学びの夏 日本史に夢中になれる本ランキング
夏真っ盛り。レジャーもいいが、サマースクール気分で学ぶ夏もまた一興だ。手軽に読める日本史関連の本を「再学習に役立つ書籍」「歴史を考えるきっかけになる小説」「楽しめて勉強になる漫画」の3分野で専門家に選んでもらった。
<一から学ぶ>

社会の変化を丁寧に解説 1991年に刊行され、今なお人気のロングセラー。文明史的な大転換期の中世を中心に、識字率や貨幣経済、宗教観など日本人の生活の様々な面に光を当て、社会の変化を解説していく。丁寧に語りかけるような文体に引き込まれ、マンツーマンの歴史講義を受けている気分が味わえる。続編を合わせて表題作として文庫化されている。
「歴史追跡の中に人間と社会への誠実な視線が貫かれている」(新谷尚紀さん)(1)網野善彦(2)筑摩書房(3)1260円

思考力問う入試を題材に 東京大学の日本史の入試問題を題材に、歴史の知られざる側面を語る。日本史といえば暗記科目という固定観念を覆した思考力を要求する良問を使い、一般認識と異なる角度から歴史を読み解く。続編も刊行されている。
「重要なポイントを歴史の『流れ』の中でとらえることができる」(田河慶友さん)(1)相澤理(2)中経出版(3)1050円

年表や地図が理解助ける 高校の日本史の教科書を一般読者向けに書き改めた。学界動向を反映した解説なども導入。年表や地図などの資料も理解を助ける。
「しっかり日本史の基礎を勉強したい人にお勧め。(歴史を)さかのぼるように読み込むのも一興」(谷口栄さん)(1)五味文彦、鳥海靖(編)(2)山川出版社(3)1575円
人物像から趣味まで網羅 約100人の戦国武将の素顔を紹介する。戦略や経済力から性格など、エピソードをふんだんに盛り込んで、面白く読ませる。「たくさんいる戦国武将の人物像から趣味まで網羅した一冊」(美甘子さん)(1)奈良本辰也(監修)(2)主婦と生活社(3)2100円
道という視点でひもとく 著者が急逝したために未完に終わった、紀行シリーズ。日本国内だけにとどまらず、その旅はアメリカ、モンゴルなど海外にも及ぶ。「みちという視点から歴史をひもといていく」(大友渓さん)(1)司馬遼太郎(2)朝日新聞出版(3)525~987円(1冊)
(1)後藤武士(2)宝島社(3)500円
7位 日本外交史講義
(1)井上寿一(2)岩波書店(3)2730円
8位 日本歴史災害事典
(1)北原糸子、松浦律子、木村玲欧(編)(2)吉川弘文館(3)15750円
9位 江戸の料理と食生活
(1)原田信男(編)(2)小学館(3)2940円
10位 それでも、日本人は「戦争」を選んだ
(1)加藤陽子(2)朝日出版社(3)1785円
<小説で考える>

真の剣豪への歩みたどる 功名心に燃えて関ケ原の合戦に加わった若者・武蔵。剣の修行と幾多の死闘を通じて真の剣豪としての澄んだ境地に至る姿は人生の意味も考えさせる。
宮本武蔵像を形作った小説。漫画化などの影響でファンの年代層は幅広い。「読むたび、新たな味わいがある。史実を超え、世代を超え、読みつがれるべき名作」(井手窪剛さん)(1)吉川英治(2)講談社など(3)734円(1冊)

土方歳三の生きざま描く 新選組副長の土方歳三の生涯を描く。浪人や農民の寄せ集めが当時最強の集団へと変貌する展開に、目が離せない。「誠の旗を掲げ、新選組をつくり上げた土方歳三の男らしい生きざまに魅了される」(辰本清隆さん)(1)司馬遼太郎(2)新潮社など(3)上下各830円

義に生きた男、巧みな構成 妻子を養うために南部藩を脱藩し、新選組に加わりながら義に生きた吉村貫一郎の生涯。「生き残った隊士への聞き書きと、幕末の描写が交互に出てくることで思いや深みが増していく作品」(小栗さくらさん)(1)浅田次郎(2)文芸春秋(3)上下各700円
(1)池波正太郎(2)新潮社など(3)788~882円(1冊)
5位 一夢庵風流記(文庫判)
(1)隆慶一郎(2)新潮社など(3)830円
<漫画で味わう>

美や文化で語る戦国の世 織田信長らに仕えた武将であり茶人の古田織部を主人公として戦国時代を描く。合戦などの「武」の側面ではなく、当時、珍重された茶器など美や文化に重点を置く斬新な作風が特徴だ。
「政争の裏には武力だけではない、濃密な駆け引きがあったのだと思わされる」(関口靖彦さん)(1)山田芳裕(2)講談社(3)540~580円(1冊)

合戦シーン、圧巻の臨場感 数多くの失敗を重ねながらも不屈の精神で挽回し続ける武将・仙石権兵衛秀久を主人公に、戦国乱世をダイナミックに描き出す。「とにかく臨場感があふれている。迫力の合戦シーンが見ものだ」(田山直樹さん)(1)宮下英樹(2)講談社(3)560~600円(1冊)(注・第2部「天正記」1~15巻、第3部「一統記」は1~4巻で以下続刊)

過去へ未来へ、壮大な物語 不死の生命体である火の鳥を通じ、過去と未来を縦横に行き来しながら展開する壮大な物語。架空の設定も多いが、歴史に親しむきっかけになる作品だ。「古代から未来までのめくるめく悠久の時にひたりつつ、号泣。永遠の名作」(辰本さん)(1)手塚治虫(2)朝日新聞出版など(3)1050~1785円(1冊)
(1)武田鉄矢(作)小山ゆう(画)(2)小学館(3)780円(1冊)
5位 あさきゆめみし(文庫判、1~7巻)
(1)大和和紀(2)講談社(3)578~693円(1冊)
表の見方 数字は選者の評価を点数に換算した。(1)著者、監修者など(2)出版元(3)税込み価格。複数の出版元がある書籍では表紙写真、巻数、価格は代表例として(2)に示した出版元のものを採用した。
■新しい視点で時代振り返る
再学習に役立つ書籍1位の「日本の歴史をよみなおす」は単行本と文庫の累計部数が約47万部のベストセラー。初版の1991年から売れ続けている。1~3位までで部数は合計100万部弱にのぼる。

日本史関連の本はもともと教養書として底堅い需要がある上、近年は日本史を題材にしたアニメやゲームの増加が人気を下支えしていると出版業界ではいわれている。
今回の調査では小説と漫画の推薦作品数は60を超えた。その半分を占めたのが、幕末と戦国時代の作品。誰もが知る名著がすでにいくつもあるが、新しい視点やテーマで知恵を絞り、この激戦区に続々と参入してきている。
◇ ◇ ◇
調査の方法 日本史に関係する本を「大人の再学習に役立つ書籍」「歴史を考えるきっかけとなる時代小説」「気軽に楽しめて勉強になる漫画」の3ジャンルに分け、選者には原則、1ジャンル5冊以上を順位付けしたうえで推薦してもらった。選者は以下の通り(敬称略、五十音順)
井手窪剛(加来耕三事務所)▽大友渓(楽天ブックス書籍バイヤー)▽小栗さくら(歴史アイドル)▽樺山紘一(印刷博物館館長)▽北哲司(八重洲ブックセンター本店)▽新谷尚紀(国学院大学教授)▽瀬川太郎(紀伊国屋書店新宿本店)▽関口靖彦(本の情報誌「ダ・ヴィンチ」編集長)▽田河慶友(「歴史読本」編集部)▽辰本清隆(「歴史街道」編集長)▽谷口栄(葛飾区郷土と天文の博物館学芸員)▽田山直樹(ジュンク堂書店池袋本店)▽服部龍二(中央大学教授)▽美甘子(歴史アイドル)
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