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from FIFAマスター(宮本恒靖) スポーツ法から学ぶイベント収入拡大策

5月半ばに国際オリンピック委員会(IOC)の本部を訪れた。スイス西部の街、ローザンヌのレマン湖畔。チューリヒにある国際サッカー連盟(FIFA)本部よりも一回り小さく、大学や研究機関のようなアカデミックな雰囲気がある建物だった。

セカンドキャリア活動に興味

IOC本部は研究機関のような雰囲気がある

IOCの担当者数名が、五輪の理念や普及活動、テレビ放映権、法律との関わりなどを熱心に解説してくれて充実した訪問となった。

今回初めて分かったのは、IOC自身が元五輪選手のセカンドキャリアをサポートする活動についても力を入れていることだ。

例えば、北京五輪で米国代表としてリレーを走った女子選手は、IOCスポンサーのコカ・コーラからインターンシップで採用され、ビジネスを学ぶと同時に、顧客に対する陸上教室や指導講習会も開催したそうだ。こういった活動はスポンサーにもアスリートにもメリットがあるといえる。

昨年のロンドン五輪では、選手村に棒高跳びのセルゲイ・ブブカ氏が来て、セカンドキャリアについて語るイベントも開いている。確かに五輪の開催期間中なら、世界中の選手に話ができる絶好の機会だろう。

IOCが元選手を「オリンピックファミリー」として守っていくとともに、彼らの知識や経験をどうやって生かしていくかということに力を入れていることがとても印象的だった。

20年五輪招致の話題には口重く

開催都市の決定プロセスについての説明もあった。東京が立候補している2020年の夏季五輪招致について「個人的な感覚でいいので見通しはどう?」と聞くと、「今の時点ではたとえプライベートな会話であっても、なかなか口にはできない」。当然のことではあるが口は重かった。

20年の夏季五輪招致を巡り、日本では東京都の猪瀬直樹知事がイスラム文化を批判する趣旨の発言をしたことが大きな問題になった。FIFA運営の大学院、FIFAマスターの授業が行われているここスイスでは、むしろライバルのマドリードの方が騒がれている。

先月末のこと。自転車競技のランス・アームストロング氏らのドーピングに関わったスペイン人医師に対し、同国の裁判所が禁錮1年の判決を下すと同時に、選手の血液などの証拠品を破棄するよう命じた。証拠品の引き渡しを求めていた世界反ドーピング機関(WADA)に対立する行為であり、「ドーピングに甘い国」というイメージが強くなるのだろう。「マドリードの招致に痛手になるのでは」と話題になっている。

FIFAの理事会が開かれる会議室

イベント費用賄う重要な3過程

FIFAマスターの最後の学期ではスポーツ法について学んでいる。ドーピングや選手契約といった範囲だけではなく、ビジネスや収益の面でも法律が果たす役割は大きい。

例えば、五輪のようなスポーツイベントの費用を賄うために重要な3つの過程をご存じだろうか。1つ目は企業や金融機関などからの「資金調達」。2つ目が認知度を高めるための「プロモーション」。最後が様々な権利の「保護」だ。

大会のトレードマークやロゴ、テレビ局やスポンサーの権利を明確に定め、利用を厳格に管理する。時には独占的な利用を認めることで企業間の競争を促し、収入拡大につなげることができる。スポーツイベントの運営では最初の2項目だけに目を奪われがちだが、3つ全てのバランスが取れていることが重要なのだという。

スポンサー限定、逆に収入アップ

実際、1970~80年代に資金不足に苦しんでいた五輪が大きく収入を伸ばしたきっかけも、84年ロサンゼルス大会からスポンサーを1業種1社に絞ったことだった。スポンサーの企業数はそれまでの600社以上から約30社に絞ったのに、収入は逆に増えた。

さて、先日20周年を迎えたJリーグについても触れておきたい。記念パーティーに招待されたジーコが「20年でこれだけ進歩したリーグは異例」とたたえたそうだ。これまで関わった人たちの努力に加え、しっかりした理念があったから発展することができたのだろう。

Jリーグ、個性派選手減り停滞感

FIFAの本部は近代的な印象の建物だ

オーストリアでの2年間を挟んで通算15年間プレーした僕にとっても感慨深い。中学2年のとき、雑誌でプロリーグができると知り、高校では部活動でなくG大阪のユースでサッカーをするという進路を選ぶことになった。開幕戦を自宅のテレビで見たときは「新しい時代が始まる」と思ったし、「ここでサッカーをしたい」という思いも強くなった。

18歳で公式戦デビューした95年、V川崎(現東京V)との試合もよく覚えている。G大阪のDFに退場者が出たため、前半途中から交代でピッチに入った。後半、ボールを持った僕のところに猛然と迫ってきたのはラモス瑠偉さん。経験の少ない選手に心理的な圧力を掛けてくるんだなと、大きなインパクトを受けた。

個性が際立つ選手が多かったあの頃に比べ、停滞感が漂うように思うのは僕だけだろうか。欧州で活躍する選手が増えたが、Jリーグの全体的な価値を継続して高めていく努力が必要だ。

Jリーグでも現在、今後の長期戦略をつくっているところと聞く。リーグ自体のプロモーションやスポンサーとの関わり、クラブの組織体制……。改善できる部分はあるはずだ。

必要に応じた変革で新しい未来を

近代五輪は第1回のアテネ大会が始まってから今年で117年がたつ。何度も危機に追い込まれながらも成長を続け、世界での認知度95%という完璧な「ブランド」になったのは、必要に応じた変革をしてきたからだろう。

五輪とJリーグはもちろん同列に比べられるものではない。でも、今までのやり方に安住せず、いろいろトライして新しい未来をつくっていかなければいけない。

(元日本代表主将)

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