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イチローとNBA選手 移籍の両雄に共通の価値観

スポーツライター 丹羽政善

「一つ聞きたいことがあるんだけど」

先週まで、米プロバスケットボールのNBA決勝が行われていた。大リーグでいうところのワールドシリーズだが、優勝したヒートのメンバーの中にレイ・アレンという選手がいる。その彼が決勝シリーズ第3戦の翌日に行われた練習前、不意に話しかけてきた。

「イチローは、どうしてトレードを望んだの?」

シアトルのスポーツシーンの顔2人

全く予想外、というわけではない。アレンはかつて、シアトルにあったスーパーソニックスというチームでプレーしていた。夏のある日、彼は、マリナーズが本拠地とするセーフコ・フィールドにやってきて、マリナーズの打撃練習に飛び入りしたことがある。

打撃練習が終わると彼は、誰かに紹介を頼むでもなく、ロッカーにいたイチローのところへ1人で行って、「初めまして、レイ・アレンです」と挨拶をした。2人はその時、随分長い時間話をしていたと記憶する。

前からアレンがイチローに興味を持っていることを知っていたので、「どうだった?」と後でアレンに声をかけると、「思った以上だ。アスリートとして人間として、魅力にあふれている」と頬を緩めた。

当時2人は、シアトルのスポーツシーンの顔でもあった。イチローのマリナーズでの実績については触れるまでもないが、アレンもオールスターの常連で、チームというより、リーグを代表する選手の一人だった。

世代交代の時機悟り、移籍受け入れ

皮肉にも共通していたのは、チームの不振か。イチローもアレンも、かみ合わない歯車に、日々もどかしさを感じていた。

トレードで先にシアトルを去ったのはアレンの方だ。オーナーが代わり、若手中心のチームにかじを切り始めた。31歳だったアレンは、ボストンへのトレード話が来たとき、断らなかった。「いい機会だと思ったから」

彼は世代交代の時機を悟り、同時に、刺激を求めた。よって冒頭の質問に対する答えは、難しくなかった。

「あなたと同じだと思う」

新たな環境で自分とどう向き合うか

イチローも昨年、「20代前半の選手が多いこのチームの未来に来年以降、僕がいるべきではないのではないか」と、トレードを求めるに至った思いを口にし、さらに言った。「僕自身も環境を変えて、刺激を求めたいという強い思いが芽生えてきた」

同じなのである。新たな環境でどう自分と向き合うか。その点でも、2人は酷似する。

アレンは、昨季終了後にフリーエージェントとなると、ヒートと契約を交わした。セルティックスもまた、世代交代期に入った。37歳のアレンは移籍して、ヒートのスーパースター、レブロン・ジェームズ、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュの控えとしてプレーする役割を受け入れた。

イチローも昨年、下位を打つこと、相手先発が左の場合はスタメンを外れる場合もあること、レフトも守ること、といった条件を受け入れた上で、ヤンキースへの移籍に同意した。

勝ちたいとの思いがぶれないチーム

はたから見れば、トップでプレーしてきた2人が屈辱を受け入れた――そう映る。

しかしアレンに「控えという役割をどう受け入れたのか?」と聞けば、「それはメディアがそう見ているだけだ。そういう感覚はない」と話した。

「このチームにはエゴがない。分かるかい、意味が? 我々が持っているのは、勝ちたいという同じ方向性だけだ。そうなると先発も控えもない。それぞれがそれぞれの役割を理解する。求められるのはそれだけだ」

彼に言わせれば、他チームと比べて「意識が違う」のだという。

「(勝ちたいという)思いが、ここではぶれない。ここの選手はそれだけにしか興味がない。試合に勝って、自分が何点取ったかなんて、気にするやつはいない」

ヤンキースもヒートに似ている。

「またバスケが面白くなってきた」

以前にも紹介したが、イチローがヤンキースについてこんな話をしていたことがある。故障者が続出しても勝ちを重ねられる理由を問われ、こう語った。

「他チームでは、この結果はあり得ない。ここでしかないでしょう。何とかしようという思いがここは強いから、そういう力が働いていると思う」

ヒートもヤンキースと同じように惜しみなくお金を使い、「4番打者」を並べるチーム構成だ。金で優勝を買うと、やゆもされてきた。

その点でも両チームは似ているのだが、ヒートは必要なら、4番打者が進塁打を打つことができる。ヤンキースも必要に応じて、そんな野球ができる。

同じような価値観を持つ2人が今、同じような環境に身を置いているのは、偶然だろうか。

アレンは、イチローがトレードを望んだ理由を聞いて、「うん、うん」とうなずいていた。そして「イチローはあと、何年ぐらいプレーするの?」と次の質問を繰り出した。

さて、あと何年だろう。同じ質問を返すと、アレンも「さあ、あと何年だろう」と笑う。「ヒートに来て、また、バスケットが面白くなってきたから」

自ら潮目を読み、変化に身を任せ

その感覚は、ヤンキースに移籍してから、違う野球に触れて生き生きとし始めたイチローも同じだ。

スター選手の中には、いろんな意味での変化を受け入れられずに、自分の居場所を見失う人もいる。対照的にイチローらは潮目を読み、身を任せた。

それを選択するか、強いられるのかでは、「おのずと結果が違ってくる」とアレン。

「すべては、自分次第だ」

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