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リンクス旅に出かけよう 英国最北の島々に珠玉のコース 究極の癒やし求めて

ゴルフ作家 山口信吾

 今回は、北極圏にほど近いイギリス最北の地、オークニー諸島とシェトランド諸島にあるリンクスへご案内します。スコットランド本土から遠く離れた辺境の島々に珠玉のリンクスがあるのです。さあ、はるかなる北限のリンクスを訪ねましょう。

荒海越えて船旅、未踏の島へ

ぼくがリンクス旅を始めた1997年ごろ、ゴルフ雑誌『チョイス』に、夏坂健さんのスコットランドにまつわるゴルフ余話が、「風に吹かれて」と題して連載されていました。第12話「オークニー島に花咲き乱れて」は、「キルイッシュ」と呼ばれる9ホールのコースにまつわる話です。この伝説めいた話は心に深く残りました。

それから十数年かけて、イギリスとアイルランド各地のリンクスを隅から隅まで見て回りました。さて次はどこへ行こうかと思案していて、ふと、昔読んだ夏坂さんの連載のことを思い出したのです。古い『チョイス』を探して、あの第12話を読み直すと、がぜん、オークニー諸島への興味が湧いてきました。

ただ、いろいろ調べても、オークニー諸島にキルイッシュというコースは存在しません。夏坂さんが語ったように、キルイッシュは閉鎖され繁茂した植物によって覆われてしまったのでしょう。創作された幻のコースだったのかもしれません。

はるか遠くに灯台を望む浜辺に至れば、最果ての風情が漂う(ウェストレイ3番パー4、オークニー諸島)

さらに調べを進めると、オークニー諸島だけでなくシェトランド諸島にも、名もない珠玉の島リンクスが存在することがわかってきました。なかでも心を引かれたのは、シェトランド諸島のアンストと呼ばれる小さな島にある、イギリス最北のリンクスです。念のために所在について地元の観光局に問い合わせると、すぐに返事がありました。

「かつてバラ湾に面して非公式の8ホールのコースがあったが、1990年代に空軍基地が縮小されプレーする人がいなくなって、コースは自然に返った。今では草ぼうぼうになっていてコースの所在はわからないだろう」

ああ、まさに、夏坂健さんが語ったキルイッシュを思わせるコースです。好奇心がむくむくと頭をもたげます。

ぼくの訪れをひっそりと待っている未踏の島リンクスがあると知れば血が騒ぎます。こうして、2011年夏、最後に残った未踏の地、オークニー諸島とシェトランド諸島へ旅立ったのです。

飛行機を使えばエディンバラからシェトランド諸島へは1時間半。一方、フェリーでは、アバディーンからシェトランド諸島まで12時間の航海。荒海で知られる北海を縦断するのですから船の揺れも心配です。それでも、あえて海路をとることにしたのです。わざわざ時間をかけて船旅をしてこそ、「日常とかけ離れた世界にはるばるやって来た!」という実感が湧くはずです。

北欧文化息づくバイキングの地

世界遺産のスカラ・ブレイは、石組みの住宅6つが通路で結ばれた集合住宅遺跡

エディンバラでレンタカーを借りて、9回フェリーに乗り、5つの島リンクスを巡る旅にいざ出発! ハイランドの山々を抜けて一気に北上し、奥ハイランドに達します。イギリス本土最北端の小さな港、スクラブスターから大型フェリーに乗船し、約2時間でオークニー諸島のストロムネスに到着。

オークニー諸島には、驚くべき新石器時代の巨石文明遺跡が残っています。もっとも有名なのは、スカラ・ブレイと呼ばれる約5000年前の石造りの集落跡です。砂に埋もれていたのできわめて保存状態が良く、石の調度品もそのまま使えそうなくらいです。厳しい環境に耐えて生き抜いた太古の人々の生活が目に浮かびます。

オークニー諸島とシェトランド諸島は、1469年、デンマーク・ノルウェー王クリスチャン1世の王女マーガレット・オブ・デンマークが、スコットランド王のジェームズ3世に嫁ぐ際の持参金代わりに、スコットランド領となりました。

それから540年が経つというのに、両諸島には北欧系の伝統文化がいまだに生き残っていて、住民にはバイキングの末えいであるという意識が強いのです。両諸島の地名の多くはバイキングの言語、古ノース語に由来します。

スコットランド本土に向かうフェリーを背景にプレーする(ストロムネス14番パー4)

シェトランド諸島が北欧諸国の祭りやイベント、スポーツ試合に参加するとき、独自の旗を掲げてまるで北欧の一員であるかのようにふるまいます。オークニー諸島の人々は、オーケイディアンと自称します。自分たちをスコットランド人だとみなしていないのです。

バンカーの起源はウサギの巣穴

オークニー諸島の一番大きな島、メーンランドにある「ストロムネス(Stromness)」は、湾に突き出した小高い丘にあります。丘を上ったり下りたりしながら、変化に富んだ18ホールを回るのです。

丘に向かって打ち上げたり、丘の上から海に向かって打ち下ろしたり、池越えにティーショットを放ったり、池の中に配置された小さなグリーンを狙ったり、興が尽きません。

丘の上からは、湾の対岸にそびえる山々と白亜の灯台を背景に、湾を行き交う大小の船が見えます。絶景に見ほれてプレーを忘れそうになります。

ウサギの巣穴が広がった野生のバンカー(サンデー1番パー4)

オークニー諸島には、大小70余りの島々があり、メーンランドと小型フェリーで結ばれています。住民490人余のサンデー島に向かいました。上陸して小さな村を通りすぎても人々の姿は見えず、行き交う車もありません。一面に続く牧草地を貫く一本道をさらに進むと、「サンデー(Sanday)」GCと書かれた看板を付けた小屋を道路脇に見つけました。

コースに立ち入ると、足の踏み場がないくらい一面に動物の落とし物。リンクスの主役は、牛と羊とウサギなのです。人間が、ちょっとお邪魔してゴルフをさせてもらうのです。

羊が入らないように簡素な柵で囲まれたグリーン(サンデー4番パー5)

至るところにウサギの巣穴があります。強風によって巣穴が広がって砂地が剥き出しになっています。バンカーの起源はウサギの巣穴なのです。フェアウエーは固く、長い芝草の抵抗もあって、ヘッドを振り抜くのが難しい。

草むらに消えたボールを探したり、ウサギがつくったバンカーにてこずったり、次のホールのティーグラウンドを探したりしながら、やっとのことで9ホールを回ったのです。回り切っただけだというのに、不思議に達成感があり喜びがあります。原初のゴルフを堪能しました。

想像を絶する風景、断崖に沿ってプレー

オークニー諸島の中心都市、カークウォールを大型フェリーで夜半に発ち、翌朝7時にシェトランド諸島の中心都市、ラーウィックに到着。そのまま港から北に少し走り、小さなフェリーに乗り換えて、ウォールシ島に向かいました。

島に上陸し、荒涼とした細い道を延々と走ると、行き止まりにクラブハウスがポツンと立っています。「ウォールシ(Whalsay)」は、海に向かって突き出した半島を丸々占拠しているのです。

グリーン脇に超然と立つ廃屋がこの土地の歴史を雄弁に語っている(ウォールシ1番パー4)

クラブハウスに人影がないので途方に暮れていると、プレーにやってきたひとりの会員が、裏手の物置小屋に案内してくれます。そこに置いてある古びた手引きカートの中から、好きなのを選んで使えと言うのです。クラブハウスは週末だけ営業しているそうです。1000人余りの島民のうち約100人がクラブの会員。かつては200人が会員だったそうです。

ウォールシの1番パー4のティーグラウンドに立つと、眼前に荒涼とした風景が広がっています。海に向かって伸びるフェアウエーの先には、岬が長く海に突き出しています。高緯度ならではの冷涼な海風が吹き抜けてすがすがしい。深呼吸をするとなんともいい気分です。

少しでも引っかければボールは断崖を転がり落ちて北海の藻くず(ウォールシ16番パー4)

海に向かって打ち下ろしたり、丘に向かって打ち上げたり、海を越えて打ったり、断崖に沿って打ち進んだりします。フェアウエーの途中に思わぬ断崖の裂け目があったりして気が抜けません。

16番パー4は北海に沿った雄大な打ち下ろし。ティーグラウンドに立つと、想像を絶する風景が目前に広がっています。フェアウエー左には、深い切り込みのある断崖絶壁がどこまでも続いているのです。一気に気分が高揚します。

海を望む高台から、大きな弧を描く池を越えてティーショット(ウォールシ18番パー4)

フェアウエー右の50メートルほど先に、羊が1頭立っているのに気がつきました。危険な断崖を念頭から外し、羊を目標にして"羊越え"のティーショットを放ちました。羊の真上を越えて高く飛翔(ひしょう)した白球は、フェアウエーに落ちてどこまでも転がっていきます。気分は最高! この一打のためにはるばるシェトランドまでやってきたのです。

強風に耐えながら丘を上ったり下ったりして、へとへとになって18ホールを回り終えました。なにかを成し遂げたという満足感が湧いてきました。

谷の両側にそびえる山が海に向かって稜線(りょうせん)を伸ばし、沖合には小島が浮かぶ(シェトランド2番パー3)

心やさしい人々の思わぬ厚意

「シェトランド(Shetland)」は谷間にあり、三方を山に囲まれ、一方は入り江の海に面しています。コースのどこにいても、遠くの海を一望できます。コースの中央を海へ向かって二筋の川が流れています。谷間を吹き下ろす風の中、谷を打ち下ろしたり、谷を打ち上げたり、川を越えたりしながら、変化に富んだコースを堪能しました。

次の日、もう一度、写真撮影のためにシェトランドGCを訪れました。この日は設備工事の会社が主催するコンペで、コースは貸し切りになっています。コースの写真を撮っていると、だれかが呼びに来て、設営されているテントに案内してくれます。

コースを縦断して流れる川が戦略性を高めている(シェトランド3番パー4)

焼いている肉やビールを勧めてくれるのです。コンペに参加しているわけでもないのに、会社のロゴが入ったボールを記念にと渡してくれます。しばらく楽しくすごしたあと、別れを告げて車に戻ると、ひとりが追いかけてきて、社名入りのTシャツを土産にといって届けてくれました。見知らぬ旅人に対してなんという厚意でしょう。

みずみずしい生命感あふれる地

ラーウィックを午後7時に出航する大型フェリーに乗り込みました。北海を350キロ縦断してアバディーンに向かうのです。船室に荷物を置いて、さっそくレストランに足を運び、夕食に子羊のシチューを頼みました。厳しい自然環境で育ったシェトランド産の子羊の肉はやわらかくて臭みがなく本当においしいのです。

食事を終えて船のデッキに出て、夕闇に消えていくシェトランドの島影を見送っていると、旅で出会った人々のやさしい笑顔が思い浮かびました。

夜風に吹かれながら、オークニー産のシングルモルト、ハイランドパークを口に含むと、淡いピート香が鼻孔をくすぐったのです。その瞬間、なぜここ数年にわたって辺境の地にあるリンクスを巡ってきたのか、なぜ最果てのリンクスにこれほどまでに魅了されるのかがわかったのです。

最小限の手しか加えられていない海と一体になった最果てのリンクスは、みずみずしい生命感にあふれています。海を渡る冷涼な風を全身に受け、野趣あふれる自然の造形を楽しみながら、北の大地を踏みしめてゴルフをすれば、深いところから元気が湧いてきます。最果ての地のリンクスでのラウンドは、究極の癒やしなのです。

多くのモノに囲まれて便利に快適にすごしていると、人間は本来の生命感を失っていきます。生命感を取り戻すために、そして生きる元気と勇気をもらうために最果てのリンクスに向かうのです。

 やまぐち・しんご ゴルフ作家。1943年台北市生まれ。九州大学工学部建築学科を卒業、同大学院を修了。ハーバード大学大学院を修了後、竹中工務店やシカゴの大手建築事務所に勤務し、主に都市開発プロジェクトに従事。現在は民事調停委員を務めながらゴルフに関する執筆を続けている。43歳でゴルフを始めた遅咲きシングルゴルファー。著書に『普通のサラリーマンが2年でシングルになるための18の練習法』『普通のサラリーマンが2年でシングルになるための7つの基本動作』(共に日本経済新聞出版社)など、ベストセラー多数。

(次回は10月中旬掲載予定。毎月1回、掲載します)

[図解]月イチゴルファーの上達を阻む72のカン違い

著者:山口 信吾
出版:PHP研究所
価格:1,365円(税込み)

定年後はイギリスでリンクスゴルフを愉しもう―カラー版 (日経ビジネス人文庫)

著者:山口 信吾.
出版:日本経済新聞社
価格:1,000円(税込み)

定年後、ゴルフに耽る。―リンクスめぐりの達人が教える手作り旅行 (ゴルフダイジェスト新書)

著者:山口 信吾.
出版:ゴルフダイジェスト社
価格:949円(税込み)

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