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スコアアップ工房 飛ぶアイアンのはずが… ロフト角を巡る誤解

クラブデザイナー 喜多和生

キャリアの長いゴルファーなら覚えていると思いますが、以前のアイアンセットは3番から9番、ピッチングウエッジ(PW)、サンドウエッジの9本セットでした。ところが、最近のセットは5番から9番、PWまでの6本売りが主流になっています。雑誌で紹介される女子プロのクラブセッティングでも、アイアンは5番からが主流になっています。「プロでも5番からなら、ましてやアマチュアは……」という雰囲気もセット内容の変化を後押ししているようです。

ゴルファーの「少しでも遠くに飛ばしたい」という気持ちはドライバーだけでなく、アイアンにもある

かつての4番アイアンとほぼ同じ

ロングアイアンが難しいのは、ゴルファーなら誰でも知っています。ですから「3番アイアンは打ちにくいが、5番ならOK」と期待して最近のセットを打ってみると、5番が予想以上に難しいことに気づくはずです。なぜでしょうか。

実は最近の5番アイアンはシャフトの長さやロフト角がかつての4番アイアンとほぼ同じ、いわゆる「ストロングロフト」になっているのです。ですから5番といっても、実態は4番アイアン。ですから以前の5番ほどショットの精度が上がらない理由もうなずけるでしょう。

仕様だけがなぜ変わった?

表は現在人気のゼクシオ・フォージド・アイアンとジョイメニィーでアスリート向けに製作しているJM501Rのロフト角、シャフトの長さを比較したものです。

ゼクシオ・フォージド・アイアンロフト角2022242730343944
シャフト長さ3938.53837.53736.53635.5
番手3456789PW
ジョイメニィーJM501Rアイアンロフト角2124283236404448
シャフト長さ38.53837.53736.53635.535.5

これを見ると、JM501Rの4番とゼクシオ5番の仕様がほぼ同じ。PWと9番のロフトが同じことがわかります。PWだけを見れば30年前にはロフトが50度だったのが、現在は44度。その差は6度。これは1.5番手くらいロフト角が立っていることを意味します。

番手表示だけはそのままで、なぜ仕様だけ変わったのでしょうか。最大の理由はゴルファーの飛距離への飽くなき欲求です。「少しでも遠くに飛ばしたい」という気持ちは、ドライバーだけでなくアイアンにもあるものです。パー3のティーショットで同伴プレーヤーが自分より短い番手で打っていると、力んでしまうケースはよくあるはずです。

アイアンの飛距離アップで一番簡単な方法がロフト角を立てることです。現在のクラブは、過去の4番に無理やり「5」と刻印して5番に仕立てているようなところがあります。厳密にはシャフトの長さがそれほど伸びていないので、刻印だけ変えているというのはややオーバーな表現ですが……。

最近のアイアンセットは本数が少なくなり、ウエッジは単品売りが主流になっている

ロフト角立てると低い弾道に

同じ番手でもロフト角を立てるストロングロフトで、飛距離は伸びる可能性があります。しかし、ロフト角を立てれば、弾道は低くなります。実はこれが大問題なのです。

飛距離はボールの初速、打ち出し角、スピン量で決まります。特にアマチュアの場合、ボールはある程度高く上がって、落ち始めるまでの間に距離を稼がないと設計通りの飛距離が出ません。いわゆる「ボールが上がり切らない」といわれる現象です。

ロフトが立ったアイアンで打ったボールは、初速は同じでも、打ち出し角は低くスピン量も少なくなります。すると、ボールが上がり切らないうちに落ちてしまうのです。これではボールが空中にある間の距離が稼げません。

ストロングロフト化に拍車

ゴルファーなら、ある程度ボールが上がらなければ飛距離が出ないことを知っています。ですから"上がり切らないボール"だと、本能的に「何とか高さを出そう」と下からボールをあおるような打ち方になってしまいがちです。

つまり、ある程度のロフトがなければアイアンの飛距離は出ないのです。ところが、ロフトを立てれば飛ぶようになるという誤解(これはドライバーでも言えることですが)が独り歩きするようになり、「飛ぶアイアン」を求めるゴルファーにメーカーが売り込もうと、ストロングロフト化に拍車がかかります。

それが"上がり切らないボール"の原因となり、相変わらずゴルファーには難しいまま――という図式ができあがるわけです。

ストロングロフトの影響で、存在自体が風前のともしびといえるのが3番、4番などのいわゆるロングアイアンです。ショートアイアンなどの短い番手では、ロフト角を立てることによって飛距離アップが見込めますが、長い番手であまりに少ないロフトになるとボールを上げることすらままならないクラブになってしまうからです。

店頭では「飛ぶアイアン」は根強い人気があるが、意外な落とし穴もある

取り残されたロングアイアン

ロングアイアンの番手間ロフトを2度近くにまで小さくしてロフト角を確保しようとするメーカーもありますが、それでは番手間の適正な飛距離差が出ません。「番手をそろえるためにロフトを合わせる」ではセッティングの意味がなく、本末転倒です。

ボールの上がりやすいクラブを開発するなどの努力もされていますが、ロングアイアンだけが取り残さたような印象さえあります。このため現在は、ロングアイアンの距離をショートウッドやユーティリティークラブで補おうというセッティングが主流となっているのです。

一方、ロフトが立ちすぎると100ヤード前後のアプローチの距離の打ち分けが難しくなります。メーカーはこうしたニーズに対応するために、ロフトのバリエーションを付けたウエッジを単品で販売しています。

セット以外のクラブ販売促進も

ロフトの刻みが細かくなれば、アプローチの精度は向上するように思えます。しかし、こちらはこちらで、ちょっとしたクラブの入り方の違いで設計通りの距離が出ないという問題も抱えています。

メーカーとしては苦手な距離に対応するように設計されたウエッジの販売が伸びれば、これに越したことはありません。ところが、実際には距離をきちんと打ち分けるのが難しいというのが実情です。アイアンのストロングロフト化は、セット以外のクラブ販売促進に一役買っているという側面もありそうです。

 きた・かずお 1966年ミズノに入社、クラフトマンとして中嶋常幸、鈴木規夫、岡本綾子らトッププロのクラブを手がけた。90年にゴルフクラブ工房の「ジョイメニィー」を設立。「クラブがスイングを創る」をテーマにプロ担当経験を生かし、アマチュア向けクラブも製作する。92年に製作したドライバーがクラフトマンモデルとしては世界で初めて、英セントアンドルーズゴルフクラブにあるR&A(ロイヤル&エンシェント)のゴルフミュージアムに展示されている。

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