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苦戦する日本人野手 パワー面の不利、克服できず

スポーツライター 杉浦大介

田中賢介は7月に一度はジャイアンツでメジャーに昇格したものの、わずか15試合、34打席に立っただけで再びマイナー落ちの憂き目を味わった。さらに中島裕之、川崎宗則もマイナー暮らしを余儀なくされるなど、米国に渡った日本人野手にとって受難の時代が続いている。特に内野手がメジャーで力を発揮できない理由はどこにあるのか、関係者に意見を求めてみた。

ワールドシリーズ出場組もいるが…

過去の日本人選手のメジャー挑戦の歴史を振り返れば、内野手でもある程度の実績を残した例がないわけではない。

井口資仁(ホワイトソックスなど)、松井稼頭央(ロッキーズなど)、岩村明憲(レイズなど)はそれぞれの所属チームの主軸としてワールドシリーズに進出。井口は4年で494安打、松井稼は7年で615安打、岩村も最初の2年間で312安打と残した数字も悪くない。

ただ、その3人も入団時の投資に見合った活躍ができたかどうかは微妙なところだろう。そして近年は、西岡剛(2011年にツインズ入団)、川崎(12年にマリナーズ入団、今季からブルージェイズ)、さらに今季アスレチックスに入った中島、ジャイアンツに加わった田中もそろって苦戦している。

「日本人野手は割り引いて考える必要」

「日本人野手は第4の外野手かユーティリティー(複数のポジションを守る)内野手とみなされるべきだ。(日本での)立場から割り引いて考え、役割を探さなければならない」

11年秋にスポーツ・イラストレイテッド誌のトム・バードゥッチ記者が書いたコラムの中に、あるスカウトのそんな言葉が記されていた。ブルワーズの主力外野手として地位を得た青木宣親のような例はあるが、メジャー定着すらかなわない近年の内野手たちの実績を見る限り、上記の指摘は的外れではないように思える。

「ストライクゾーンやボールの違い、天然芝と人工芝の違い、スタジアムの大きさの違いとか、日本人選手の苦戦には多くの要素が考えられる。うまくいかなかった理由は選手によって違うんじゃないかな」

07~08年にプロ野球オリックスの監督を務め、現在はメッツで指揮を執るテリー・コリンズはそう語る。日米の野球を熟知する監督の言葉通り、他にも日程の厳しさ、生活環境の違い、所属チームとの相性など、本当に様々な影響が考えられるのだろう。

ステップ、肩の強さなどに物足りなさ

「(西岡)ツヨシに関しては、日本ではショートだったのにセカンドでも試されて、リズムがつかめていない印象を受けた。彼はライナーを打つのがうまく、スピードもあり、バントもできる。右打席ではパワーもある選手だからね。守備が落ち着いていれば、打撃成績も付いてきていたんじゃないかとも思う」

「中島は米国野球向きのスイングを持っていると思っていたから、彼がここまで苦しんでいるのには驚かされた。多くの日本人野手たちは当てにいく打者だけど、中島はパワーもあったから、彼はもっとやれると思ったよ」

コリンズ監督はそう指摘するが、西岡は日本でも二塁、遊撃手で併用された経験があるだけに、コンバートだけに要因を求めるのは少々強引かもしれない。しかし、天然芝のフィールドでのステップワーク、肩の強さなど、守備面の物足りなさを語る声も聞こえてきていた。だとすれば、守備からリズムを崩していったという見方は一理あるのだろう。

中島、オープン戦での出遅れ響く

今季が渡米1年目の中島は、オープン戦で不振とケガが重なり出遅れてしまったのが響いた印象がある。今では、2年連続地区優勝を目指すチーム内で役割が見つけづらくなってしまった。中島の準備が整う前にチームは別の方向に進むことを選択した感もあり、やや不運にも思えた。

「様々な意味で違いのあるリーグに飛び込んでくるのだから、適応のための期間はどうしても必要。ただ、日本人選手の場合はもともとの給料の高さ、期待の大きさ、"ルーキーではない"という認識から、即座に結果を求められる。そしてそれができないと"失敗"と見なされてしまうようにも思える。日本人に限らず、どんなすごいスーパースターでも、いきなり数字を残せる選手はほとんどいないことを忘れるべきではない」

ニューヨークの地元テレビ局「NY1」でプロデューサーを務める日系人で、自らも大学まで野球経験があるザック・タワタリ氏はそう語る。獲得時に大金が費やされる場合が多いことから、日本人選手に与えられる適応のための時間が極めて限られているのは事実だろう。

「パワー面のハンディ」を誰もが指摘

井口、岩村など1年目からスムーズに結果を出した例もあるが、アジャストメントのスピードは人それぞれ。決して器用なタイプに見えなかった松井稼はメッツでは内野手としてほとんど「失格」のレッテルを貼られたが、徐々になじみ、移籍後のロッキーズでは二塁手として及第点以上の守備力を披露していた。そういう意味で、コリンズ監督も評価するツールを持つ中島は、今季中は出番に恵まれずとも、メジャーリーガーとしての成否に結論を出すのは早過ぎるのかもしれない。

このように複数の関係者がいくつかの原因を挙げてくれたが、その中で一つだけ誰もが指摘した要素があった。「パワー面のハンディキャップ」である。

「アメリカ野球ではパワーは重要な要素だ。守備が重要な内野手といえども、打席では打球を遠くに飛ばすことも求められる。中島が成功できると私が思った理由はそれだったんだ」(コリンズ監督)

「日本人選手はパワーに欠ける選手が多い印象を受ける。打席に立っているのを見ても怖さが感じられないし、守備面でもいわゆる"強さ"が感じられない。二塁、遊撃といった守備優先とされるポジションでも、ある程度の打撃力は必要。力強い打球を飛ばせる選手なら、守備が最高級でなくとも目をつぶってもらえるが、打撃面でそのレベルに達している選手が少ない」(スペイン語版スポーツ専門局・ESPNデポルテスのエイドリアーノ・トーレス記者)

バットにボールを当てにいく打者多く

「ナチュラルなパワーの平均値で、日本人が米国人やラテン系選手に劣っているのは事実なのだろう。松井秀喜のようなパワーヒッターもいたが、その数は多いとはいえない。他の面で貢献のすべを探すことはできるが、パワーに恵まれているにこしたことはないだろう」(タワタリ氏)

メジャーにやって来る日本人野手の多くは、フルスイングせずにバットにボールを当てにいく「スラップヒッター」である。トーレス記者の言葉通り、打席に立っただけで相手に恐怖感を与える選手はほとんどいない。

機敏さと、はつらつプレーで一時は存在感を発揮した川崎、内野手としてはスローイングに難のあることが発覚した後、外野に転向して適応力を示した田中のように、別の形で貢献の手段を見つけることはできる。米国人、ラテン系の中でも、パワーがなくとも活躍しているメジャーリーガーはいる。

ただ、長打率が打者の能力の重要な指標として挙げられるメジャーにおいて、パワー不足がハンディキャップであることは事実。その部分をカバーして長く活躍していくためには、他に飛び抜けた長所を持つ必要がある。パワー面の平均値の低さが、日本人野手全体の厳しさにつながってしまっているのは否めない。

メジャー目指すなら「身体を強く」

最後に「メジャーを目指す選手にアドバイスするとすれば?」とコリンズ監督に聞くと、間髪入れずに「身体を強くしておくべきだと言いたいね」という答えが返ってきた。

今後、パワー面でもメジャーリーガーたちに対抗しうる日本人内野手が出てくることはあるのか。スキルと創意工夫で生き残る姿にも見応えはあるが、いつか「強さ」を武器にする選手が現れてくれれば、それはまた楽しみな挑戦になるに違いない。

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