教えてパックン コミュ力がない……「秘訣はまね」
タレント パトリック・ハーランさん

U22で大学生に取材を続けてきて、気になっていることがあった。実に多くの学生が、コミュニケーションについて心配しているのだ。「コミュ力がない」「コミュ障だから就活が心配」とこぼす場面に何度も遭遇した。そもそもコミュ力って何だろう。そこで、ハーバード大学出身のタレントで、コミュニケーションに関する著書もあるパックンことパトリック・ハーランさんに会いに行ってきた。取材したのは、匿名でブログでの情報発信をしている現役大学生、意識高い系中島さんだ。
中島 匿名でブログを使って情報発信をしている、意識高い系中島と申します。
パックン ほー。面白いね。大学では何を専攻しているの?
中島 理工学部で制御工学という分野を勉強しています。
パックン ブログではどんなことを発信していますか?
中島 恋愛ネタもあるし、本の紹介とか英語の勉強のことなども書きます。ブログが縁でイベントも開催することもあるので、初対面の学生と会ったりメールをもらったりすることが多いのですが、やっぱり多くの学生が自分のコミュ力に悩んでいるんです。
パックン そうなんだ。中島君自身はコミュニケーションの機会が多そうだけれど、普段話をするときに意識していることはありますか?
中島 相手が話していることをいったんは肯定することを意識しています。「そんな面白いことやってるんだ」「いいね」といった言葉をまず言ってから、その後で、「ここはこう変えたほうがいいんじゃない?」といったアドバイスをすることもあります。楽しい雰囲気で会話する入り口をまず作ろうと思っています。
パックン すばらしい! 相手の言っていることをまずは認める。これは大事だよね。ところで、中島君はブログ以外には何やってるの?
中島 実は高校時代からお笑いも……。大学でお笑いのサークルに入って漫才をしていました。
パックン そうなの? ネタ教えてくださいよ!
中島 僕はツッコミなんですけど……。ここでやって伝わるかなあ。相手が自分の特技の話をしてる場面なんですけど、僕には相手の特技のすごいところが全然わからないっていう状況で『おまえ何もないな、カザフスタンかよ』ってつっこむのですが。
パックン カザフスタン?!
「必死でコミュニケーションの練習をした」
中島 カザフスタンって日本から遠すぎて、いいところがパッと思い浮かばないっていうツッコミなんですけど。
パックン なるほど。例えば、「いやいや、そんなことないよ! カザフスタンにもいいところあるよ! 国土面積が日本の8倍だよ!」ってツッコミ返したら面白いのに。
中島 それは考えつかなかった! そうかあ。
パックン といったわけで、いまいろいろ聞いたんですけど、こうやって中島さんのいろんな情報を集めて、それをもとに性格を理解したり、共通点を探して話をしたりするのが大事だと思うんです。米国の営業マンの間の常識ですが、相手が7割、自分が3割の割合で話す分量を心がけると、相手はちょうど半々に感じると言われている。とにかくまずは聞くことから始めるんです。

中島 ずっと聞かれてたのか! でも、聞くことって簡単なようで難しいと思うんですが、それはパックンがもともと持っていた能力なのでしょうか。コミュニケーションは練習して上達するものなのでしょうか。
パックン 僕はよくコミュニケーションをスポーツに例えます。もともと運動神経のいい人はスポーツが得意になるかもしれません。でも、練習で上達する部分が必ずあるんです。
僕は27歳になって初めて卓球に挑戦しました。かなり本気で練習したんですよ。そうすると、若いときに卓球をプレーしていたけれど大人になるまでブランクがあるような人には、勝てるようになったんです。運動神経が抜群にいいプロのスポーツ選手が相手でも卓球なら勝てる。つまり、もともと持っている能力とは関係なく、僕は必死で訓練してきたから勝てるようになったわけ。コミュニケーションも同じで、練習すれば練習していない人より絶対上達できるんです。
中島 タレントとして有名になったパックンでも、いまも練習するんですか。
パックン もちろんです。ぼくは49歳ですが、いまも毎日のように、この人のコミュニケーションをまねしたいという人に出会う。この人すごいなと思ったら、何を盗めるかって考えるんです。スポーツをしていると、憧れの選手のまねをしてみたりするでしょ。それと同じ。まねして、練習するんです
中島 どうやって練習したらいいんでしょうか。
質問ゲームで聞き上手になる練習
パックン 質問ゲームがおすすめです。ひたすら相手にぶつける質問を考えるんです。スポーツやってますか? どこで育ちましたか? 好きな食べ物は? 映画は興味ありますか? 住みたい国はどこですか? できれば、whyとhowが入った質問ができるとさらにいい。どうして? と聞けば、そこから相手のストーリーが見えてくる。そうなれば、本物の聞き上手です。
練習の場は作ってみるといい。僕は東京工業大学で教えているんですけど、コミュニケーション論の講座では、大学内と大学の外で、初対面の人に話しかけて会話するという宿題を出すんです。受講した学生によると、この宿題がいちばんキツいけれど一番役に立ったといいます。提出されたリポートを見ると実に面白い。バス停で一緒に待っている人に声をかけたとか、喫茶店で相席をお願いして会話をしてみたとか。
中島 すごいなあ。むずかしそうだけど。

パックン でも、嫌な経験をした人や、断られたという人はほとんどいない。練習して、どこで失敗したか分析して、また次につなげる。東工大には自分はコミュニケーションが苦手だと思っている学生が多いんですが、受講した学生はすごく変わります。就活で役立ったっていう人もいます。
中島 一対一であればいいけれど、交流会とかパーティーみたいな大人数の集まりで会話に入るのが難しいと感じる人が多いんですけど、なにかコツはありますか。
パックン 開口一番使える魔法の言葉があります。「こんにちは!」です。まずはそれだけでいい。続けて、さきほどの質問ゲームを実践するんです。どこから来たんですか? 僕は初めてなんだけど、よくいらしてるんですか? とかね。すでに会話が盛り上がっているグループに入るのは勇気がいると思うけど、ちょっとだけ空気を読んで、今日は1人で来たのでお話にいれてもらっていいですか? と聞いてみる。空気を読むことも、上手な人のまねをするといいです。
じゃあ練習。質問ゲームをしてみましょうか。中島さんから僕に何か質問してくれる?
中島 住んでみたい国はどこですか?
パックン カザフスタン!
中島 ははは! そうきますか!
パックン こうやると話が広がりやすいでしょ。
中島 コミュ障だと思っている人も、なんとかなるんですね。
パックン コミュ障と思っている人は、おそらく過去にそれなりに苦い思いをしてきているんだろうと思うんです。でも、簡単に直せるものだと言ってあげたい。練習しましょう。きっと上達しますから。話し上手は聞き上手。真顔でいいから前のめりになって、うんうんってうなずきながら相手の話を聞いてください。質問してください。そこがスタートです。
(取材・構成 藤原仁美 取材は3月に実施しております)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。