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悠々球論(権藤博) 二刀流の大谷 日本ハムは"逃げ道"断つべし

投手と野手の二刀流に挑戦している日本ハム・大谷翔平だが、投球では天分を生かし切れていない。投げ込み不足の指摘もあるが、私は技術以前の根本的な部分に不安を抱いている。夢のある二刀流。だが、それは彼に逃げ道を用意することになる……。

「これ一本で」と突き詰める必要

逃げ道というのは「投球がダメでも、打撃で結果を出せばいい」とか、逆に「少々打てなくても僕には投球という仕事がある」と言い訳ができる状態のことだ。「俺はこれ一本で食っていくんだ」という突き詰めたものがないと、プロでは勝てない。

栗山英樹監督がほれこんだように、大谷の投打にはどちらも捨てがたい魅力がある。野球選手の"原石"はあちこちに転がっているが、大谷のようなダイヤモンドは何万分の1というくらいまれな才能だ。駄目な石はいくら磨いても光らないが、大谷は磨けば必ず光る貴金属なのだ。

だからこそ私は投手、野手、どちらともつかないあやふやな起用はすべきでないと思う。当初、米球界入りを希望していた大谷をドラフト指名し、翻意させたときの殺し文句が「二刀流」だったといわれる。しかし、ここは首脳陣が責任と勇気をもって決断すべきだろう。

まずは投手で、特別な才能を磨く

投手でいくか、野手でいくかとなるとこれはもう投手。投手がダメで野手に転向する選手はいるが、野手がダメで投手になるという例は聞かない。このことでわかるように、投手の才能は野球選手のなかでも特別なものなのだ。

いくら野球センスに恵まれていても、投手が務まるとは限らない。ましてや160キロの球を投げられる人など、どこにいるというのだろう。それほど得難い才能であれば、大谷という素材をまず投手として磨かない手はないわけである。

投手としてどこまで伸びるか、空恐ろしいほどの器だ。その器の大きさを、とことん確かめてみることなく終わってしまったとしたら、それは野球界全体の損失になる。

大谷は高校時代にも160キロに迫る球を痛打されていたし、6月26日のソフトバンク戦でも内川聖一、長谷川勇也に本塁打を喫した。内川に投じた球は152キロ。それにあっさり合わされるということは何かが足りないのだ。

球速表示ほどの速さを打者が感じていないとすると、腕の振りやリリースポイントの関係で、ボールがみやすいのかもしれない。その点ではまだ同期入団の藤浪晋太郎(阪神)の方が、打者のタイミングがちょっとずつずれるような投球をしている。

160キロを生かすも殺すも変化球

それでもなお、160キロの魅力は捨てがたい。それだけで投手としては大きなアドバンテージで、ほかの選手より一段も二段も高いところからスタートできるのだ。カットボールとか、ツーシームとかちょっとタイミングをはずす球を覚えるだけで、投球は一変するだろう。

いい先例がある。楽天の田中将大も入団当初は速球を十分に生かし切れていなかった。

楽天のキャンプを取材したとき、当時の野村克也監督から「今のままでは変化球投手になる。直球で空振りを取れるように教えてやってくれ」と言われた。

「黙っていても、そのうち直球で空振りがとれるようになりますよ」と私は言ったものだった。

どんなに速くても、直球だけでは抑えられない。直球を生かすも殺すも変化球で、田中の場合はスライダーに磨きがかかってきたことによって、直球で空振りが取れるようになった。

打でも日本トップになりうる素材

速いけれど合わせやすいという点で、大谷の球質は中日の浅尾拓也と似ている。その浅尾がばりばりやっていたときに、三振を取れていたのは天下一品のスライダーとフォークを持っていたからだ。大谷も変化球の精度を上げることで、球速表示が150キロなら150キロなりの"額面"通りの威力を発揮するようになるだろう。

私は打者としての大谷も否定はしない。それどころか日本を代表する打者になりうる素材だと思っている。まず高校を卒業したばかりの選手で、あれだけバットを振り切れるのがすでに非凡な証拠。左打者だとすると左翼方向に合わせるだけなら、新人でもできるものだが、大谷は引っ張ろうと思えば引っ張ることもできる。

開幕3カ月、バツつけられぬ投打

上々のデビューを果たしたかのようにみえる新人でも、すぐに弱点を覚えられ、そこを徹底的に攻められるようになる。それによって、それまで打てていたコースも打てなくなるというのがありがちなパターン。いわゆるプロの壁だ。ところが大谷はその壁にぶつかる気配もない。

開幕から3カ月。投打ともとてもバツはつけられないし、むしろ上出来の部類だろう。だから「どちらも続けさせたい」となるわけだが、そこが違う。今こそ勇気をもって、二刀流の看板を下ろすときなのだ。

普通のローテーション投手が中6日をかけて調整をするところ、大谷は野手として試合に出続けていて、投げ込みが絶対的に足りないのは確かだろう。それがフォームの不安定さにつながってもいるのだろうが、ここでやはり「覚悟」の問題になる。

爪の先ほどの甘えが大成阻むプロ

投打、どちらでもいい。「俺はこれで勝負する」と1点に絞って、"退路"を断たないと。大谷は普通の18歳よりは考え方もしっかりしているようだし、簡単には自分に妥協を許さないだろう。しかし「この道」以外の道が見えているとき、どれだけ自分に厳しい人間でも、どこかで必ず甘えが生じる。たとえ爪の先ほどの甘えであっても、大成を阻む要因となりかねない。プロの恐ろしさと正面から向き合わないまま、大谷が時を過ごしていく。それが一番怖い。

(野球評論家)

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