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悠々球論(権藤博) 「ミスター・フーバー」に負けたWBC日本代表

野球の国・地域別対抗戦、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)準決勝で日本は1-3でプエルトリコに敗れ、3連覇への道はたたれた。日本の前に立ちはだかったのは扇の要としての存在感を存分に示した捕手、Y・モリーナ(カージナルス)だった。

球審が難敵、"被害"は日本に大きく

この試合、日本、プエルトリコ、双方にとっての難敵となったのが球審。この試合をさばいた米国人の球審は外角にやけに厳しいかと思えば、大リーグの普段の試合では絶対にストライクにとらない内懐の球をストライクにとっていた。

両軍にとってやっかいな存在だったが、"被害"は日本の方が大きかった。

一回、先発の前田健(広島)がきわどい球をことごとくボールと判定され、連続四球から失点した。5回をこの1失点でしのいだ前田健はよく投げた方だろう。

日本の審判も判定が安定しないことはあり、前田健らトップ選手はそれに合わせる適応力をひごろから磨いている。だからこそ、1失点でしのげたということもいえるはずだ。

Y・モリーナ、巧みなリード光る

アメリカの審判に関していえば、かつての16球団時代の審判と違って、メジャー30球団時代の今は選手同様、平均的に力量が下がっている可能性はあるだろう。

この判定の不安定さにもめげず、巧みにリードしていたのがY・モリーナだった。

五回、日本が一死一、二塁の同点機を迎えたときのリードが圧巻だった。

八番稲葉(日本ハム)の打ち気を読み切り、いずれも低めのボール気味の球を振らせて、3球三振。続く松田(ソフトバンク)も空振りの三振を奪われた。

「ミスター・フーバー」。そんな捕手をたたえる言葉がメジャーにはある。フーバーとはアメリカの掃除機のトップブランドで、手の届くところならどんな球でも吸い込むように止めてしまうというキャッチングのうまさをたとえた表現なのだ。

走者によってモードを切り替え

あれだけワンバウンド投球を止めてくれたら、投手は安心して低めに投げられる。しかも、Y・モリーナの芸の細かいのは走者一塁だとミットだけで捕りにいくが、走者二塁、三塁となるときっちり体を寄せて止めるという"丁寧モード"に切り替えるところ。

この安心感が一流半の投手を一流に変えていた。得点力不足に悩みながらも、勝ち上がってきたプエルトリコのしぶとさの秘密をみた気がした。

日本にとって悔やまれるのは七回の能見(阪神)の被弾だ。無失点に切り抜けた六回に続く2イニング目。先頭の5番、アービレイス(インディアンス)をカウント0-2と追い込んでからの遊び球が痛恨だった。

中途半端に高めにはずした球を右前に合わせられた。外すなら、「もし引っかかってくれたらもうけ物」というくらいの気持ちで投げる低めのボールになる変化球ではなかったか。

あの高めの球はつり球だったのか

結果論と思われるかもしれないが、もしあの高めの球がつり球で、空振り三振を狙うものだったとしたら、それはいまどきの野球ではあまりない攻め方なのだ。

つり球にするならボール3個分くらいはずすのがちょうどいいのだが、実はあの高さの制球が投手としては一番難しい技術の一つだ。

打者の技術が進歩した今は、そもそも高めのつり球で空振りを取ることが難しくなっている。一方、少し間違えると大けがをするのが高めの球だ。

それだけのリスクを負ってまで投げる球ではないので、キャンプなどでも「高めのつり球」を練習している投手はほとんどいないというのが実情だ。

目の色変えてきた中南米のチーム

能見ははずし損ないの球を打たれてがっくりしたところに、リオス(ホワイトソックス)にチェンジアップを本塁打されてしまった。

これは台湾戦のときと同じ崩れ方で、立ち上がりは「こんな球、一体誰が打てるの?」というくらい、ほれぼれする球が来ているのに「さあ、いけるぞ」となった途端に失点するというパターンだった。

プエルトリコ打線は抑えられない相手ではなかったし、投手も打てない投手ではなかった。それだけに残念だったが、プエルトリコや同じく4強入りしたドミニカ共和国が今回、目の色を変えてきたことにも注目したい。

ピンチを抑えるたびにガッツポーズをして、ムードメーカーにもなっていたY・モリーナ。あの熱さに日本はやられたといってもいいだろう。

王者交代、大会の発展にプラスも

前回、2009年のWBCを取材したとき、中南米のチームの「熱」はこれほどではなかった。打者はシーズン前の調整段階にあることを隠そうともせず、変化球を投げたらクルクルバットが回るし、外野の前に打球が飛んでも山なりの返球をするばかり。

オープン戦感覚がぷんぷんと漂っていたのだが、今回は違う。本気を出してきた。チャンピオンが入れ替わることは残念だが、大会の発展のためにはいいことだろう。

(野球評論家)

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