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デモの混乱、ブラジルW杯へ最大の懸念材料

サッカージャーナリスト 沢田啓明

南米は欧州ラテン諸国の社会的、文化的影響が強い。2020年夏季五輪開催地を決める国際オリンピック委員会(IOC)総会が開かれたアルゼンチンでは、「スペイン・マドリード有利」の見方が強かった。これはお隣ブラジルでもほぼ同様だったが、同時に極めて親日的な国でもある。結果が出ると、地元メディアは「安全・確実な東京が選ばれたのは妥当」とあっさり手のひらを返した。

もたつけば、東京と開催の順番逆転?

「14年ワールドカップ(W杯)と16年リオデジャネイロ五輪の開催準備が遅れており、さらにブラジル国内でデモが頻発していることが、(隣国シリア情勢を抱える)トルコ・イスタンブールと経済が低迷するマドリードに不利に働き、東京への追い風となった」と、まるで日本人は我々に感謝してほしいと言わんばかりの論調もあった。

日本人の勤勉さと真面目さを高く評価する国柄だけに、庶民の間では「リオがこれ以上もたもたしていると、東京の方が先に準備を完了して、開催の順番が入れ替わるぞ」という冗談が飛び交った。

多くの日本人にとっては、ブラジルがW杯と五輪を相次いで開催するという千載一遇の機会を得ながら、きちんと準備を進めないことの方が不思議なのではないだろうか。

開催意義や必要性、国民の理解は…

ブラジルの場合、急速な経済成長を遂げているとはいえ、仕事の効率や計画性、組織力などの点でまだ不十分なところがあるのは否めない。また、W杯も五輪も必ずしも国民が開催の意義や必要性を十分理解し、納得したうえで誘致したわけではない。国際サッカー連盟(FIFA)とIOCは、開催地を選ぶ際にこの点をよく確認しておらず、今になって慌てているようだ。

W杯の場合は、国民の大多数がサッカー好きだから、施設建設のための過剰な出費に対する批判はあっても、大会の開催自体に反対する声はほとんどない。しかし、五輪に対してはそもそも国民の熱があまり高くないから、理解を得るのはさらに困難だ。

ブラジルのW杯組織委員会は当初、今年6月のコンフェデレーションズカップに使うスタジアムは昨年末まで、来年のW杯で使用するスタジアムは今年前半までに完成するようFIFAから念を押されていた。

W杯開幕戦のスタジアム、年内にも完成

しかし、コンフェデ杯用のスタジアムのいくつかは開幕直前にようやく完成にこぎ着けた。ブラジリアとリオのスタジアムはピッチに芝を植えつける時間がなく、別の場所で育てた芝を運んできてカーペットのように敷き詰めるという苦肉の策で急場をしのいだ。ブラジリアで行われたブラジルと日本の開幕戦で再三、芝がめくれ上がっていたのはそのせいだ。

それでも、その後、両スタジアムにも芝が張られた。また、W杯開幕戦が予定されているにもかかわらず建設工事が最も遅れていたサンパウロのスタジアムも年内か、来年初めには完成する予定だ。FIFAからも「開幕戦はサンパウロ開催で間違いない」というお墨付きをもらった。

スタジアム建設に関しては、何とかメドがついた。各地の空港、宿泊施設、交通手段の整備といったインフラ面ではまだ課題が多いが、大会運営に支障をきたすほど深刻な状況ではなさそうだ。

汚職根絶や治安改善…要求幅広く

現時点における最大の懸念材料はデモによる混乱だ。

6月初めにサンパウロで発生したバスの運賃引き上げに反対する小さなデモが瞬くうちに全土へ広がった。訴える内容も交通や教育、健康、治安改善など公共サービスの向上、政財界の汚職根絶、インフレ抑制といった経済、福祉政策全般に関する幅広い要求に姿を変えた。こうした状況にありながら、W杯と五輪のために分不相応にぜいたくな施設を巨額の税金を費やして建設することに対する反感が高まった。

折しも、6月にコンフェデ杯が開催され、外国のメディア関係者が大勢やってきて世界の耳目がブラジルへ集まったことから、開催地の中心部やスタジアム周辺などで大規模なデモが発生したのである(デモ隊が掲げたプラカードの中には「日本人よ、君たちの教育水準と我々のサッカーを交換しないか」というものもあった)。

当初、デモの参加者は学生や若い労働者が中心で、おおむね平和的に行われていた。しかし、無政府主義者のグループなどが加わって政府機関、多国籍企業、銀行、大手メディアを標的に暴力行為を働くようになり、さらに混乱に乗じた略奪行為もあり、警備側も催涙ガス、ゴム弾などを使用して対立が激化した。一時は大会の進行が危ぶまれたほどだった。

一枚岩でない参加者、国民の反感多く

その後、政府は「公共サービスの改善に努力する」という方針を発表し、地方自治体の多くも公共交通機関の運賃引き上げを撤回するなど、国民の不満をなだめようと神経をとがらせている。とはいえ、問題の根は深く、これらが根本的に解決されたわけではもちろんない。

コンフェデ杯が終わると外国のメディア関係者の多くが帰国し、注目度が低下した。また、デモの参加者も一枚岩ではなく、暴力行為や略奪行為に対しては国民の多くが反感を抱いていることもあって、デモは沈静化する傾向にある。

7日の独立記念日、大きな混乱なく

9月7日はブラジルの独立記念日で、首都ブラジリアなど各地で記念式典が開かれ、それに対抗して再び大規模なデモが発生するという観測があった。しかし、デモは起きたものの参加者の数は予想を下回り、大きな混乱はなかった。

来年のW杯前後にまた各地でデモが発生し、警備側と激しく衝突するという事態は十分に起こりうる。W杯の観戦者と取材者は混乱に巻き込まれないよう注意する必要があるだろう。

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