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開けイスラム市場 合言葉はハラル

写真は語る

世界人口の約4分の1、約16億人にのぼるイスラム教徒。アジア太平洋地域に最も多く、中東の約3倍、10億人近くが住むといわれる。アジアのイスラム国は、経済成長と人口増加が著しく有望な市場と目されている。昨年、尖閣諸島が国有化されて以降、日本国内でもその需要を取り込む動きが活発化している。

「アッラーフ・アクバル(神は偉大なり)」。メッカの方角にお祈り下さい。日本最大のモスク「東京ジャーミイ」(東京・渋谷)で約20人の日本人が見よう見まねで礼拝を行う。イスラム教講習会に参加した企業担当者たちだ。

日本を訪れるイスラム教徒(ムスリム)の数が急増している。7月に東南アジア5カ国の観光ビザ発給要件が緩和されて以降、ムスリムが多いマレーシアやインドネシアからの観光客が増加したためだ。2カ国からの来日者数は8月は前年比35%増で約2万7千人が訪れた(日本政府観光局調べ)。尖閣諸島問題発生以降、中国人観光客が大幅に減少した中で企業や自治体から熱い視線を集めている。

非イスラム国に滞在するムスリムは常に食の問題に悩まされる。イスラム教の戒律で、不浄なものとされる豚由来の食べ物やアルコール類を含む食品を口にできないからだ。加工食品を購入する際は成分表示を確認し、時にはメーカーに直接問い合わせしたりと苦労が絶えない。

ムスリムの多い国々では消費者の不安を和らげるため、販売されている食品などがイスラムの教えにのっとった健全なもの(ハラル)であるかを第三者機関に認定してもらう「ハラル認証制度」が普及している。食品の含有成分のほか、牛、鶏、羊などの豚肉以外の食肉であってもムスリムの手によって処理されたかどうか、商品が豚肉と一緒に保管・輸送されていないかなど細かな規則が定められている。今やイスラム圏で商品販売やサービスを行う際の通行手形のような存在で、味の素やキユーピーなど多くの日本企業が厳しい条件をクリアし、イスラム圏でビジネスを展開している。物流分野では日本通運がマレーシアで来年度にも認証を取得する。

ハラル認証の認定機関は国内にも存在し、ムスリム市場への関心の高まりから、国内で認証を受ける企業が相次いでいる。青森県八戸市の食品会社グローバルフィールドは、今月にも地鶏「青森シャモロック」のハラル認証を取得する。飼料を豚由来成分を含まないものに変え、地鶏を処理するためにバングラデシュ人のムスリム従業員を雇い入れた。「これで全世界の人々に食べてもらえる食材になった」と同社の田名部智之社長は言う。アラブ首長国連邦を足がかりに、日本の焼き鳥を世界に広める考えだ。

国内のハラル認定機関、日本アジアハラール協会のサイード・アクター氏はホテルや食品加工メーカーからの依頼を受け、日本中を忙しく飛び回る。今月はアドバイザーとして沖縄県名護市のホテルゆがふいんおきなわを訪れ、ムスリム観光客対応を強化する同ホテル内をくまなく点検した。今夏、同氏にアドバイスを依頼した千葉市のホテルスプリングス幕張では、キッチンや食材などをハラル対応にした。来月からはマレーシアの厳格な基準をクリアした食品加工施設も稼働予定だ。旅行会社からの問い合わせも増えており、今やムスリム観光客が昨年から減少している中国人観光客の穴埋めをするほどにまでなっているという。

イスラム圏から観光客を呼び込むための自治体の動きも活発だ。熊本県人吉市ではモニター調査のために九州管内からインドネシア人留学生ら6人を招き、市内の観光地や宿泊施設に滞在してもらう取り組みを始めた。昨年、牛肉として国内で初めてハラル認証を受けた「ゼンカイミート」(同県錦町)の食材を使ったバーベキュー料理も食してもらい、詳細な聞き取りを行った。千葉県では県産の農水産物を使ったハラル食品を開発する検討会を立ち上げている。

日本で長きにわたりハラル環境の普及に努めてきたマレーシアハラルコーポレーション社長のアクマル・アブ・ハッサン氏は「日本企業にはきめ細かな生産・品質管理のノウハウがあり、宗教戒律に対応した商品もすぐに作れるでしょう。きちんと情報開示をすれば商品やサービスはきっと受け入れられます。その素地は出来ています」と語る。

ビジネスをきっかけに始まったハラルへの関心の高まりは、ムスリムを理解する機運を高めている。7年後に五輪が開催される頃には、来日するムスリムを「おもてなし」する日本独自の文化へと進化しているかもしれない。

(写真部 瀬口蔵弘、柏原敬樹)

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