔵する効果が得られます。

ウオーキングで路面捉える感覚つかむ

こうした通過点レースに出場しない場合は、レース2週間前にはペースを抑えた20キロ走などが有効です。こちらもスタミナを維持するのが目的です。「このメニューをこなして強くなろう」という時期は過ぎています。心地よいからといってペースを上げすぎると、通過点レースの場合と同様に調子のピークを早く迎えてしまうので注意しましょう。

レース想定ペースで走って安心したい、感覚を確認しておきたいという選手の心理は確かにわかりますが、それはレース本番までとっておきましょう。どうしてもスピードを上げたいという場合には、レースペースで走る距離を短めに。

20キロすべてをレースペースではなくて、5キロとかせいぜい10キロまでにとどめておきましょう。速いペースで走った後もジョギングを続けます。「レースペース+ゆっくりジョグ」のトータルで20キロなどが有効です。

ペース走やハーフマラソンの翌日には、仕上がりが順調な方は通常のジョギングでいいでしょう。これでもまだスタミナに不安があるという方は長時間ウオーキングを入れます。

ウオーキングは足が地面に接している時間が長く、その間ずっと体重を支えている運動です。マラソンにはとても有効で、ダメージなく脚筋力の維持と強化の効能が期待できます。脚の筋肉がズシーンと重たくなりますが、このウオーキングを経てから走ってみると、しっかり路面を捉えて走れる感覚を得ることができるでしょう。

ビルドアップ走でスピードとスタミナを協調

〔レース1週間前〕 レース1週間前の週末、土曜日は10キロ走、または5キロ走×2本(間にリカバリーのジョギング7分)。どちらで走るにしても走り始めはゆとりを持ったペースで。2キロほどして呼吸が落ち着き、体がほぐれてきたらペースを上げていきましょう。ビルドアップ(図A)という走り方です。レース想定ペース前後でしばらく走ります。

呼吸・体のリズムを確認しておきましょう。好みによりますが残り1~2キロはさらにペースを上げて呼吸を上げます。スッキリしてゴールできるように走ってください。レース後半での粘り、スタミナ切れの予防に効果があります。

翌日の日曜は最終スタミナ貯蔵です。90分程度のジョギングでじっくり汗を流しましょう。10キロのレースに出場する方は、その前日にジョギングと1キロを心地よいペースで1本走っておくといいでしょう。

ビルドアップを取り入れた1週間前の練習は協調トレーニングとも呼ばれます。これまでに築いてきた速い動き(スピード)と疲れにくい持続力(スタミナ)、これらをドッキングさせるという意味があります。全力まではいかなくても、呼吸を上げて走ることでスッキリする。マラソンに向けたトレーニングを積んでいれば、このくらいの距離を頑張って走ったところで疲れ切ってしまうことは無いはずです。

レースを目前に控えて高まる期待と不安。蓄えを増やす時期は終えたうえで、これまで蓄えてきたものをすべて出し切るためのトレーニングだということを肝に銘じて、メニューを自分に合った形にアレンジしてみてください。

<クールダウン>日常生活からアスリートたれ
 試合が近づくと心の弱い面が出て、なるべく疲れないようにと内にこもったり、楽をしようとしてしまったりすることがあります。これでは戦わずして既に負け戦です。
 私の学生時代の恩師、遠藤司コーチがソウル五輪に1万メートル代表として参加した時のこと。選手村で宿舎から食堂までのほんのわずかな距離しかないところを、自転車競技の代表だった橋本聖子さんは自転車で移動していました。「目と鼻の先のたったこれだけの距離をどうして?」と思い、尋ねたところ「大事な試合の前は極力その動きを生活に取り入れようと考えています」との答えが返ってきたそうです。
 君たちはこれとは逆で自分の足で走るアスリートなのだから、自転車やバスに頼らず、ランニングの基礎である歩くことをなるべく多く取り入れなさい――。遠藤コーチは私にそう教えてくれたのでした。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)など。

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