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ロッテ井口、盗塁王が極めた引きつけて打つ技法

「今日はないだろうと思っていた」。7月26日のKスタ宮城での楽天戦で、日米通算2000安打を達成したロッテの井口資仁(38)は、試合後に話した。その証拠に、プロ入りの際の目標の一つを達成した節目の試合に家族は応援に駆けつけておらず、翌日の試合から訪れる手はずになっていたという。

「今年一のスイング」の本塁打で達成

大きな理由が相手投手。残り2本としたところで対戦したのは、開幕から負け知らずの楽天・田中将大だったからだ。初回の第1打席こそ投ゴロに抑えられた。しかし四回の2打席目は、内角に食い込んでくるシュート気味の148キロの速球をうまく腕をたたんでさばく。左前打とし、節目の記録に王手をかけた。

「2打席目に安打が出たのでもしかしたらと思っていた」という六回の第3打席。それでも、邪念を消し「何も考えず」に打席に入ると、田中が投げこんだ147キロのど真ん中の直球に体が素直に反応した。「今年一番のスイング」。打球は左中間席に飛び込む、勝ち越しのソロ本塁打となった。

「球界のナンバーワン投手から打てたのはうれしい」。2本の安打はいずれも初球。追い込まれる前に打ちにいくという「勝負師」らしい積極的な打撃が功を奏した。とはいえ、井口の本塁打による1点を守りきれず、チームは逆転サヨナラ負け。「(2000安打が)勝ちにつながっていれば……。今は負けた方が悔しい」。チームをけん引するベテランは心底からは喜べない様子だった。

長距離砲からのモデルチェンジ難しく

本塁打で節目の記録に到達したというのは、ある意味で井口らしい。現在も破られていない通算24本という東都大学リーグの通算本塁打記録をひっさげて、逆指名のドラフト1位で青山学院大からダイエー(現ソフトバンク)入りしたのが1997年。デビュー戦で満塁本塁打を放ち、自他ともに認める「長距離砲」としてプロ野球生活をスタートさせた。

そのスラッガーが16年後の今年7月9日、プロ野球通算300二塁打を達成した際には「自分はホームランバッターではないので、間を抜くバッティングをしてきた結果」とコメントした。「一発狙い」から現在のスタイルである中堅から右方向を意識した打法への切り替え。生き残りをかけたモデルチェンジが、「プロに入って一番難しかった」という。

長打はそこそこ打てるものの、打率は上がらない。入団して4年目までは「打撃で悩んでいた」時期だった。2000年には左肩を故障し、戦線離脱も余儀なくされた。

盗塁で意識改革、投手を観察・研究

その状況を打破するために目指したのは「盗塁王」だった。ダイエーの同期入団でバリバリ活躍している松中信彦、柴原洋を追い抜くためにも、何らかのタイトルをとることが存在証明になる。当時の島田誠コーチのアドバイスで、具体的な目標が定まった。

「1カ月に5個」とか「1週間に1つ」などとシーズンを小分けして考え、逆算しながら盗塁を積み上げた。01年には44盗塁で念願のタイトルを獲得。走るための努力は打撃にも好影響を及ぼした。盗塁数を増やすためには、まずは出塁しなければ話にならない。「なんとしても塁に出たい」という意識が打撃スタイルを変えることになった。

スタートのタイミングを計るためには、投手の観察が必要だった。マウンド上での動作のクセに加え、自分より後ろの打順の打者に対する配球を読むことも重要になる。その結果が「より一層、ピッチャーを研究するようになった」。

00年秋のキャンプから取り組んだ二塁手へのコンバートも打撃向上を後押しした。それまで守っていた遊撃とは、併殺などの際に逆の動きをすることになり、体のバランス改善や体幹の強化につながった。一塁への送球距離が短くなったことで、無理に前進せずにボールを引き付けて捕球するケースが増え、打席でも「前に突っ込まなくなった」という思わぬ効果を生んだ。

本場の大リーグでも打撃スタイル不変

もちろん打撃そのものに磨きをかけることは怠らなかった。通常よりも捕手寄りにボールを置いたティー打撃。ミートポイントを後ろに意識したフリー打撃。スイングスピードを上げないとボールが前に飛ばないという練習を繰り返し、完成したのが「引きつけて打つ」打法だ。

投球をなるべく長く見て、できるだけ体に近いところでとらえる。手元で変化する球への対応を可能にする「懐の深い」打撃フォーム。投手からしてみると、通常なら打ちとったというところからバットが急に出てくるという感じを覚えるらしい。

そのスタイルは野球の本場でも通用した。05年にシカゴ・ホワイトソックスに移籍してから始まった4年間の大リーグ生活でも「日本でやってきたことを、そのまま挑戦したかった」と打法を変えていない。

ワールドシリーズ制覇も経験した米国で積み上げた安打は、2000本の約4分の1に当たる494本。磨き上げた打撃が本物であることの証明だろう。

井口の年度別成績
所属安打数
1997ダイエー(日)44
9893
9983
200040
01144
02111
03175
04170
05ホワイトソックス(米)142
06156
07ホワイトソックス/フィリーズ(米)124
08パドレス/フィリーズ(米)72
09ロッテ(日)126
10156
11135
12129
13101

今季は「巧打」重ねつつ「長打」も

「コンパクトに振りさえすれば、何とかなるというイメージがある」。ちょうど残り100本で迎え「いいモチベーションとなった」という今季は開幕から好調が続いている。昨年、一昨年は「右方向の打球が失速してしまう」という迷いもあったが、"飛ばない"ボールが変更された今年は「今までの自分の形がまた戻りつつある」という。

今季はトレーニングの方法も変えている。昨年までのウエート中心のものから、「疲れの残らない」柔軟性を出すものへ。専属トレーナーとも相談しながら、「先を見据えた中でどの部分を重視していくべきかを考えている」。

その成果が打撃3部門の成績に表れる。29日現在、打率は3割2分7厘でリーグ5位、本塁打は同3位につける19本、打点は同2位の63。若手の台頭で一塁にコンバートされて守備の負担が減ったこともあり、技ありの右打ちの「巧打」を見せる一方で、天性の思い切りのいい「長打」も連発する。

気持ち切り替え、次の目標はリーグV

節目の記録を達成した後、次の目標には「リーグ優勝」を挙げた。ロッテ移籍後の10年には日本シリーズを制覇したが、リーグ3位からクライマックスシリーズ(CS)を勝ち抜いての日本一だった。現在は楽天に首位の座を譲っているものの、最後の最後まで混戦が予想される今季のパ・リーグ。日米で優勝の味を知る優勝請負人は「(2000本の)喜びに浸ってはいられない」と既に気持ちを切り替えている。

(伊藤新時)

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