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ナダルはもうハードコートで戦わなくなるのか

もうハードコートでプレーしたくない――。左膝のケガから復帰して約1カ月、男子テニスの元世界ランキング1位、ラファエル・ナダル(26、スペイン)がハードコートへの不満を繰り返し口にしている。すでに四大大会11勝、生涯グランドスラム(四大大会すべてで優勝)も達成したナダル。「もうハードコートで行われる全米、全豪オープンに出場しないのではないか」という声すら聞こえてくる。

NYでのエキシビションマッチに出場

3月4日は国際テニス連盟(ITF)が定めた「世界テニスの日」。テニスの普及を目的に世界各地で様々なイベントが開かれた。

ニューヨークではここ5年間毎年、全米テニス協会がマディソン・スクエア・ガーデン(MSG)でエキシビションマッチを開催していて、今年の大会にはナダルが初めて登場した。

世界ランキング5位のナダルと対戦したのは同7位のフアンマルティン・デルポトロ(アルゼンチン)。女子は世界ナンバー1のセリーナ・ウィリアムズ(米国)と2位のビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)の組み合わせと豪華な顔ぶれ。

このエキシビションマッチは約1万6000人もの観衆を集め、米メディアによると、ナダルの出演料は約150万ドル(約1億4000万円)だったという。

試合前には「MSGは世界で最もロマンチックなアリーナ。ここでプレーするのは夢だった」と語っていたナダル。しかし、約7カ月に及ぶ左膝のケガから復帰後、初めてのハードコートでのプレーということで、「膝がどう感じるか試したい」とも話していた。

無理してボール追いかけず

通常こうしたエキシビションマッチでは互いに8割程度の力で打ち合うことが多いが、デルポトロとのマッチでナダルはボールを無理して追いかけることもなかった。それでもファンは喜び、ナダルもいい感触を得たようだ。

「ニューヨークのファンはテニスを分かっているので楽しかった。膝はいい方向に向かっている。ハードコートでの試合を試してもいいかな」と試合後にナダルは手応えを口にした。

「ハードコート(でのプレー)は引退してからも、選手の健康に多大な影響を及ぼしている」。今年2月のツアー復帰後、ナダルは公の場でブツブツもらしていた。

「ハードコートは健康に多大な影響」

「あのエネルギッシュなラファ(ナダルの愛称)のプレーには(ハードコートは)きついのだろう。キャリアの後半戦にかかるわけだし、体のことを考えて日程を工夫すればいい」

インディアンウェルズで開催される大会の元トーナメントディレクターで、今年テニス殿堂入りしたチャーリー・パサレル氏はそう話す。

ハードコートはクレーコートに比べ、膝などプレーする選手の肉体への負担が大きい。だが管理をしやすく、維持費も少なくてすむハードコートでの大会が近年増えている。

大きなケガをせずに世界トップレベルを維持するロジャー・フェデラー(スイス)のような選手もおり、不満の言葉を繰り返すナダルの賛同者が必ずしも多いわけではない。

ナダルの生まれ故郷のスペインに多いクレーコートは、芝のコートやハードコートと比べてボールが高くバウンドし、ラリーも続きやすい。このため、クレーコート育ちの選手は足腰が強く、ストローク巧者が多い。

グッと踏み込むからこそ生まれる、ナダルの強烈なトップスピンもクレーコート育ちのたまものだろう。

しかし、クレーコートの王者のナダルも数年前から膝の慢性腱(けん)炎に悩まされ続け、戦線から度々離脱。今回のケガでは、昨年6月のウィンブルドン選手権シングルス2回戦で敗れて以降、7カ月以上も実戦から遠ざかっていた。

膝の違和感はまだ残ったまま

今年2月、クレーコートの試合を選んで復帰したが、違和感は残ったままだったようだ。初戦は規模の小さいチリ・オープンで準優勝したものの、全力からはほど遠いプレーだった。

だが、翌週のブラジル・オープンは史上最高の観客動員をもたらして優勝。大会規模が大きいメキシコ・オープン(3月2日まで)でも、世界4位のダビド・フェレール(スペイン)を決勝で圧倒して優勝した。

「僕がビックリ」とおどけてみせたナダル。この大会でようやく「膝が"自由"を感じ始めた」というが、まだまだ楽観はしていない。

「忍耐が大切。日々、膝の状態を見ていかないといけない。動きに制限を感じないだけでなく、ハードコートは1年ぶりだから試合勘もね。あまり期待はしないよ」

フェデラーとテニス界をけん引

毎年3月に開催される米国のインディアンウェルズとマイアミでの大会は男女共催で、四大大会に続く規模と華やかさを誇る。しかし、どちらもハードコートでの試合になる。

7日から始まったインディアンウェルズのBNPパリバ・オープンで膝の状態を確認をしたら、マイアミでのソニー・オープンには出場せず、4月から始まる欧州でのクレーシーズンに備えると見られている。

19歳で全仏を制してから、四大大会17勝のフェデラーとともに、男子テニス史上で最も人気も華もある時代をけん引したナダルも26歳になった。

フェデラーもすでに31歳。ともに25歳の世界ランク1位ノバク・ジョコビッチ(セルビア)と同3位アンディ・マリー(英国)の成長で、男子テニス界の勢力図は大きく変わりつつある。

ナダルにはテニス人生の折り返し地点に立っている意識もあるようだ。昨年末には約12年所属した世界最大のスポーツマネジメント会社IMGと契約を更新しなかった。

ナダルはIMGにとって、マリア・シャラポワ(ロシア)と並ぶ看板。日本人選手では錦織圭(日清食品)、フィギュアスケートの浅田真央(中京大)、卓球の石川佳純(全農)らが所属している。

IMGと契約更新せず、会社を設立

「IMGは素晴らしい仕事をしてくれた。ただ、すべて新しいスタートを切りたかったから、個人で会社を立ち上げることにした」

家族の絆、友情をとても大切にするナダル。もちろん新会社の社長は父親で、長年のマネジャー、カルロス・コスタ氏もIMGを離れ、広報担当のベニート氏もニューヨークでも相変わらず、ナダルにぴったり付き添っていた。ナダルを支える「チーム・ラファ」は今でも変わらない。

IMGからは昨年、フェデラーもマネジャーとともに離れた。一方で、昨年12月にIMGはジョコビッチと新たに契約を結んだ。

IMGは契約選手のスポンサー契約総額の最大15%を手数料として受け取っているとされる。雑誌フォーブスによると、ナダルの昨年のスポンサー契約総額は2500万ドル(約23億7000万円)で、IMGには最大で375万ドル(約3億5500万円)の契約金が入ったことになる。

引退後も"商品価値"ある選手

ナダルやフェデラーはテニス界では別格な存在で、引退後も十分"商品価値"のある選手だ。

だが、ナダルやフェデラーは恵まれた家庭の出身で、大別すれば単純にテニスで勝つことが楽しくてプレーするタイプだ。

有力選手の稼ぎを期待する親戚や家族もいなければ、ハングリー精神で満たされているわけでもない。錦織によると、「(殺伐としがちな)テニス界は、トップ2人が礼儀正しいからいい雰囲気」という。

特に、ナダルはスペインのマヨルカ島でも一族の結束が固い裕福な家庭に生まれ育った。父は会社を経営、叔父はサッカーの元スペイン代表選手。普段の振る舞いに、育ちの良さがにじみ出ている。

スポンサーが増えると、それに伴うイベント出演などのテニス以外の仕事も増える。シャラポワのように、人前に出ることが好きなタイプでもない。あくせく稼ぐことより、自分のペースでテニスをしたかったのだろう。

「今後の目標? 膝を100%の状態にすることとしかいえない」と4日に答えたナダル。もともと快活に受け答えするタイプではないが、元気がないと分かりやすく態度に出る。

ニューヨークでは、すでに「ラファが全米テニスに出なくなったらどうしよう……」と心配する声がある。もし、ニューヨークの試合に出ないとなれば、東京・有明コロシアムはさらに球足の速いハードコートだから、なおさら期待薄だろう。

結果次第で発言変わる可能性も

周囲は発言にやきもきするが、ナダルはすねた子どものようにすぐ思ったことをこぼすものの、実際には忍耐強い。

膝の状態について自信さえつかめば、集中力も高まり、かつてのようなプレーがよみがえってくるだろう。そうなれば、ハードコートの大会もいくつか狙いを定めて出場してくるのではないか。四大大会の全米、全豪テニスは"照準"を合わせる筆頭だ。

まずは13日の試合で準々決勝進出を決めたBNPパリバ・オープンで好結果を残し、欧州でのクレーシーズンの大会で自信を深めれば……。ナダルの発言が微妙に変わってくるかもしれない。

(原真子)

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