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日米4000安打目前、イチローが足踏みする「事情」

スポーツライター 丹羽政善

16日のレッドソックスとの試合前、ヤンキースのクラブハウスは人であふれ返っていた。ボストン・フェンウェイ・パークのビジタークラブハウスは、メジャーでも一、二を争うほど狭い。そのうえ、アレックス・ロドリゲスと禁止薬物を提供したとされるマイアミのクリニックとの関係が暴露された直後、矛先をかわすためか、ロドリゲスの仲間がライアン・ブラウン(ブルーワーズ、すでに65試合の出場停止)らも薬物に手を染めていると一部メディアにリークしたと報じられたことで、多くのメディアが集まっていたからだ。

喧噪続く試合前のクラブハウス

「彼のことを信用するか?」。バーノン・ウェルズが取材を受けているとき、隣のロッカーに座っていたイチローの近くまで記者の輪が広がった。イチローにしてみれば、さぞかし居心地が悪かったに違いない。

もっとも5日にロドリゲスが復帰してからというもの、試合前のクラブハウスはこの手の喧騒(けんそう)が尽きない。

それが理由ではないだろうが、イチローは12日に行われたエンゼルス戦の3打席目に日米通算3994本目のヒットを打ってから、11打席ヒットから遠ざかった。16日の5打席目にようやく3995本目のヒットが出たが、目前と迫った4000安打にはなかなか届かない。

スタメン外れる試合少なくなく

歩みが遅い大きな理由は、打てないからというより、むしろ打席数そのものが少ないところにある。これまでも大きな記録を前に足踏みすることはあったが、今回は状況が違っている。

例えば、7月30日からの遠征でイチローのスタメン出場は8試合のうち4試合だった。8月12日からのホームでのエンゼルス4連戦でも2試合にとどまった。そのスタメン出場しなかった6試合のうち、相手の先発が左投手だったことが5回。それが分かりやすい理由ではあるものの、イチローは今季も通算でも左投手に対して3割以上の打率を残している。

ではなぜか、というところだが、ジョー・ジラルディ監督が左対左、右対右を嫌うことに加え、チーム内で外野手、指名打者が混み合っていることが、イチローの立場を複雑にしている。

動くのか、現状維持か。主力の故障が続出し、かろうじてプレーオフ争いにとどまっていた7月終わり、ヤンキースの動向が注目された。必要と言われていたのは5、6月に不振を極めたウェルズの代役、つまりパワーのある右の外野手だ。

外野手が3人から5人に

するとヤンキースは7月26日、カブスから外野手のアルフォンソ・ソリアーノをトレードで獲得するという分かりやすい補強をしている。

ただ、8月2日に左手小指の骨折で5月末から戦列を離れていたカーティス・グランダーソンが復帰すると、外野手がイチロー、ウェルズ、ブレッド・ガードナーの3人から5人に増え、ややこしくなった。

ウェルズがまず、レギュラーを外れる第1候補だったが、彼は7月に打率2割9分2厘、8月は15日現在で3割6分4厘という打率を残し、まだ価値があることを証明している。また今季、左投手に対し打率3割以上と相性がよいため、相手先発が左投手ならば、イチローよりも彼が優先して起用されている。

残り4人の中では、グランダーソンとガードナーは完全にレギュラー選手扱いなので、相手先発が誰であるかはさほど関係がない。

ロドリゲス復帰で構想崩れる

ソリアーノはトレードで獲得した選手だけに、しばらくは出場機会を与え、それでどう起用するかを判断すると見られていた。ところが13日からの4試合で、18打数13安打(7割2分2厘)、5本塁打、18打点と活躍すると、今のチームには欠かせない存在となった。

日本のプロ野球・広島でプロとしてのキャリアをスタートさせたソリアーノの場合、左翼の守備に不安があるため、当初は主に指名打者で起用される見込みだった。

その場合、外野はイチロー、グランダーソン、ガードナーの3人を中心に回すと予想されたが、出場停止となる可能性があったロドリゲスが戻ってきて、この構想が崩れた。ロドリゲスは三塁手だが、常時守ることは無理で、週に1、2回は指名打者の枠を彼のために空けなければならない。

となると、ソリアーノ、グランダーソン、ガードナーの3人で外野が埋まってしまい、イチローの立場が微妙となったのだ。

出塁率で上回るガードナー

タイプが似ているイチローとガードナーは16日時点で、打率ではイチロー(2割7分4厘)がガードナー(2割7分1厘)を上回っているが、出塁率では逆にイチロー(3割1分)はガードナー(3割3分9厘)を下回る。この差が小さくない。

イチローがヤンキースに加入した直後、ジラルディ監督はイチローを1番で起用する案を明確に否定していた。「ガードナーの出塁率の方が高い。だからリードオフは彼に任せる」。この評価というのは今も変わらない。

毎日試合に出ないと、打者はバッティングのリズムをつかみにくい。そこにも悪循環が生まれるが、イチローは先日、こうした状況に対してこともなげに言っている。「去年、僕が来たときから言っているように、ようは『ここをやってくれ』と言われたときに、僕がいればいいと思ってますから」

自身の"変化"を否定せず

打順は下位、対戦相手の先発が左投手のときはスタメンから外れる、レフトの守備もやってもらう。昨年、そうした不利なトレードの条件をのんだ時点で、すべてを受け入れたということのようだ。言ってみればそれが、今のイチローの立ち位置だ。

昨年のオフ、フリーエージェントとなったときに別のチームでマリナーズ時代の役割を求めることもできたかもしれないが、それをせず、かつての自分ではないという"変化"を否定しなかった。

それは、薬物に手を出し、発覚しそうになると証拠の隠蔽を図り、実際に処分が下ると今度はその軽減を狙って行為を認めない選手とは、潔さの面で対照的ともいえる。

おそらくこの状況は、今年限りではない。5人の外野手の中ではグランダーソンの契約が今季で切れるが、ヤンキースは再契約の意向だ。となると、来季も状況は変わらない。

ただ、それでもイチローは黙って状況を受け入れるのだろう。今と同じように。

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