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マーケティングは日本を救うか コトラー米ノースウェスタン大教授に聞く
時論

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2013/7/28 3:30
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 消費に明るい話題が多く登場するようになったニッポン。だが、世界に目を転じると日本の消費財メーカーの苦戦が目立つ。長年、消費大国として君臨しながらなぜ、独創的な商品やサービスがなかなか登場しないのか。日本の企業や社会に欠けていることは何か。世界的なマーケティング学者、フィリップ・コトラー氏にその処方箋を聞いた。

■経営に深く関わる人材を

 ――1990年代以降の日本経済の停滞期は「失われた20年」と言われてきました。どこに問題があったのでしょうか。

フィリップ・コトラー(Philip Kotler)氏  マーケティング分野の世界的権威。現在も米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院で教壇に立つ。ベストセラーとなった「マーケティング・マネージメント」の重版は14回を数え、マーケティングについて、多くの日本の経営者に直接、教えを説いたこともある。
 日本文化への造詣も深く、趣味の一つに「ねつけ」(小さな象牙などに細かな彫刻を施した留め具)や刀のツバの収集がある。
 最近はソーシャルメディアが企業と顧客の関係を大きく変えることを指摘。アジア地域にも活躍の場を広げているほか、貧困撲滅など社会問題解決のためのマーケティングの活用も提唱する。82歳。

フィリップ・コトラー(Philip Kotler)氏  マーケティング分野の世界的権威。現在も米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院で教壇に立つ。ベストセラーとなった「マーケティング・マネージメント」の重版は14回を数え、マーケティングについて、多くの日本の経営者に直接、教えを説いたこともある。
 日本文化への造詣も深く、趣味の一つに「ねつけ」(小さな象牙などに細かな彫刻を施した留め具)や刀のツバの収集がある。
 最近はソーシャルメディアが企業と顧客の関係を大きく変えることを指摘。アジア地域にも活躍の場を広げているほか、貧困撲滅など社会問題解決のためのマーケティングの活用も提唱する。82歳。

 「それ以前の70年代から80年代には日本企業がチャンピオンだと言われた時代がありました。『よりよい製品をより安く作る』ことにかけてチャンピオンだったのです。当時はそれだけで欧米のメーカーと違いを出すことができました。クルマ、カメラ、家電製品、コピー機、オートバイなどがそうでしょう。でも、イノベーションで成長したものではありません」

 「日本国内だけで十分な収益を上げることができ、一部の消費財では輸出に注力しなかったのも理由です。成功はいいことですが、若干、守りに入っていましたね。失敗を恐れすぎています。そこからは成長は望めません。チャンピオンということで、傲慢にもなっていたのだとみています」

 「そして最も重要なことは戦後の日本をけん引してきた松下幸之助氏(パナソニック)、本田宗一郎氏(ホンダ)、盛田昭夫氏(ソニー)のような創業者でクリエーティブな考えを持つ人材の系譜が途絶えてしまったことです」

 ――マーケティングの側面ではどうですか。

 「(60年代に)マーケティングに必要な4つのP(プロダクト=製品、プライス=価格、プレイス=流通、プロモーション=販売促進)を提唱しましたが、日本ではまだ理解が進んでいない気がします。マーケティングそのもののステータス(地位)が低いですね」

 「どうもマーケティングをプロモーションとだけ捉え、テレビで30秒の広告を打てばいいと考えているだけのビジネスパーソンが多くいます。マーケティング担当者が果たして製品開発にまで入り込んでいるのでしょうか。価格や流通の販路(チャネル)の決定についても関与の度合いが弱いです」

 「マーケティングの担当者は経営全般に深く関わるべきですが、日本の企業の大半ではそれにふさわしい職種となっていません。米国などではCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー=最高マーケティング責任者)という役職があります。最高経営責任者(CEO)、最高財務責任者(CFO)などは日本にも定着しましたが、CMOを据える会社はごく一部です」

■技術の進歩に精通

 ――CMOの仕事はどのようなものでしょうか。

 「日本の経営者はおそらく、マーケティングは営業部門が受け持つと考えているのでしょう。そうではなくて、CMOは市場と深く関わり、どのような商品を先々作るのかということに参画しなくてはいけません。さらに新製品を投入する時期やチャンスを見極めて、新製品のポートフォリオ(組み合わせ)を最適化することも求められます。顧客の声の把握だけでなく、技術の進歩にも精通し、新しい技術を商品開発に持ち込む力量も問われます」

 「CMOは経営の意思決定を行う立場にいて、このキャリアを経てからCEOに就いて経営全般を見るのがいいと考えています」

 ――なぜ、日本はCMOにふさわしい人材が育ちにくいのでしょうか。

 「(経営トップが)マーケティングによって製品や組織を変えることができることを認識していないからです。違いを打ち出せるはずなのに、そのことがわかっていません。マーケティングをサービス機能やコミュニケーションの手段とだけ捉え、企業が目指すべき重要な役割を担えることに気づいていないのです」

■社会情勢を読む

 ――具体的にはどういうことでしょうか。

 「2008年のリーマン・ショックで米国の自動車市場は急激に冷え込みました。その時、韓国の現代自動車は自社のクルマの所有者が失業した場合を想定し、ローン返済の一時免除やクルマを返却すればその後の支払いが発生しない『失業補償制度』を作りました。経済の激変期に購入をためらっていた人たちに安心感を与えたのは言うまでもありません。現代自動車のシェアは一気に上昇しました。社会の情勢をよく読み全社的な取り組みに仕上げていったマーケティングの好例です。企業が達成すべきことを成すための力なのです」

 「格安航空会社の中にはリクライニングシートをやめて客席数を増やし、さらに運賃を3割引き下げて顧客増につなげ、収益を改善させたところもあります」

 「この顧客増が大切なのです。先進国ではさまざまな商品やサービスがあふれています。なぜ、そうした環境で売れないのかを考えれば答えはこうなります。『自分の会社に目を向けてくれる顧客が少ない』のです。足りなければ顧客を増やすしかありません」

 「自社について、顧客により深く理解してもらい、頼るくらいの特別な感情を持ってもらうまでの関係を築くことが大切です。あるアウトドア用品メーカーは長く使った用品でも満足していなければ返品を受け付けています。『この会社は自分のためにここまでやってくれるのか』と思ってもらうことです」

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