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欧州CL8強に残れず プレミア勢全滅が意味するもの

サッカージャーナリスト 原田公樹

イングランド勢にとって最後の砦(とりで)だったアーセナルが13日、欧州チャンピオンズリーグ(CL)から敗退が決まると、指揮官のアーセン・ベンゲルは「これはイングランドサッカーにとっての巨大な失望だ。我々は他の欧州各国からすでに追いつかれてしまったことを受け入れなければならない」と口にした。

8強に1チームも入らないのは17年ぶり

今季の欧州CLの準々決勝に一つもイングランドのクラブが、勝ち上がらなかったからである。8強に1チームもイングランド勢が入らないのは、1995~96年以来、実に17年ぶり。しかも今季の決勝の舞台はロンドン近郊のウェンブリー競技場と決まっているのだが、この段階で早くも"ホームチーム"は姿を消してしまった。

世界一のリーグといわれ、世界中から一流選手たちが集まって来るプレミアリーグだが、凋落(ちょうらく)の兆しなのではないか。欧州中のメディアは、ベンゲル監督の発言を受けて、さかんに報じている。

いまさら何をおっしゃる、という気がしている。イングランドサッカーの衰退のサインは、すでに数年前から見えていたからだ。

バルサは奇跡を起こしたが…

アーセナルはCL決勝トーナメント1回戦、ホームでの第1戦でバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)に1-3で敗れた。アーセナルは3-0以上で勝たなければ敗退、という重いタスクを背負い、敵地へ乗り込んだ。

だが、バイエルンは今季DFダンテとMFハビ・マルティネスを獲得し、守備が大幅に安定している。現在、ブンデスリーガで首位を独走し、25戦でわずか10失点という堅守のチームである。

そのバイエルンから3点をもぎ取って、逆転で8強入りすることは、ベンゲル監督も選手たちも「とても難しいチャレンジだ」と話していた。欧州のメディアも「不可能」というのが大方の予想だった。

だが、この試合の前日、欧州CLで同じような奇跡が起きていた。いや、ACミラン(イタリア)にとっては悲劇だったのだが……。

バルセロナ(スペイン)はミランの敵地での第1戦を0-2で落としたものの、ホームでの第2戦では、メッシが開始5分に先制点を決めるなど2ゴールを奪い、結局4-0で大勝。逆転で8強へ進出した。

火の粉を振り払うためのベンゲル流の作戦?

バルセロナにできて、アーセナルにできないわけがない、と選手もファンも気持ちを強くして、キックオフを迎えたのである。

アーセナルは開始3分にFWジルーが先制。前夜の奇跡の再現かと思われた。しかし、次のゴールは86分まで生まれず、この試合は2-0だったものの、2戦合計は3-3。規定によるアウェーゴール差で、敗退が決まった。

そしてベンゲル監督が冒頭のような言葉を述べたわけである。

もっとも、あの発言は火の粉を振り払うためのベンゲル流の作戦だろう。

事実上、8シーズン連続の無冠が確定

アーセナルは現在プレミアリーグで勝ち点47の5位。首位を走るマンUとの勝ち点差は24あり、残り10戦で上回ることは限りなく不可能に近い。

よって04-05年にFA(イングランド協会)カップを優勝して以来、事実上8シーズン連続の無冠が確定した。

アーセナルの不出来をイングランドサッカーの全体論にすり替え、メディアやファンからのさらなる批判をかわしたわけである。

すでにこの数週間、メディアやファンは、アーセナルの幹部や、ベンゲル監督を批判し続けており、食傷気味だったのは事実である。だからベンゲル監督の「作戦」ということは理解しながら、新たなネタに食いついたのではないか。

今季、ほかのイングランド勢はマンチェスター・シティーが1次リーグでボルシア・ドルトムント(ドイツ)、レアル・マドリード(スペイン)、アヤックス(オランダ)相手に1勝もできず、最下位で敗退。

プレミアリーグとはまったく別のチームなのではないか、と思うほど精彩を欠いた。マンチーニ監督の采配ミスもあったし、選手たちの欲望もまったく足りなかったことが敗因だ。

チェルシー、昨季王者では初の1次リーグ敗退

チェルシーは史上初めて、昨季のCL王者が1次リーグ敗退という汚名を着せられた。敵地でシャフタル・ドネツク(ウクライナ)に1-2で敗れ、さらにユベントス(イタリア)にもアウェーで0-3の大敗。ディマッテオ監督は解任され、ベニテス暫定監督がチームを率いたが結局、この2敗が響いてCLから去った。

ディマッテオ監督は今季序盤、チームの再編と守備一辺倒ではなく、攻撃的サッカーも取り入れようとしたが失敗。選手たちとの関係も悪化し、すでに昨秋ごろには、チームは不安定な状態に陥っていた。

毎年のように指揮官が代わっていては、継続性がなく、長期計画も立たないため、決して強いチームは作れない。

香川と息の合った相棒はまだルーニーぐらい

マンUは16強へ勝ち上がったが、第1戦は敵地でレアル・マドリードの速い試合運びに苦戦して1-1。第2戦は先制したが、MFナニが退場となり、モドリッチとロナウドに2発を食らって敗退した。

実はマンUは、この数年、勝っても内容はさっぱり、という試合が多い。攻撃時の選手たちのポジショニングを見れば、一目瞭然。まったくバラバラで、よくこれで点が取れるな、と思うほどである。

今季はとくに両サイドからの放り込みサッカーから転換を図ろうとして、中央の密集地で勝負ができる香川らを獲得。だが、いまのところ成功していない。香川と息の合った相棒が、まだルーニーぐらいしかいないからだ。

個人技頼りから抜け出せないマンU

結局、今季のマンUはファンペルシーやルーニーの個人技に頼ったゴールが多い。個々の選手の能力が高いため、国内リーグ戦では個人技で得点を重ね、現在首位を独走状態で優勝は間違いない。

だが、それは国内リーグに限ったことで、能力の高い選手がそろっていて、高度な組織サッカーをするレアルには勝てなかった。マンUはこの2~3年、この個人技に頼ったスタイルから抜け出せていない。もしかしたらファーガソン監督の限界なのかもしれない。

次々と育った選手が移籍してしまっているアーセナル

アーセナルの敗因は、段階的なチームの弱体化にある。この数年、毎年のように次々と育った選手が移籍していった。健全経営を目指すクラブの方針として、選手の給与の上限を決めているため、ほかの強豪から引き抜かれてしまったからだ。

11年夏はMFセスク・ファブレガスがバルセロナに。MFサミール・ナスリとDFガエル・クリシーは、ともにマンチェスター・シティーへ移籍していった。昨年夏はFWロビン・ファンペルシーがマンUに、MFアレックス・ソングはバルセロナに新天地を求めた。

それぞれ代役を獲得してきたが、誰ひとりとして退団した選手を上回っていない。FW陣はジルー、ポドルスキ、MF陣はカソルラ、アルテタ……。年々弱体化していき、欧州CLで8強入りを逃したばかりでなく、今季は現在5位で、来季の欧州CLの出場権獲得が危ぶまれている。

弱体化は顕著だ。強いときのアーセナルは、非常に速く短いパス回しと連動した動きで、攻撃を組み立てる。選手が選手を追い越していく動きが特徴だ。

ところが、この数年のアーセナルには、こうした動きが少ない。選手個々の技術や体力、判断、戦術的理解が低いため、ビルドアップの段階で途切れ途切れになってしまっている。

せっかく育った人材が、次々抜けていくなら、バルセロナのように同じ哲学を持った即戦力が、ユースから次々と上がってくればいいのだが、アーセナルにはそれがない。

「CL8強ゼロ」が強烈な警鐘になるか

理由はさまざまだが、この数年間で、イングランドの強豪クラブが弱体化していることは間違いない。栄えるものがいつか滅びるのは、世の常だが、あまりにも早いスピードで瓦解しているのだ。

アーセナルはクラブのポリシーを変更し、どうにかしてユースから有能な選手が育つようにするしか対策はないだろう。

マンUはもし来季もファーガソン監督が続投するなら、有能なコーチを右腕に雇うしかないのではないか。チェルシーも、マンシティーも、抜本的な改革を施さなければ、衰退を防げない。この「CL8強ゼロ」が強烈な警鐘になるかどうか……。

個人的には来季、欧州CLに出場する可能性が高い、ビラスボアス監督率いるトットナムに注目している。MFベイルを中心にパワーと高速連動サッカーで、面白い戦い方をするチームなのだ。

いったいこのチームが欧州のクラブ相手にどんな戦い方をして、どこまで勝ち上がっていけるだろうか。新しいイングランド勢の躍進に注目している。

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