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「ユニクロの原点はVAN」「定番こそ革新が必要」

柳井正氏×石津祥介氏 定番を語ろう

「僕はVANでカジュアルの全貌を学んだ」とファーストリテイリング会長兼社長の柳井正さん(左)。「ユニクロはかつてのVANと重なる」と石津祥介さん(東京都江東区のファーストリテイリング有明本部)

アイビーファッションを日本に紹介したヴァンヂャケット(VAN)の創業者、石津謙介さんは1990年代後半に開店したてのユニクロ原宿店を見学し、こうつぶやいたという。「これこそ僕がやりたかったことだ」。ボタンダウン、チノパンと定番を中心に据える商品構成がかつてのVANをほうふつとさせ、だれもが買える価格だったからだと、謙介さんの長男で服飾評論家の石津祥介さんは述懐する。実はユニクロを展開するファーストリテイリング会長兼社長、柳井正さんの実家はVANSHOPを経営していたという縁がある。そこで柳井さんと祥介さんがファーストリテイリング有明本部(東京・江東)で初めて対面。なぜ若者は定番志向になったのか、いまの消費者をとらえる定番とは何か、についてじっくりと語り合った。




実家がVANSHOP経営、カジュアルの全貌を学んだ

――柳井さんの実家(山口県宇部市)の小郡商事がVAN専門店、VANSHOPを経営されていたと聞きました。

柳井「実家の本業は紳士服店でスーツを売っていて、姉妹店がVANSHOPでした。1960年代、カジュアル衣料の店といえばVANSHOPしかありませんでした。ですから僕は高校で最初にボタンダウンの白シャツとコンバースタイプのバスケットシューズを履いて登校した生徒。でも、だれも何も言わない。そんなものはどこにも売っていなかったので気付かないんです」

石津「学生は詰め襟、サラリーマンは学校をでるときに親に一着だけ背広を作ってもらう。昔はそれだけだったからね」

――そこにVANが米東海岸の名門大学、アイビーリーグのファッションスタイルを持ち込んだのですね。衣料品店の経営ではどのような影響を受けましたか。

「みなが服しか売らない時代に服と文化を結びつけたVANは偉大でした」

柳井「僕はVANSHOPをやって商品分類を覚えたのです。VANが偉大だったのは日本で初めて商品を体系的に品番で管理したこと。スーツはA番、ジャケットはB番といった具合に。ほかのブランドやデザイナーにはそういった体系がなかった。ああ、カジュアルはこういう分類をするのだという全貌がよく分かりました」

――パンツはパンツ専業、セーターはセーター屋さんという時代で、トータルでカジュアル衣料を展開する店はありませんでした。

柳井「しかも、この場面ではこういう服を着るという『TPO』を知り、ブレザーとはどういうものか、ということも学んだ。ユニクロの基本はVANなんです」

フリースやヒートテックで日本人の風俗を変えた

――そんなユニクロが東京進出を果たしてフリースの大ヒットで話題になりました。石津謙介さんはどう見ていたのですか。

石津「謙介は『これこそ夢見ていた仕事なんだ』と言っていました。謙介はVANを日本中の男に着せたかった。日本中の男をかっこよくしたかった。生活ファッション着を目指したのです。ところがタイミングが早すぎてファッションにとどまってしまった。値段も高くて、スーツが初任給と同程度でしたから、顧客が限定されました」

「このユニクロのウール風パンツは洗濯機で洗いっぱなしでしわにならない。すごいよね」

柳井「僕はね、石津謙介さんは本当は風俗を作りたかったんだと思っています。VANはライフスタイルを提案した最初のブランドで、VANのほかにリーバイスに匹敵するジーンズのラングラーやアウトドアのシーンなどを手掛け、同時に雑誌と組んでアウトドアの道具などを紹介した。皆が服だけを売っているときに、石津謙介さんは内外の服を文化と一体化させて発信していたのです。ユニクロはフリースやヒートテックで日本人の風俗を変えました。石津謙介さんはたぶん、うちのような『ライフウエア』をやりたかったんじゃないかな」

――ライフウエアという日常着の中核は定番と呼ばれる普遍的なアイテムです。近年、消費者は流行を追わなくなったともいわれていますが、一方で定番の復権を感じていますか。

柳井「ファッション感覚だけの服だとファッションショーで見せるにはいいかもしれませんが、日常の服としては着られない。ベーシックだとか、トラディショナルな服が基本だと思っています。でも、トラディショナルをやりすぎると古くなるんですよ。トラッドを掲げても時代の変化に対応できないところは全部だめになりました。なぜか。革新が止まったからです。トラディショナルな定番こそ革新が必要です。僕はトラディショナルな服に、ファッション、そのシーズンのトレンドが少しだけ入っているというのが一番いい服なんじゃないか、と思っています」

石津「車のクラウンはいまと当初では全然違うでしょ。服も当然そうで、進化が絶対必要なんです。ただVAN創業時は消費者にとって目新しいものばかりだったから、米国でこれは、という服を探してきては徹底的にコピーすればよかった。謙介はいつも『デザイナーはいらないよ』と言っていました。作るよりもむしろ、日本人には余計と思われるデザインや装飾をはずすところが大切で『キミたちはデザイナーじゃない、削り屋なんだ』と企画担当者に言っていました。そうやって、今までになかった定番品を日本に定着させたんです」

デザインで進化させにくい定番 素材で進化させるしかない

――シンプルな定番は売り手が個性を発揮しにくい服でもあります。どのような進化が可能なのでしょうか。

石津「定番はデザインで進化させにくく、素材で進化させるしかない。ユニクロの機能の進化はとにかくすごいと感じています。きょうはいているユニクロのパンツはウールにみえる機能性素材を使っていて、一昨日洗濯機で洗ってそのままなんですけど、アイロンをかけなくてもきちんと折り目がついたまま。これも進化したからこそです」

有明本部のリーディングルーム。デザイン、社員はクリエーティブ関連書籍を自由に閲覧できる

柳井「たとえばボタンダウンのシャツでいえば、昔は(ワイシャツなどと同じ)ドレスシャツの一つとして認識されていました。でも今、ボタンダウンはカジュアルウエアとしての需要が主流なので、あえて洗いをかけてカジュアルな風合いを出しています。ジーンズをどこにでもはいていける、そんなカジュアルな時代になっているので、それに合わせた細部の工夫が必要になっているんです。あと、いま僕が着ているのはデザイナー、クリストフ・ルメールさんとのコラボ商品のカーディガンジャケットです。着ていて非常に楽ですし、人と会うときでもきちんとしてみえます。僕はこれがいまのジャケットだと思う」

――時代が変わるとアイテムの位置付けも変わって、オンとオフの境界も希薄になってくるわけですね。では、ライフウエアを続けてきたユニクロが考えるファッションとは何でしょうか。

柳井「時代を感じさせるものだと思います。我々が本当に目指しているのは『トゥデイズ・トラッド(今日風のトラッド)』なんです」

ライフウエアとは人々の生活を快適にする究極の普段着

――石津さんはユニクロの服にどんな印象を持っていますか。

石津「僕はユニクロの服をたくさん持っていて、着ることは多いですよ。ライフウエアという言葉にも共感します。自分の着方を考えると、ユニクロは人の目を意識した服ではなく、体で感じる服ですね」

柳井「ライフウエアとは人々の生活を快適にする究極の普段着という考え方です。お客さまのライフスタイルに沿って服装の道具を売る、という、服に対する一番進んだ考え方なんじゃないかな、と思っています」

――80年代はDCブランドや海外ブランドの台頭で「高い服はいい服」「ブランドで自己表現する」という価値観がありました。いまはどう変わったのでしょうか。

「このカーディガンジャケットは着ていて楽できちんと見えて、今の時代のジャケットの定番だと思う」

柳井「三井住友銀行がドレスコードを廃止し、ジーンズを解禁しました。服はこれまで会社や仕事、社会の階層みたいなものを表すものでした。それが個人を表現するものに変わった。服の組み合わせで個性を表出する時代には全身アルマーニという人はいなくなる」

――2020年からは職場のカジュアル化が加速しそうです。ビッグチャンス到来とお考えですか。

柳井「ビッグチャンスというよりは、世界で一番コンサバティブな日本の銀行が何を着てもいいとなり、カジュアルの時代になったんだ、と実感します。ただ、仕事で人に会うようなときには、人に会うためのカジュアルを着ないとまずいでしょう。服装というのは自分の着心地がいいことと相手に合わせること。2つの要素がないとだめなんです」

――その「人に会うためのカジュアル」、いわば「よそ行きのカジュアル」の代表例が、今着ているカーディガンジャケットというわけですね。

石津「僕の場合は下着だとか靴下だとか外に出す必要のない衣類はほとんどユニクロです。私はこれを着ています、と主張したいときはユニクロではないものを着る。ファッションというのは人の目を意識して着るものに使われる言葉。人の目よりも自分にとっていい、という物差しで選ぶものが定番です。ユニクロは定番で、だれでも着ることができる。これが強み」

グローバルに売れる服を作るにはブランディングが必要

――大手アパレルやファストファッションの業績不振が目立ちます。欧米でも「服が売れない」と言われています。アパレルの市場は先細りを余儀なくされるのでしょうか。

柳井「僕は世界的にみたらアパレルは成長産業だと思っている。みんな先進国しかみていないですからね」

「パリのマレ地区にある旗艦店はもともとはダイヤモンドの研磨工場だったんですよ」と石津さん(右)に説明する柳井さん

石津「まったく同感です。日本市場が厳しいのは、百貨店でものを売るという流通の仕組みがあるからです。百貨店で売るとなると価格は高くならざるを得ない。百貨店が厳しければアパレルも厳しくなる。ユニクロはまったく異なるシステムで服づくりをしているから同一視することはできません」

柳井「グローバルブランドにならないと生き残っていけません。アジアでは40億人の人口があり中産階級に育っていく。家や車を買う前にまずは服を買うのです。グローバルに売れる服を作るにはブランディングが必要で、そのためにうちはニューヨーク、パリ、ロンドンにグローバル旗艦店を置いている。世界の他の大手ブランド同様、世界中の情報を集めて日本的に解釈しなおして、日本人が考えた世界に通用する服とはどういうものか、考えて売っています」

――店舗を経由せずメーカーが直接消費者に商品を届けるD2Cが話題です。

柳井「注目はしていますが、まだ小売りの域を出ていません。服というのは当然のことながら基本的な知識や生産ノウハウがないといけない。デザインをし、素材を選択して、コーディネーションと全体のバランスもみる。そこまでの能力を持った企業があったらすごいと思いますけど、いまのD2Cはまだ小売業のノウハウだけ。作る方がよっぽど難しいのです」

「ライフウエアマガジン」、ライフスタイルとしての服発信

――情報発信という部分でもVANはパイオニアでした。米東海岸の名門校(アイビーリーグ)の学生の日常着を紹介した1965年発刊の写真集「TAKE IVY」はアイビースタイルのバイブルでした。海外でも翻訳され、いまなお人気です。

フリー誌「LifeWear magazine」を見て「僕も編集の仕事をやっていたときは取材もスタイリングもすべてやっていました」と石津さん

石津「TAKE IVYは僕がスタッフ7人を連れて行き撮影しました。本当の目的は写真集じゃなくて、ファッションも含めた大学生のライフスタイルの映画を撮ることでした。映画といっても一般に公開するものではなくて、VANの店にお客さんを集めて特別に上映するためのもの。撮影部隊一行に婦人画報社のカメラマンがいて傍らで撮影した写真をまとめた。映像を念頭においた写真集なのですが、大ブームとなりました」

――ユニクロは19年8月にフリー誌「ライフウエアマガジン」を創刊しました。ファッション誌風にユニクロの商品を紹介するものですが、作ったのが18年に入社した木下孝浩・グループ上席執行役員。木下さんが元「ポパイ」編集長だったことで話題を呼びました。

柳井「実は木下はTAKE IVYの大ファン。今回のフリー雑誌は木下の美意識が生かされていて、バランスがいい仕上がりだと思っています。彼がポパイの編集長だったとき、並み居る一流ファッション誌を超えたと思いました。大方のファッション誌はタイアップ記事や広告が主体ですが、ポパイは自分たちで取材をして、自分たちで特集を考えることを大事にする。どの雑誌よりも上を行っていたと感じていました」

有明本部に飾られた柳井さんがお気に入りの書。「服を変え 常識を変え 世界を変えていく」とある

「今はモードからではなく、人々の暮らしから新しい着こなしが生まれてくる時代です。ですから(テニス選手の)フェデラーのような、ライフスタイルを表現できる人を登場させて、どんな服を着ているのかを発信しています。これからは年2回、グローバルで200万部近くを発行し、webでも展開します。すでに『スタイルヒント』という、着こなしを検索できるアプリと合わせて、新しい媒体に育てようと言っています」

石津「僕が当時アイビー校に目を向けたのは、学生の間で定番化している服には歴史があり、調べるには格好の材料だったから。学生の日常を撮影したから話題になった。雑誌でライフウエアを啓蒙するならば、ファッションに寄りすぎず、ファッションから一歩引くことが大事かなと思います。それと活字をあまり小さくしないことでしょうね(笑)」

(聞き手はMen's Fashion編集長 松本和佳)

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