楽しく走る旅、マラニック ゴールは温泉・グルメ… - 日本経済新聞
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楽しく走る旅、マラニック ゴールは温泉・グルメ…

ランニングインストラクター 斉藤太郎

皆さんは「マラニック」をご存じですか? マラソンとピクニックを合わせたもので、楽しみながら走る方法の一つです。私は5月の連休期間中、好天と新緑の美しさに誘われ、千葉県佐倉市から旭市までの50キロをのんびり走りました。自分の足ではるか遠くの目的地へたどり着く達成感を味わえるだけでなく、急がず景色を眺めながら進む過程には多くの発見や出会いが待っています。

タイム気にせず自分なりのペースで

マラニックはレースとは違ってタイムを競うものではありません。一定のペースを保つ必要もありません。走ることもあれば歩くこともある。景色の良い所で休憩したり、写真を撮ったり……。自分なりのリズムで一歩一歩を重ねます。

やってみようと思い立ったら、まず広域地図を見て大まかなコースを決め、そこからより詳細なルートを組み立てていきます。細かなルート設定では、紙の地図のほかにウェブサイトを利用すると便利です。画面上の地図をルートに沿ってクリックしていくと目的地や通過ポイントまでの距離を調べることができる「キョリ測」などのサイトがあります。

ただし、地図だけを頼りにするのは危険です。中には歩行者は通行禁止の道路や橋・トンネルがあったり、悪路や草ぼうぼうの道もあったりします。できれば事前に下見をするとか、地元の土地勘がある方に尋ねておくと安心です。

走る・休むは3対1から4対1が目安

このほかコンビニ、トイレ、休憩のできる公園などのスポットも確認しておくといいでしょう。1人や数人ならば、ある程度行き当たりばったりでも構わないですが、大人数のグループで走る場合には安心です。

途中の休憩は30分走って10分休む(3対1)とか60分走って15分休む(4対1)、大体このくらいの比率を目安にするといいでしょう。その点を考慮してゆとりを持ったタイムスケジュールを組んでください。ちなみに今回私は5時間半かけて走りましたが、うち休憩は合計1時間という割合でした。

マラニックに出掛ける際、持ち物は必要最小限にとどめておきたいものです。体にフィットして走行中の揺れが少ない小型のリュック(写真1・右)にコンパクトに収容します。腰回りにポケットがあるタイプだと、小まめに使う携帯、アメなどの出し入れに便利です。ポーチを併用するのもいいでしょう。

日差し・強風から体をガード

ウエア類では帽子と日よけ(写真2)は忘れずに。体温調整をつかさどる後頭部を直射日光から守ってくれます。腕には紫外線カット素材のアームカバー。体が冷えそうなときや風の強いときは、かさばらない超薄ジャケットを用意しておくといいでしょう。

汗をかく季節には塩を補給用に携帯。足のけいれんを防ぎます。紙の地図などはジッパー付き保存袋に入れておくと、ポケットの中でも汗でくしゃくしゃになりません(写真3)。スイカ、パスモなどIC乗車券があれば、もしリタイアして電車などで帰宅する場合にもコンビニで飲み物を買うときにも1枚で済みます。

このほか、あると便利なものとしては、走りながらチューブから給水ができるハイドレーション(写真1・左)。容量2リットル程度の貯水パックをリュックに入れて使います。ちょっと本格的なようですが、いちいち出し入れしなくてもこまめに給水できます。

走行中に持っていく荷物のほかに、ゴールしてからの着替えなどの荷物があるときはどうすればいいでしょうか。

自宅がゴールなら帰巣本能フルに発揮

スタート地点へ戻ってくるコースならば、保管場所に荷物を預けて出発し、ゴール後にピックアップ。コインロッカー、銭湯、ランニングステーションなどが主な場所です。ゴール後の打ち上げで利用する店に荷物を置かせてもらったこともあります。

スタートとゴールが別の地点である場合は、ゴール地点に先に荷物を送っておきます。運搬係を引き受けてくれる人がいれば車などで運んでもらいます。私は今回、先に移動した家族に持って行ってもらいました。

家から遠く離れて行くルートはちょっと心細くもあり、荷物運搬も調整が必要。でも、ゴール後にお楽しみが待っている場所を目指すのであれば、モチベーションもアップすることでしょう。行楽地の温泉につかって汗を流し、打ち上げで乾杯……みたいな締めくくりができるとマラニックの企画が盛り上がりますね。

それとは逆に、電車やバスでスタート地点まで移動して走り出し、ゴールを自宅にする方法には安心感があります。帰巣本能をフルに発揮して頑張ることができます。ゴール後はすぐに休めるというのも利点です。

おいしいものは完走後のご褒美に

お楽しみの要素も盛り込んで楽しく走るマラニック。でも普段のランニングコースとは違った場所を走る際には、行く先々での周りの人への気遣いも必要です。汗だくのランナー集団がお店などで固まっていては不快な印象を与えかねません。

そんな意味でも、食べ物屋さんなどお店を巡ることを目的にというのは、あまり賛成できません。通過点で取る食事はゴールに向けて走るためのエネルギー補給。おいしいものを目指すのならば、ゴールの後に汗を流して着替えてから、完走のご褒美に。こうしたスタイルがランナーにふさわしい振る舞いではないでしょうか。

私たちのクラブでは4年前から、「年に一度、とてつもないことを成し遂げよう」との意気込みで、「突貫ランニング」と銘打ったマラニックの企画を開催しています。皆さんがコースを考える際の参考として紹介させてもらいます。

1)東京駅→千葉・佐倉70キロ 23時スタート、千葉街道を通って印旛沼を目指し、クラブの本拠地に至る10時間の夜通しラン。日の出前の3~4時あたりが心理的に一番つらかったです。参加したランナーの中には、その後に発生した震災で帰宅困難になったものの、自宅の家族に「お父さんなら大丈夫だ」との安心感を与えられたという方もいました。

2)神奈川・三崎口→城ケ島→久里浜→(フェリー利用)→千葉・金谷→鋸山山頂→保田 東京湾周遊ラン43キロ 途中、船で東京湾を横断。千葉側から神奈川側を眺めたときは自分たちの足取りを実感できたような気がしました。海岸は日陰が無く、水分補給やけいれん対策が大変でしたが、平地・海・山と地形の変化を楽しめるコースでした。

3)東京駅から山手線1周42キロ ランニングステーションに荷物を預けて出発。線路に近い道を通って全29駅を反時計回り、約8時間で巡りました。半周の代々木過ぎでランチタイム。JRの都区内フリーパスを持っていたので途中駅の改札内のトイレを使え、いつリタイアしても駅が近いという安心感がありました。

4)千葉・佐原→犬吠埼48キロまたは旭→犬吠埼28キロ 岬を目指して東へ進むランニングで、西からの強い風が常に後押し。佐原発のコースは1キロ5分30秒ペースで休憩含め6時間、旭発は1キロ8分ペースでゆったり4時間コース。ゴール後は両コースの参加者が合流、温泉とおいしい魚料理で癒やされました。

<クールダウン>ユーラシア横断、13カ月にわたる挑戦
 チャレンジユーラシアマラソンに挑戦した3人をトレーニング段階からサポートしたことがあります。2011年6月から13カ月、フランス・パリをスタートして、欧州、中東、中央アジア、中国を経由して日本に至る総走行距離1万3300キロという途方もなく壮大なマラソンです。
 1日の平均走行距離は43キロ。40度を超す猛暑の中でもマイナス20度の寒さの中でも、自らの足だけで一歩一歩を積み重ねてついに東京へと戻ってきました。「この挑戦は達成したかしなかったかの2つに1つしかない」という腹のくくり方を貫いた3人は、見事チャレンジに成功しました。
 挑戦者の1人、当時71歳の羽鳥兼市さんは「これは観光ではなくて挑戦。たとえコースから100メートルの所に歴史的遺産があったとしても通過する」、そんな決意をされていました。今回紹介したマラニックの楽しさとは全くの対極になりますが、これぞ世界を舞台にしたマラニックと言えるでしょう。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、日本サッカー協会の委嘱を受け、レフェリーにも走り方を講習している。2013年5月には国際サッカー連盟(FIFA)キャンプで指導予定。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)など。

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