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スコアアップ工房 ユーティリティークラブの思わぬ落とし穴

クラブデザイナー 喜多和生

フェアウエーウッドとアイアンの中間的な性格を持つユーティリティークラブはすっかり定着したようです。かつてはロングアイアンの代わりにバッグに入れていたプロが多かったのですが、最近は5番アイアンまでユーティリティーにしている女子プロもいるようです。「重心深度が深いヘッド構造なので球が上がりやすい」「シャフトが短いのでミート率がアップする」「いろいろなライで応用範囲が広い」などが人気の秘密のようです。

使いこなせない悩みも多く

しかし、買ったはいいが、使いこなせないという悩みも多いようです。このクラブならグリーンに届くはずと力んでスイングしてしまう場合もありますが、意外に多いのがクラブが合っていないというケースです。

なぜでしょうか。それはユーティリティーがウッドでもなく、アイアンでもないからです。さらに、単品売りが基本のクラブとして開発されているため、そのスペック(仕様)がセット全体の流れの中で突出してしまい、「仲間はずれ」になってしまいがちなのです。

先駆けは88年発売「インテスト」

ユーティリティーの先駆けとなったのが1988年に発売された横浜ゴムの「インテスト」シリーズでした。カーボン繊維と金属を組み合わせた低重心ヘッドで打ちやすさを追求したモデルで、赤茶色の外観から「タラコ」の愛称でベストセラーになりました。アイアンに近い形をしていたため、その後のアイアン型ユーティリティーの原型となりました。

続いてキャスコがフェアウエーウッド形状の「パワートルネード」を発売しました。こちらはスーパーハイテン素材を工夫してフェアウエーウッド以上に重心を低くして打ちやすくしたモデルです。

これでアイアン好きか、フェアウエーウッド好きかで、好みのユーティリティーを選べるようになったわけです。

その後、各社から発売されたモデルは程度の差こそあれ「タラコ」「パワートルネード」の形状を模したものでした。ヘッド素材はカーボン繊維からチタンへと代わり、さらに低重心のためにタングステンなど比重の重い部品を組み合わせるようになっています。しかし、形状は多少手を加えたとはいえ、基本は変わっていません。

強いラウンドのついた幅広ソールが特徴

「タラコ」「パワートルネード」のヘッド形状に共通しているのは、フェアウエーウッドにもアイアンにもない強いラウンドのついた幅広いソールです。幅広ソールは芝の上を滑りやすいので、多少ダフリ気味でもリーディングエッジがボールの下に入っていきます。ユーティリティーが打ちやすいと言われる理由のひとつです。

ところが、幅広ソールだとバンスの高さが高いものも多く、インパクトの際、地面に跳ね返されてしまうようなイメージを持つゴルファーもいます。すると、ソールが跳ね返されないように無意識のうちにインパクト直前で体が伸びあがり、ボールのアタマをたたいてトップしてしまうのです。

軽くて柔らかいために起きる問題も

こうしたゴルファーにはユーティリティーのソールを少し削って、クラブを構えたときに地面から跳ね返されるイメージをなくす必要があります。

人によりますが、一番出っ張っている部分を高さ2ミリ、幅2センチ、長さ6センチくらい削って、バンスの高さを低くすることもあります。削って軽くなった分は鉛を張って、バランスを調整します。これでクラブのイメージが変わり、ショットが安定します。

ユーティリティーに入っているカーボンシャフトの多くが、軽くて柔らかいために起きる問題もあります。これはユーティリティーがボールを捉えやすく右へ行きにくいことをコンセプトに設計され、ボールが左に行きやすいシャフトを入れていることと無関係ではありません。

ただ、ヘッドスピードの速いゴルファー向けにスチールシャフトが入っているアイアン型ユーティリティーの場合はあまり問題にならないようです。

3月19日掲載の「シニア向けクラブの落とし穴」でも取り上げましたが、軽くて柔らかいシャフトだと、"頼りない感じ"になってしまいます。これでは、スイングのリズムが崩れるだけでなく、ゴルファーの持っている力をボールに十分に伝えられません。距離も方向性も安定しません。

カギはクラブセットにどう溶け込ませるか

ところが、ロングアイアンでボールをきちんと捉えられず、右へすっぽ抜ける球に悩まされていたゴルファーは、ユーティリティーのショットが左へ飛んでいってもボールが捕まっている証拠と納得しているようなのです。しかし、錯覚にすぎません。

ユーティリティーの設計思想や形状は、そのクラブ単独の性能を最適化した結果です。時々、同じメーカー、同じブランドでそろえれば、クラブのスペックは統一されているのだろうという人がいらっしゃいますが、これは大間違い。メーカーが売れるブランドに合わせてユーティリティーの外観をそろえただけのモデルもあります。

1本1本の最適化を追求したクラブだからこそ、ご自身のクラブセットにどう溶け込ませるべきかが難しいのです。「うまく打てないな」と思ったら、信頼できるショップかクラフトマンに相談するのが一番です。

 きた・かずお 1966年ミズノに入社、クラフトマンとして中嶋常幸、鈴木規夫、岡本綾子らトッププロのクラブを手がけた。90年にゴルフクラブ工房の「ジョイメニィー」を設立。「クラブがスイングを創る」をテーマにプロ担当経験を生かし、アマチュア向けクラブも製作する。92年に製作したドライバーがクラフトマンモデルとしては世界で初めて、英セントアンドルーズゴルフクラブにあるR&A(ロイヤル&エンシェント)のゴルフミュージアムに展示されている。

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