監督たちの戦い はい上がれるか…和田監督、トラ再生へ険しい道
スポーツライター 浜田昭八
「はい上がろう」と、阪神・和田豊監督は叫んだ。5位に終わった監督1年目、2012年シーズンの納会でのこと。低迷阪神の再生に意欲を燃やしてきたが、さまざまな誤算があって、ものの見事に失敗した。はい上がらなければ、阪神ファンとマスコミの厳しい批判にさらされる。
■昨年は交流戦で変調、そのまま立ち直れず
昨年はセ、パ交流戦が始まる前まで勝率5割をキープした。ところが、交流戦のスタートで5連敗してつまずいた。
ここで変調したまま低迷続き。前半戦終了時の7月18日には"借金"10の32勝42敗9分けの5位。立ち直れないまま借金を20まで膨らませてシーズンを終えた。
交流戦のスタートで対戦した日本ハム、楽天にたたかれたことだけが変調の原因ではない。肉体的にも、精神的にも、開幕して2カ月ほどしか持たなかったのだ。その程度の甘い鍛え方しかしていなかったということか。
現有戦力に「ちょっとスパイスを加えると十分に戦える」と踏んだ見通しが甘かった。若手の成長を計算に入れ、攻撃に足を絡ませるのが"スパイス"となるはずだった。ところが、若手のほとんどが足踏みして、チーム内競争は激化しないままだった。
■今オフ、西岡・福留らを獲得する大補強
わずかだが観客動員に陰りが見えたことに、球団も危機感を抱いた。それが今オフ、阪神として近来にない大補強につながった。大リーグ帰りの西岡剛、福留孝介を他球団と競り合って獲得。フリーエージェント(FA)のオリックス・日高剛を捕手陣に加えた。さらに、新外国人に元大リーガーの三塁手コンラッド。
これで"スパイス"に過剰な期待をかけなくてもすむ材料が増えた。ドラフトでは昨年の甲子園で大阪桐蔭高の春夏連覇に貢献した大型右腕、藤浪晋太郎をクジで引き当てた。
和田自身も球団の熱意に乗って中南米へスカウト行脚に赴いた。巨人に比べて補強が手ぬるいと同情されたものだが、もう言い訳は許されない。
■藤川に代わるストッパーは?
だが、問題点も多い。
補強にカネはかけたが、大リーグへ流出したストッパー藤川球児の代役をとれなかった。大リーグから復帰した元ヤクルト・五十嵐亮太の争奪戦でソフトバンクに敗れたのが痛い。
やむをえず、先発要員だった久保康友を新ストッパーに指名した。制球がよくて球は切れる。度胸もいいので適役といえる。問題は未経験の大役を、シーズン通してこなせるかどうかだ。その成否はチームの浮沈に大きくかかわる。
長期ペナントレースを戦うには、先発陣の頭数も足りない。能見篤史、スタンリッジ、メッセンジャー、岩田稔までは数えられるが、あとが続かない。
藤浪がローテーションに加わればいいが、高卒新人にそこまで負担をかけていいものか。ここは、鶴直人、岩本輝、歳内宏明ら若手の飛躍に期待するしかない。
■"ポスト金本"問題も…
攻撃陣では"ポスト金本"問題、4番にだれを据えるかを引きずっている。和田監督は新井貴浩の復活を期待したが、右肩の回復が思わしくない。昨季は新井良太が頑張ったが、今季は徹底マークにあって苦しいだろう。
福留、コンラッド、マートンらのやり繰り起用となりそうだ。新井貴の一日も早い復帰が待たれる。
昨季は足を絡めた攻撃が、あまり機能しなかった。今季もこれには徹底的にこだわる。
■足を絡めた攻撃にこだわる
「足が速い、遅いの問題ではない。走塁もバントも、強い気持ちで挑まなければならない。去年はやるべき小技をきっちりとやれずに沈んだ」と言い、西岡、大和(前田)、伊藤隼太らの脚力をフルに生かそうとしている。
キャンプではバント、バスター、ヒット・エンド・ランだけのシート打撃をやるなど、小技に磨きをかけた。集中力を欠いた若手に対しては、特打の予定を変更して1時間もバント練習を命じたこともあった。
といったところで、問題点を抱えながらも昨季とは比べものにならないほど戦う態勢は整った。しかし、巨人のカベは厚い。中日に対するコンプレックスも根強い。 セ、パ交流戦でのパ各チームは、マスコミへの露出度が高い阪神戦に全力を注ぐ。「はい上がる」道のりは、まだまだ険しいといわざるを得ない。