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低予算レイズ、奇跡の好成績 光る知将マドンの手腕

スポーツライター 杉浦大介

メジャーリーグ有数の低予算球団が奇跡を起こし続けている。年俸総額では両リーグ最低レベルながら、レイズはこの6年間で4度もプレーオフに進出。今季もワイルドカードでポストシーズンに駒を進め、ア・リーグの地区シリーズではメジャー最高勝率のレッドソックスを苦しめた。指揮を執る59歳のジョー・マドン監督は、財政難のチームをどうやって好成績に導いているのか。

二回途中で先発に見切り、9投手起用

結果的に今季最終戦となった10月8日の地区シリーズ第4戦は、米球界屈指の策士として知られるマドン監督の真骨頂を見るようなゲームだった。

今季防御率5.17と苦しんだ先発のジェレミー・ヘリクソンが本調子ではないと見ると、まだ1点も失っていないにもかかわらず、二回無死満塁の場面で早くも交代を告げる。その後は小刻みに投手リレーを行い、大リーグのポストシーズン記録となる9投手を起用。最後は第5戦で先発予定だったデビッド・プライスまで準備させる総力戦で、今季後半以降は圧倒的な強さで進んで来たレッドソックスをうっちゃる寸前まで追い詰めた。

「この時期にプレーできるのはとても興味深く、そして楽しいものだ。最高だよ。私だけではなく、選手たちも同じように感じてくれている。私たちは素晴らしいことを成し遂げてきたし、とてもエキサイトしている」

シリーズ開幕前にそう語っていたマドン監督は、実際に極限の緊張状態の中でも生き生きと采配を振るっているように見えた。

年俸総額6100万ドルはメジャー27位

第4戦は惜しくも1-3で競り負け、このシリーズにも1勝3敗で敗退。それでも第3戦では、伏兵ホセ・ロバトンが上原浩治からサヨナラ弾を放つという印象的な勝ち方で見せ場をつくった。得点力ではメジャー1位のレッドソックスを向こうに回し、スター不在ながら踏ん張ったレイズの戦いは健闘と言っていい。

今季開幕時のレイズの年俸総額は6100万ドル(約60億円)でメジャー27位。そのチームが2億1100万ドルで2位のヤンキース、1億1500万ドルで11位のブルージェイズ、8900万ドルで16位のオリオールズを上回ってプレーオフ進出を果たし、プレーオフでも1億5400万ドルで4位のレッドソックスを苦しめた。

お荷物球団からプレーオフの常連に

この躍進は今季に限った話ではない。過去6シーズン連続で勝ち越し、地区優勝2度、ワイルドカードでのプレーオフ出場を2度果たしている。この6年間の通算戦績でレイズより勝率が良いのはヤンキースだけで、すでにリーグを代表する強豪となった感すらある。

「私が監督になった頃は、レイズはア・リーグ東地区では戦えないから他の地区に移るべきだ、なんて話が出ていたものだった。私はこの地区でプレーしたかったから、ひどい話だと思ったよ。厳しい環境で強いチームと争うことが、向上への最善の道だと思ったからね。聡明(そうめい)なフロント、理解のあるオーナーに恵まれたおかげでチーム改善は可能になったんだ」

マドン監督本人がそう振り返る通り、2005年11月にルー・ピネラの後任として新監督に就任した当時のレイズは、リーグのお荷物球団だった。

1998年の創設から10年間、1シーズンを除いてすべて地区最下位。しかし、突如として地区優勝を飾り、ワールドシリーズ進出を果たして「ミラクル・レイズ」と呼ばれた2008年以降、この新興球団は成功の階段を駆け上がっていく。その背後には、マドン監督とアンドリュー・フリードマン・ゼネラルマネジャー(GM)による極めて賢明なチーム作りがあった。

慎重に補強、選手の性格などチェック

「(選手を獲得する前は)その選手の性格、どんな人間なのかを慎重にチェックする。どういったキャラクターか、他の選手たちはどう言っているか、苦しい状況にどう反応するか、チームメートとはどう接するかとかね。アンドリューとの会話ではいつもそんな話になるよ」

マドン監督の言葉通り、ヤンキース、レッドソックスのように資金に恵まれているわけではないだけに、選手補強は慎重に行わなければならない。

例年、ロースターには他チームでは微妙な立場になりながらレイズに来て再生した選手たちが数多く名を連ねている。今季のチームに属したジェームス・ロニー、ユネル・エスコバルらはその代表例だろう。

未知数の若手スター候補に大枚はたく

その一方で、エバン・ロンゴリア(08年に6年1750万ドルで契約、以降の3年はチームオプションで合計9年4400万ドル)、マット・ムーア(11年オフに5年1400万ドルで契約、最大8年3750万ドル)といった一部の主力たちとは、まだ新人の時点で複数年契約を成立させている。

未知数の若手スター候補に大枚をはたくのはギャンブルではある。しかし、フリーエージェント(FA)権を得て手の届かない値段になる前の再契約は、低予算チームが大物を長期にわたって保持する唯一の手段といえる。

またデルモン・ヤング、ジェームス・シールズといった再契約が難しくなりそうな選手は、FAになる2年以上も前に思い切って放出する。その代わりに数年後の有望株を獲得するのもレイズの常とう手段である。今季、中軸打者として成長したウィル・マイヤーズ、近い将来のエースと期待されるクリス・アーチャーらはそのシナリオで獲得した選手たちだ。

奇抜な戦法で相手チームを驚かせる

こうして慎重を期して形づくられたチームの指揮を執るのに、「知将」の名をほしいままにするマドン以上に適した監督はいなかっただろう。本格派がそろった投手陣に比べ、打線は迫力不足が否めない。それでもマドン監督はそれぞれの役割を忠実に果たす脇役選手たちを巧みに使いこなし、必要な得点を捻出してきた。

冒頭で記した通り、状況に応じた細かい選手交代を好み、打線も猫の目のように変更する。奇抜な戦術でも知られ、かつてデービッド・オルティス(レッドソックス)の打席の際に外野手を4人並べたり、4点リードした最終回2死満塁の場面でジョシュ・ハミルトン(レンジャーズ、現エンゼルス)に敬遠四球を与えたこともあった。今回の地区シリーズでも鈍足のホゼ・モリーナに盗塁を敢行させるなど、相手チームを驚かせる戦法を数え上げればきりがない。

クラブハウスにペンギン、ヘビ持ち込む

その一方で、選手との対話を重視し、コミュニケーションを決して怠らない。チームをリラックスさせるためにクラブハウスにオウム、ペンギン、ヘビを持ち込んだり、DJを連れてきて音楽を鳴らしたり。ラテン系音楽のバンドを招待してコンサートを行ったこともあった。

「監督として経験を積み、チームの周囲に何が起こっているかをしっかりと知ることが大事だ。日々の仕事を安定してやっていけるように心がけている。打線の組み替えなどは、選手たちも理解してくれているはずだ」

本人も言う通り、細かい打順変更や意表をついた戦術は選手にしっかりと受け入れられてこそ可能になる。戦術眼と人望を兼ね備えたマドンは、やはりメジャーを代表する名監督であり、レイズの奇跡的な成功はこの監督なしにはあり得なかったに違いない。

打線の中にロンゴリア以外のスーパースターが不在ゆえに、今後もワールドシリーズ制覇にたどり着くのは容易でないかもしれない。それでも、マドン監督とレイズが成し遂げた快進撃が球史に残る偉業であることに変わりはなく、他の低予算チームにも希望を与えたと言ってよいだろう。

新たな転換点、陣容どう整えていくか

今オフには、これまで大黒柱としてチームを支えてきたプライスの放出が有力視される。FA権獲得まであと2年のエースとのトレードで、今度はどんな選手を手に入れるのか。新たな転換点を迎え、チームはどういったやり方で陣容を整えていくのか。レイズの方向性に今では多くの球団が注目している。クリエイティブで斬新なチーム作りを進めるレイズの"奇跡"から、今後もしばらく目を離せないだろう。

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