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悠々球論(権藤博) CSは本当に必要か ペナントレース、無にする恐れ

昨年のクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージで、リーグ優勝の巨人に王手をかけたときには中日のユニホームを着ていながらも、複雑な気持ちになったものだった。「そういう仕組みとはいえ、レギュラーシーズンで10.5ゲームも差をつけられた我々が勝ち上がったら、どんな反応が出てくるだろう」と。今年のセ・リーグのCSも、ことによると長丁場のペナントレースの戦いを無にする結果になりかねない。そろそろ見直すべきときにきているのではないか。

昨年のCSを思い出すと嫌な汗

中日の投手コーチとして臨んだ昨年のCSを思い出すと、今でも嫌な汗が流れてくる。シーズン2位の我々がまず、同3位のヤクルトとのファーストステージで"下克上"を食らいそうになった。1勝1敗で迎えた最終第3戦は0-1のまま八回。そこでやっとトニー・ブランコの満塁弾が出て勝ち上がったが、一時は敗退を覚悟した。

シーズン75勝53敗の中日に対し、ヤクルトは68勝65敗。9.5ゲーム差をつけていた。これで負けたらレギュラーシーズンの結果は一体なんだったのか……。一方では「しょせん2位だしなあ」という気持ちがあったのも確かで、CSでの巨人への挑戦権は「オマケ」というくらいの意識もある。それでも大差をつけた下位球団にひっくり返されて奪われるかも、となると気分のよろしいものではない。

10勝のアドバンテージあっても

こうしたことを、大差で優勝した昨季の巨人の身になって考えてみたら……というわけである。

レギュラーシーズンで10.5ゲームの差をつけたはずの中日に巨人が敗れ、リーグ優勝は優勝で変わらないけれど、日本シリーズに進めないとなったら、それこそやりきれないものが残ったはずだ。

巨人に1勝のアドバンテージがあったが、本来10ゲームのアドバンテージがつけられてもいいくらいのものだ。つまり昨年のようなケースではCSを行うこと自体、無理スジだったともいえるのだ。

CSの開催方法にも大いに問題がある。我々がなぜあそこまで巨人を追い詰めることになったのか。そのからくりこそCSの問題点だ。

待ちぼうけで試合勘鈍った巨人

ファーストステージをやっとこさ勝ち抜いた我々に、余力はなかった。巨人とのファイナルステージの先発は第1戦から大野雄大、伊藤準規、山本昌。それぞれレギュラーシーズンは4勝、1勝、3勝の投手でまさかの3連勝である。

失うもののない者の強みが出た展開といえるだろう。そしてファーストステージが行われている間待ちぼうけし、試合勘の鈍っていた巨人と、ヤクルトに辛勝し、戦力的にはきついが、気勢だけはあがっていた中日との勢いの差が出た展開でもある。試合勘を取り戻すということがいかに難しいか。独走優勝を遂げるほどのチームであっても、目覚めるまでには時間がかかる。今のCSがはらむ大きな問題といえる。

2010年のロッテはレギュラーシーズン3位からCSを勝ち上がり、日本一に上り詰め、史上最大の下克上といわれた。こうしたケースは今後もいくらでも起こりうる。1位チームが待たされるところにすでに、大きすぎるほどの下克上の芽が用意されているのだ。

半数がCS進出、薄っぺらな制度

セ、パ各リーグの6球団中、半分の3球団がCSに進めるというシステム自体、すでに成り立っていないとも思える。日本のモデルとなったメジャーのポストシーズンは30球団というリーグ全体の"厚み"があればこそ成り立っている。

アメリカン、ナショナル各リーグに東、中、西の3地区があり、6つの地区優勝球団にその他の勝率上位チームのワイルドカード組をからませる。昨年からこのワイルドカード枠が1から2に増えて、さすがにこれには「枠を広げ過ぎ」との声もあがったようだが、それでも各地区の優勝チームが主体となった争いであることには変わりない。各地区のチャンピオンが集う場であることが、メジャーのポストシーズンを納得いくものにしている。

日本の6球団中3位までが拾われるシステムはどうみても薄っぺらだ。

さらに具合が悪いのは「3位に入れば何とかなる」という仕組みが、ペナントレースの戦いをゆがめる可能性があるということだ。

エースの登板ずらし3位狙い?

1位、2位に引き離されたチームが3位狙いの戦いに絞り込むということが出てくる。昨季、広島が巨人との3連戦ではエース級の登板を回避し、次のDeNAとの連戦にぶつけたことがあった。このときはDeNAの関係者も「なにもウチを目の敵にしなくてもいいのに」とぼやいていたとか。

ちなみに昔のセ・リーグでは巨人戦を終えてきた相手と戦うのはラッキーなこと、と思われたものだった。強い巨人とぶつかったあとの球団はよれよれになるのが普通だったからだ。そんな時代があったことを考えると、DeNAのぼやきもよく理解できるだろう。

実際のところ、広島がどこまで3位争いを意識していたかはわからないが、私はもしそういう意図でローテーションをいじったとしても、責められることではないと思っている。

優勝や2位が無理となれば…

優勝や2位は無理となったときにどうするか。3位に入ればまだまだチャンスが出てくるし、何よりファンがそれを期待している。その期待に応えようとするのはむしろ首脳陣の義務かもしれないのだ。そういう制度になっている以上、現場がそちらに流れるのは当然のことなのだ。

巨人、阪神という上位2球団と3位以下の差が開き、しかもその下位グループが団子レースという今季のセ・リーグはまさに「優勝争いそっちのけ」の展開になりやすい情勢になっている。下位4球団が3位争いに方針を定めたとしても、それはひとえに"制度"がそうさせるわけで、現場の人たちを「志が低い」と責めるのは筋違いというものだろう。

04年の球界再編と前後して、プロ野球界も人気下降への危機感を持ち、何か新しいことを始めなくてはということで取り入れたのが、セ・パ交流戦であり、リーグ優勝や日本シリーズ進出権をかけたポストシーズン制だったと記憶する。

現在は両リーグともレギュラーシーズンの勝者がリーグ覇者ということになっている。それはいいのだが、日本のプロ野球ではやはり日本シリーズが最大、最高の舞台だ。リーグ覇者と日本シリーズの進出チームが異なるということになってくると、どうしてもリーグ優勝の重みが薄れる。わずか3、4年前にリーグを制した球団はどこだったかさえ、今では覚えていられないではないか。

長い目でみて球界の得になるか

CSの収益は原則的に主催球団、つまり各ステージの上位球団が手にする。昨年であれば、我々を東京ドームに迎えて戦った巨人が利益を手にしたわけだが、勝ったからよかったものの負けていたらどうだったろう。

球団によって開催利益はバカにならないだろうが、長い目でみて球界の得になるのか。その数億円のためにレギュラーシーズンの戦いを無にするようなことをしていいのかどうか。

42.195キロのマラソンを走り、一応表彰式は行うのだが、すぐに表彰台から下りてトラックに並んでヨーイ、ドン……。そんな戦いにどれだけの意味があるのか、考え直すべきときだろう。

(野球評論家)

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