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ボクシング現役最強王者は長者番付でも断トツ

スポーツライター 杉浦大介

ボクシング界で「現役最強王者」の称号をほしいままにしてきたフロイド・メイウェザー(36)が約1年ぶりにリングに戻ってきた。米ラスベガスで4日行われた世界ボクシング評議会(WBC)世界ウエルター級王座統一戦で、これまで4階級制覇してきた実力者、ロバート・ゲレーロに大差で判定勝ちした。デビュー以来44戦全勝(26KO)を飾るとともに、この試合で3200万ドルを上回る巨額の報酬を手にした。王者の時代はいつまで続くのか。

互角の展開は2ラウンドまで

この対戦がほぼ互角の展開をみせたのは2ラウンドまでだった。3ラウンドには相手の動きを見切ったメイウェザーが主導権を握った。8ラウンドには相手の左まぶたを切り裂き、リング中央で右フックを打ち込み、タフネスで知られたゲレーロに大きなダメージを与えた。

結局、両者は12ラウンドを戦い抜き、3人のジャッジがいずれも117-111と採点するメイウェザーの圧勝だった。ダウンこそなかったものの、パンチの数を計測したデータによると、ゲレーロが19%(581発のうち的中は113発)しか当てられなかったのに対し、メイウェザーは41%(476発のうち195発を的中)をヒットさせた。

ワンサイドの内容で、王者のスピードと技術が際立った。「若くて体力のあるゲレーロが押してきたが、調整は十分だった」と語ったメイウェザーは世界タイトル戦での無敗記録も21戦(10KO)に更新した。

史上初、無敗のまま5階級制覇

1996年のアトランタ五輪で銅メダルを獲得した後にプロ入りしたメイウェザーは、たぐいまれなスピードと鍛え抜いた技術を武器に、スーパーフェザー級、ライト級、スーパーライト級、ウエルター級、スーパーウエルター級を次々と制覇。2007年5月には「ゴールデンボーイ」と呼ばれたオスカー・デラホーヤとの世紀の一戦を2-1の判定で制し、名実ともにスターになった。

このデラホーヤ戦の勝利で史上4人目の5階級制覇を達成。同時に、史上初めて無敗のまま5階級を制した王者にもなっている。

だが試合前、今回のゲレーロ戦は苦しい試合になると予想する関係者は少なくなかった。昨年5月に行われたミゲール・コット戦では判定勝ちしたものの、堅いディフェンスが売り物だったメイウェザーが過去にないほどパンチを浴びて苦戦したからだ。すでに全盛期を過ぎたのではないかという見方も出ていた。

さらに、リング外でも物議を醸すことが多かったメイウェザーは10年9月、元恋人への暴行容疑などで逮捕された。この事件で11年に禁錮刑90日の実刑判決が下り、12年6月からラスベガスの刑務所に収監された。

ファイトマネー、破格の3200万ドル

「刑務所内では読書と腕立て伏せ、寝ることくらいしかすることがなかった」と本人も振り返った通り、この期間中はまともにボクシングの練習はできなかった。刑務所内での態度がよく約2カ月で釈放されたものの、30代も半ばにして経験した厳しい時間の後とあって、コンディションが疑われても仕方なかっただろう。

しかし実際にゴングが鳴ると、メイウェザーは実力者の相手を寄せつけなかった。「(試合前に)みんなは僕の年齢や昨年のコット戦で苦しんだ話ばかりしていた。だから今回はファンにエキサイティングな試合を見せたかった。KO勝ちしたかったけれど、試合中に右手を痛め、かなわなかったのは残念だった」。試合後にこう語ったメイウェザーのスピードそのものは1年前のコット戦をも上回っているようにみえた。

対戦相手問わぬ高いPPVの数値

メイウェザーは報酬面でも破格だ。この試合で史上最高額の3200万ドルのファイトマネーを手にした。

ゲレーロ戦では最高額1500ドルで売り出されたチケットが完売状態になり、発表された観衆は1万5880人。これほどの高額報酬が可能になる背景には、入場券売り上げに加え、米国で浸透している「ペイ・パー・ビュー(PPV)」と呼ばれる放送形態がある。

コンテンツを選ぶと課金され、視聴できるようになるPPVシステムによって、米ボクシング界で最大の呼び物であるメイウェザーの試合は1件あたり60~70ドルもの金額で販売される。

07年のメイウェザー―デラホーヤ戦でのPPV購買数は240万件を記録し、97年のマイク・タイソン―イベンダー・ホリフィールド再戦時の199万件を塗り替える新記録を樹立。その後、11年のビクター・オルティス戦でも125万件、昨年のコット戦でも150万件と対戦相手にかかわらず高い数値をたたきだし、メイウェザーはPPVの王者と呼ばれるようになった。

PPVで販売されたメイウェザーの過去9戦での総購買数は960万件に及び、その試合を放送してきたケーブルテレビ局HBOは累計で5億4000万ドルの利益を得た、と米誌フォーブスは伝えている。

「どうすれば稼げるかわかっている」

今回のゲレーロ戦での金額も加えれば、トップ3に数えられたデラホーヤ(18戦で購買数1260万件、売り上げ6億1060万ドル)、タイソン(12戦で1240万件、5億4500万ドル)、イベンダー・ホリフィールド(14戦で1260万件、5億4300万ドル)を上回り、メイウェザーがPPVで史上最高額を稼いだボクサーに浮上することは確実だ。

「メイウェザーはタイソン以降、米国内で最も人気のある選手になった。彼はどうすれば稼げるかわかっているんだ。人々に好かれようが嫌われようが気にしない。観戦してくれさえすれば、どう思われたっていいんだよ」

HBOスポーツ部に以前在籍し、現在はプロモーターを務めるルー・ディベラ氏はそう語る。実際に、メイウェザーは自身のファイトを一般の視聴者に「見たい」と思わせるため、試合前には実に上手にセルフ・プロモート活動を展開してきた印象がある。

アスリート長者番付、断トツ

ビッグファイト前の記者会見で毒舌によって相手選手を強烈に罵るなど、"悪役"のイメージをいとわない。昨年中に収監されたことですらも、ファンの関心を呼ぶのに役立った感じがする。

ファイトマネー3200万ドルは最低保証額にすぎず、ここにPPVなどの売り上げの歩合が加わり、この一戦でメイウェザー側が手にする額は4000万ドル前後に上るかもしれない。

フォーブスの世界アスリート長者番付によると、11年6月~12年5月までにメイウェザーは8500万ドルの報酬を獲得。同じボクサーのマニー・パッキャオ(6200万ドル)、プロゴルファーのタイガー・ウッズ(5940万ドル)、NBAのレブロン・ジェームス(5300万ドル)、テニスのロジャー・フェデラー(5270万ドル)らを超え、1位となっている。

今年2月、メイウェザーはHBOのライバル局であるショータイムと6戦、総額2億5000万ドルに上る新契約を結んで話題となった。この契約では1試合で3000万ドル以上の報酬が保証されており、メイウェザーは現役でいる限り長者番付の常連であり続けるはずだ。

高額報酬、勝ち続けてこそ

だが、それには「勝ち続けている限り」という条件がつく。

「相手が誰であろうと、負けた場合には人気は急落するだろう。人々がメイウェザーの試合を金を払ってでも見たいと思うのは、彼が"無敗の王者"だからなんだ」

かつてHBOスポーツ部を率いたセス・エイブラハム氏はこう語っている。

実際に圧倒的なパワーで人気となったフィリピンのパッキャオと違い、メイウェザーは豪快さや破壊力が魅力の選手ではない。あくまで技術とスピードを重視した守備的なボクサーだ。

右手を痛めたとはいえ、ゲレーロ戦では一方的に試合を進めながら、仕留めきれずに終盤は観衆からブーイングを浴びた。こうしたタイプの選手にとって「無敗」であり続けることは必須であり、メイウェザー本人も「ファンの多くは自分が負ける姿を拝みたくて試合を見るのだ」と認めている。

「リスク大きい相手選ばぬ」批判も

そんなメイウェザーは、試合中に安全運転するだけでなく、「リスクが大きい対戦相手を選ばない」という批判も受けてきた。パッキャオとの究極の一戦が実現しなかった理由をそこに見いだすことができる。メキシコ人から圧倒的な支持を受ける22歳のサウル・カネロ・アルバレス(42勝30KO無敗1分け)とのドリームマッチも実現しない可能性が高い。

ただ、これらのマイナス面を考慮しても、途方もない実力とビジネスセンスを兼ね備えたメイウェザーが現役を代表するアスリートであり、史上有数のボクサーの一人である事実に変わりはない。

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