猫背直して伸び伸びラン フォーム改善エクササイズ
ランニングインストラクター 斉藤太郎
正しいランニングフォームで楽に速く走りたいものですね。そのためには凝り固まった体をほぐし、悪い癖を直しましょう。今回は猫背、のけ反りなど代表的な5つのタイプに応じたエクササイズを紹介します。いつでもどこでも、短い時間でできるものです。仕事の合間の休憩時間など、トレーニング時以外にも日常の習慣として行うことで一層効果が上がります。

■体幹表裏のアンバランス解消
日本人の悪いランニングフォームで最も目立つのが「猫背型」(写真1)です。程度の差こそあれ約7割のランナーに当てはまるといえます。横から見て背骨が前側に「C」の字のように湾曲した姿勢、まるでバナナのような形です。
こうなってしまう理由は、膝を上げて走ろうとする意識が強いことと、前方を見ようとするあまり視野が狭くなってしまうことです。そして日ごろのデスクワークや車の運転などでの悪い姿勢が大きく影響しています。
猫背型は肩が上がって頭が前のめりになる状態。頭や顎が前に出て骨盤が後傾しているため、肺を大きく使えず深い呼吸ができなくなってしまいます。

猫背姿勢を解消するために「両腕挙上スクワット」(写真2)を試してみましょう。両脚を肩幅に開いて立ち、両腕を耳の横の位置まで真っすぐに挙げてください。手先・肩・骨盤・足先までが正面から見て垂直、左右で平行の2本のラインになります。骨盤は前傾させたままです。
体幹の前側、あばら骨のあたりが伸ばされている(縮こまっていない)姿勢で、両手を挙げたまま視線は前方をキープ。骨盤を後ろに引きながら軽くかがみます。股関節の前面の部分が「く」の字に曲がる程度までかがみ、それから持ち上げます。呼吸はかがむ時に吸って持ち上げる時に吐く。20回を目安に繰り返してください。

日ごろから萎縮し続けている体幹の前側を伸ばし、一方で伸びた状態の体幹後ろ側が引き締まる。猫背の原因となる体幹の表裏のアンバランスが解消されます。また、かがんだ時に腿(もも)の裏の筋肉(ハムストリングス)が伸ばされ、骨盤を引っ張って後傾することを防ぎます。座りっぱなしの姿勢が続いた後で腿裏の筋肉を緩めるための動的ストレッチとしても有効です。
■肩と脚リラックスして腹筋鍛える


苦しくなると肩が上がり、後ろへのけ反った姿勢になりがち。猫背型と正反対の「のけ反り型」(写真3)のフォームのランナーも目立ちます。腹筋が使えていないことや、息を吐き切れずに胸元で小さく吸ってばかりいること、気持ちの焦りなどが原因として考えられます。
のけ反り姿勢の解消には「肩回し腹筋運動」(写真4)で腹筋を鍛えましょう。地べたに座り、脚は少し曲げて伸ばし、上体を後方へ傾けます。左右の手はそれぞれの肩に軽くタッチして肘を曲げます。腹筋を使えないと、この体勢をとることすら困難です。
力と意識を集中させるのはおへその下、ここが体の重心です。ここでバランスを取り両脚を軽く地面から離します。肩と脚はリラックス。ゆったり深い呼吸をしながら左右の肩で交互に回転運動を続けます。肩甲骨のあたりの脊柱が中心軸で、水泳のクロールのように前回転。30秒×2セットが目安です。
■地面からの反力、骨盤回りで受け止め


走っていて心地よく進まない、集団で走っている際に周りの人と比べて自分の腰の位置が低いと感じる、「腰落ち型」(写真5)だと思われる方は、コンパスをイメージしてください。2本の脚の根本の位置が高いか低いかで一歩の幅(ストライド)に差が出てきます。根本が高い位置にあれば開く角度が小さくても遠くへ体を運べるのです。
腰落ち型になってしまうのは、膝関節から下の脚の動きに頼ったフォームや、後ろ側にキックする走り、着地した瞬間に骨盤回りの筋肉が使えていないので体を高い位置で支えきれずに、ボールが潰れるように腰が沈んでしまうことが原因として考えられます。
硬式テニスボールのように固くて強い反発力があったら、体が沈むことなく(潰れることなく)弾んで前に進みます。ところが軟式テニスボールのような柔らかい弾力だと潰れて腰が沈んでしまうのです。また着地時に体の重心を前方に移すタイミングが遅れているのがこのタイプの特徴。重心が後方に取り残されて「腰が引けている」状態です。
腰落ち状態は「片足ケンケン」(写真6)で解消しましょう。膝を伸ばして片足で立ち、耳・肩・骨盤・膝・くるぶしが横から見て一直線となる垂直のラインをつくります。反対の足を軽く前に出して、片足で弾みます。最初だけ上に跳ねますが、その後は上よりも下に落ちることを意識してください。左右各30回が目安です。

膝が曲がらないように気を付けて、着地時に地面から受ける反力を骨盤回り(特にお尻)の筋肉で受け止めます。その反力を利用して弾む練習です。常に着地ポイントの真上に体の重心を載せる習慣をつけるために、垂直のラインを維持してください。
■お尻の筋肉伸ばして膝痛防ぐ
走り込みを続けるうちに、膝を痛めてしまいやすいとの悩みを持つ方も多いでしょう。お尻から太腿膝外側を通り、膝外に接合するのが腸脛靱帯(ちょうけいじんたい、図A)。着地の際の衝撃に耐えることができずに、膝が内側に沈み込んでしまう走り方をする人が痛めやすい部分です。
着地のたびにこの部分にストレスがかかり続けます。膝が内側に沈み込むのに対して、骨盤は外側に振れ、この外・内のねじれが蓄積して痛みが出てくるのです。こういう走り方をする人の太腿やお尻は非常に凝り固まっています。

お尻の筋肉が固いと、その筋肉を伸ばして膝を前に出す動きにブレーキがかかります。それでもどうにか膝を前に出そうという意識が働きます。そして腸脛靱帯のツッパリ感が増して摩耗するという悪循環に陥ってしまうのです。
固まってしまった太腿やお尻の筋肉は「両脚クロス前屈・上体ひねりストレッチ」(写真7)でほぐしましょう。右脚を前でクロスして前屈します。息を深く吐きながら腕や肩の力を抜くように気を付けてください。それから上体を右にひねります。左脚内側くるぶしを両手で触るような感じで、反対側も同様です。腸脛靱帯とお尻の筋肉を伸ばすことを意識してください。左右30秒×2セットが目安です。
■頭を後ろに引いて肩の負担軽減
ランナーに限らず多くの方が肩こりに悩まされています。おおむね猫背姿勢が主な原因です。正しい姿勢は背骨がS字を描き、骨盤が前傾した状態。そうすると耳・肩・骨盤・膝・くるぶしが垂直のストレートラインを描きます。重力に対して体を支える理想的な姿勢です。
しかし骨盤が後傾してしまうと、それに合わせて頸椎(けいつい=首の骨)は前に傾きます。横から見てCの字の状態で、成人男性で7~8キロある重い頭が前に出てしまうのです。前に傾いた頭を支えようと、肩の筋肉は四六時中、緊張した状態が続いてしまいます。肩をもんでも、姿勢を直さない限り、こりが抜けません。

こうした姿勢の修正には「エア懸垂」(写真8)がおすすめです。両脚を肩幅に開いて真っすぐに立ち、両手の人さし指を立てて目の真横の位置に持っていき、両指を見るように意識して視野を広くしてください。顔の位置が後ろに引けてきます。その状態で両腕を上げてから肘を引き下げます。左右の肩甲骨を引き寄せて、手・肘が耳よりも後ろの位置で上下移動しましょう。
そうすると前にすぼんでいた両肩が後ろ方向に開き、あばら骨も開くので深い呼吸が可能となります。ゆっくり大きな動きで続けてください。10回くらいが目安です。
きれいなフォームや柔らかいフォームで走る方、ケガをしない方は、日ごろからこまめにストレッチやエクササイズをする習慣があります。こうした習慣によって体をリセットすることで、トレーニングの時には、より質の高いランニングフォームで走ることができるはずです。
三段跳びの元世界記録保持者とお話しする機会がありました。彼はフォームのメカニズムについての理論は超一流で、とりわけ私が感銘を受けたのが自分自身の体へのいたわりとこだわりです。トレーニングでしたことを百パーセント吸収し、速やかに疲労を拭い去る。そのための自己ケア、食事の取り方についての理論を持ち、実行する強い意志を感じました。
特別なことはしていませんが、余計なもの、目標を阻害する類いのものは一切口にしない。何より自分の体の仕組みに興味を持ち、自分でケアする方法を理解していました。100ある能力を120にしようとするのではなく、取り組んだことを全て吸収し、いつでも今ある100を出し切る。当たり前のことを続けることで高い競技レベルを維持していたのです。
皆さんは彼のように自分の体と向き合っているでしょうか。補助食品の効能に期待したり、マッサージなど他人によるケアに頼ったりすることが多くなってはいないでしょうか。自分の体を生かすために、まず自分自身でできることを考えてみませんか。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)など。