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労組ファンドの実力 賃上げ逆風で長期資産づくり

労働組合がつくった投資信託が高い運用成果を背景に、じわじわ人気を集めている。年金や退職金への不安を軽減するため、毎月積み立てによる長期での資産形成を目指す投信だ。ここへきて株式相場は急落しているが、10年先、20年先をにらんでの運用と位置付けており、担当者に動揺はない。

労働組合の投信として話題なのが、セイコーエプソン(長野県諏訪市)の労組が100%出資、設立したユニオン投信だ。運用している「ユニオンファンド」は2008年10月にスタート、既存の投信に投資する「ファンド・オブ・ファンズ」の形式を取る。設定以来の騰落率は67%、アベノミクス相場が始まる前の昨年10月末時点でも27%と運用は好調だ。純資産額も右肩上がりで増えている。

幹部がFP資格

ユニオンファンドの説明をするセイコーエプソン労組の田中氏(5月28日、東京・新宿)

なぜ労組が投信なのか。同労組の上條尚史委員長は「もはや賃上げ交渉だけが組合の役割ではないから」と語る。日本経済が低成長期に入り、企業収益も頭打ちの時代。利益が伸びない中、激しい労使交渉をしたところで賃上げ幅はせいぜい数百円だ。

厳しいサラリーマンの家計。入るお金が増えないなら、出るお金を減らすしかない。その手伝いを労組ができないか。無駄な生命保険を見直したり、住宅ローンを借り換えたりして月に数万円、支出を減らすことができれば、数百円の賃上げよりも組合員の可処分所得は増える。

こう考えた同社労組は幹部がファイナンシャルプランナー(FP)資格を取り、社員を対象にセミナーを始めた。「家計の黒字化や資産形成に役立つことが、これからの労組の役割」(同副委員長の田中喜三男氏)という発想の中から、ユニオン投信は生まれた。

発足当初は投資家数が100人、純資産総額は2800万円だったが、現在は1500人、21億円まで増えている。

400社に分散投資

運用対象としているファンドは4つで、日本株のさわかみファンド、欧米株のキャピタルファンド、ハリスファンド、新興国株のコムジェストファンドで、資金配分は国際通貨基金(IMF)の5年先名目国内総生産(GDP)をもとに決定している。4つのファンドを合わせて、26カ国・地域の約400社に分散投資していることになる。

現在の配分比率は、さわかみファンドが12%と最も少なく、新興国のコムジェストファンドが41%と高い。この方針を決めた時、日本株はまだ急落前で先高観が強かったが、5年先を考えると、日本株より新興国株の方が魅力があると判断し、日本株の比率を1ポイント下げた。

販売にかかる手数料は無料で、運用期間中にかかる信託報酬も0.8%と低めに設定している。組合に関係ない一般の人でも購入できる。収益を上げることが目的ではないため、今後黒字になれば、利益はすべて社会還元に充てる方針だ。

資本金の2億円はセイコーエプソン労組の予備金を充当した。当初はOBも含めて「素人が投信会社などとんでもない。失敗したら大切な組合員のお金が吹っ飛んでしまう」と反対の声ばかりだったが、押し切った。

趣旨に賛同した他の企業の労組から出資が相次いでいる。これまでに資生堂、ツムラ、丸井グループ、国際航業、京三製作所の労組が出資し、さらに3労組が出資を検討中という。

ユニオンファンドは証券会社や銀行などの販売網がないため、セミナーを開き、コツコツと投資家を増やしていくしかない。出資してくれた労組の企業に出向き、ファンドの説明会を開く。「セミナー参加者の6割程度が、ユニオンファンドの積み立てを始めてくれる」(田中氏)という。

意識高揚も狙い

5月28日、東京・新宿で18労組の代表が集まり、セミナーが開かれた。田中氏が講師となり、ユニオンファンドの紹介をした。参加したある労組の幹部は「うちはバブル期に投信の運用で大きな損をした。それ以来、投信は縁遠かったが、このファンドは良さそうだ」と語る。

丸井グループは確定給付型の退職金制度を廃止したが、確定拠出年金日本版401k)の加盟者は20%未満にとどまっていた。「若い社員の将来を考えて、これでいいのかと思っていた」(七戸裕一・マルイグループユニオン委員長)ことをきっかけに今年4月、ユニオン投信の株主になった。

資生堂労組は闘争積立金を国債で運用してきた。実績の乏しいユニオン投信への出資は当然、懸念はあったが、同労組の赤塚一委員長は「組合員の意識高揚や資産形成に役立つ」と判断した。

株主となった企業の労組は、ユニオンファンドの担当者を自分たちのセミナーに呼び、厚生年金、401kに続く自分年金の原資として、ユニオンファンドの積み立てを社員に紹介し始めた。

60歳までに1000万円の資産をつくるためには、年6%の運用ができれば毎月1万円の積み立てで30年程度で達成できる。ユニオンファンドの複利はアベノミクス相場の始まる前の昨年10月末時点で年6%、直近では12%なので、決して絵に描いた餅ではない。

労組発投信のこうした動きを、資産運用のプロたちも好意的にみている。30年かけて積み立て投資をと呼びかけるコモンズ投信の伊井哲朗社長は「労組が組合員のために投信を立ち上げたのは面白い。運用方針も長期で理にかなっている」と評価する。長野発のユニークな試みを見守りたい。

(編集委員 鈴木亮)

[日本経済新聞朝刊2013年6月5日付]

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