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コツコツ投資家 陰の勝利 買い続け株高で開花

投資環境を大きく変えた円安・株高。しかしうまく波に乗れた個人はあまり多くない。「隠れた勝者」は、過去の相場低迷時にも怖がらないで買い続けてきた「コツコツ投資家」たちだ。

平均コスト下落

「昨年の秋から損益は黒字に転換、今は投資額1250万円に対して250万円くらいの含み益」と話すのは東京都内の不動産鑑定士、下山俊一さん(39)。

2010年の秋以降、低コストのインデックス(指数連動)型投資信託を使い、毎月数十万円を国際分散投資している。「相場が真っ暗なときでも買い続けて平均コストが下がっているので、相場が少し回復すると大きく利益が出ます」

「コツコツ投資家」の中心は、30~40代の会社員。製薬会社勤務でブログも書いているybさん(ハンドルネーム、40)も05年以降、積み立てで分散投資を続けている。「08年のリーマン・ショック後は大幅な含み損だったが、今は400万円程度の含み益」

彼らの成功はデータでも裏付けられる。グラフAは、世界の株式や債券に幅広く分散投資するインデックス型投信、「セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド」の動き。基準価格はようやくリーマン前に戻った程度だ。

しかしリーマン・ショック直前の08年8月以降、定額でこの投信を買い続けていた場合の損益を試算すると、累計投資額に比べて現時点の資産は約25%のプラスだ。

長期分散は王道

「対象と時期を分散して長期投資し、世界経済が拡大していく恩恵を受けるのは実は投資の王道」(外資系年金運用会社の日本代表を経て現在は投資教育家の岡本和久氏)。一方「多くの個人はいまだに、何がいつ上がるかを当てることが不可欠と考えている」(同)。

「当てにいく投資」は大きな利益が得られることもある。ただし、世界的ロングセラー「敗者のゲーム」の著者で米国の投資コンサルタント、チャールズ・エリス氏は「市場参加者の多くが膨大な情報を持つ機関投資家となった今、自分だけ当て続けるのは極めて困難」と指摘する。

エリス氏は11年にインタビューしたときも、「個人に大切なのは低コストの商品で時期と対象を分散して投資し続けること」と強調。「相場には、突然上がる『稲妻が走る瞬間』があるが、予測できない。『稲妻』の恩恵を受けるには市場に居続けること」とも話していた。

今回の円安株高では買えないままでいたり、早い段階で売ってしまったりした個人も目立つ。上昇初期の昨年10月から12月にかけて、個人は大幅な売り越し。フルに「稲妻」の恩恵を受けたのは、市場に居続けた「コツコツ投資家」だ。

下山さんもybさんも、以前は個別株や外国為替証拠金取引(FX)で「当てにいく投資」を繰り返していた。しかし「当たったり外れたりで結局は損が出た。やがて今のスタイルが楽だと気づいた」(ybさん)。

多くの個人は、投資には膨大な知識が必要と思っているが、それは投資スタイルによる。仕事で忙しい普通の人が「コツコツ投資」をする場合は、実は「長期・分散・低コスト」というシンプルな原則を知っておくだけでいい(図B)。

積み立て投資は一括投資よりいつも有利なわけではないが、投資対象の価格が変動しながら長期的に上昇する場合は成功しやすい。コツコツ投資家がこの手法を選ぶのは、世界全体でみれば経済も株価も長期的には上向くと信じるからだ。

買い続けていれば、今後相場が下がると損失に転じるリスクを抱える。しかしやはり長期分散投資を続ける会社員、水瀬ケンイチさん(ハンドルネーム、39)は「僕らは何十年も先の老後のために投資しているので、目先の損益はどうでもいい。下がっても、安い値段で買い続けられるので逆にプラス」と冷静だ。

老後に大きく下落すれば回復が難しい。しかし「年齢が上がれば、価格変動の大きい株式の比率を下げ、現金や債券の比率を高めておく」(水瀬さん)。

コツコツ投資家たちは毎年、情報交換のための「インデックス投資ナイト」=写真=というイベントを東京で開いている。表Cはそこで発表された「個人が選んだベスト投信」だ。

投信業界全体の売れ行き上位は、毎月分配型を中心とする手数料の高い商品。「個人が選んだ投信」には、一般的な「売れ筋」商品がまったく含まれていないことも知っておきたい。

金融機関も注目

金融機関も若い「コツコツ投資家」に注目し始めた。現在の投信の主な購入層である60歳以上の人口は今後減るからだ。

表Cの3位に選ばれたインデックス投信を運用する三菱UFJ投信は1月、「コツコツ投資家」の意見を聞く会を開き、後藤俊夫社長自らが出席し2時間対話した。新しい投資家の意見を聞きたかったからだ。

後藤社長は「年金不安が高まる中、老後資金づくりで投信を長期保有してもらう大切さを改めて実感した。長期分散投資に向いた低コスト投信はその有力な手段となれる」と話していた。(編集委員 田村正之)

[日本経済新聞朝刊 2013年3月6日付]

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