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スコアアップ工房 ライ角合わないゴルフクラブ、アドレス乱す原因に

クラブデザイナー 喜多和生

シャフトと地面の間の角度を示すライ角はクラブの重要な要素です。ボールのつかまり方に影響するからです。きちんと組み立てられたセットでは、長いクラブになるほどライ角はフラット(角度が小さい)になっていきます。逆に、短いクラブになるにつれて少しずつアップライト(角度が大きい)になっていきます。

身長やアドレスで違いも

スライスが目立つようならアップライト、引っ掛けやフックが多いゴルファーにはフラットなライ角がよいといわれます。

背の高い人やアドレスのときに体の近くで腕をセットする人はアップライト、小柄な人や体から離して腕をセットする人はフラット気味がよいといえます。

しかし、これらはあくまで一般論にすぎません。それぞれのゴルファーに合ったライ角があるからです。

メーカーは身長170センチ前後の標準的な身長のゴルファーを想定してライ角を設定していますが、実際には身長も打ち方もそれぞれ異なります。しかも、店頭には設計通り組み立てられていないクラブが多く並んでいるのも事実です。

短いクラブほどアップライトに

たとえば「8番アイアンだけ左へ行きやすい」という悩みを抱えていた場合、そのクラブだけライ角がずれていることもよくあります。これではゴルファーの混迷は深まるばかりです。

クラブが短くなるにつれて、体とボールとの距離は近くなります。これを調整して、いつもフェースが目標に向いているようにするには、短いクラブほどライ角がアップライトになっていなければなりません。

ですから、ライ角がきちんと調整されたセットならば、長いクラブでも短いクラブでも同じアドレスを取ることができます。

ライ角が合っているかどうかは、フェースやソールについた打球跡や傷から見当がつきます。クラブのトゥ寄りにあればフラットすぎる可能性があります。反対にヒール寄りにあれば、アップライトすぎる可能性があります。

アップライトすぎるクラブはリーデングエッジのヒール側が地面に深く入って左に行きやすく、反対にフラットすぎるクラブはリーデングエッジのトゥ側が深く入り、フェースが開いて右に行きやすくなります。

ショットが安定しない恐れ

このため、ライ角がばらばらのセットを使っていると、クラブごとに異なるアドレスを取らざるを得なくなります。そうしなければフェース面が目標に向かないからです。この状態ではいつまでたってもショットが安定しません。

表1をご覧ください。これはあるアマチュアゴルファー、Nさんのアイアンのライ角です。

ライ角は5番アイアンで60~61度、ウエッジで63~64度が標準とされます。クラブの番手が大きくなるに伴って、角度が0.5度寝てくるのが一般的です。

ところが、修正前のNさんのアイアンは4番から7番までライ角がほぼ同じになっており、ピッチングウエッジでも4番に比べて0.5度アップライトなだけでした。

(表1)Nさんのアイアンのライ角
3番4番5番6番7番8番9番PWSW


59.061.561.562.561.563.062.562.064.0


58.559.560.562.062.062.563.564.064.0

注)PWはピッチングウエッジ、SWはサンドウエッジ

インパクトで調整する癖つく

ライ角が自分に合っていないクラブでアドレスすると、多くのゴルファーは本能的にアドレスのときにハンドダウン(手の位置を低く構える)か、ハンドアップ(手の位置を高く構える)して、クラブのライ角に合わせてアドレスを取ろうとします。

しかし、Nさんは手の高さを変えませんでした。ライ角に合わせて短いクラブになればなるほどボールをスタンスの右足寄りに置いていたのです。

そうすると、どうなるのでしょうか。ライ角がアップライトの番手はフックフェースに、反対にフラットなクラブではオープンフェースに構えていたのです。そしてインパクトの瞬間、フェースを目標に対してスクエアに合わせていたのです。

アドレスのとき、Nさんにはクラブがどのように見えていたのでしょうか。写真をご覧ください。正しいライ角の4番アイアンを構えると、写真1のように見えます。

スイングで調整、安定感に欠く

ところが、Nさんのライ角がアップライトすぎる4番アイアンはトゥ側が浮いてしまうため、無意識のうちにかぶせて構えていました。アドレスでは写真2のように見えていたはずです。

反対に、ライ角がフラットすぎるピッチングウエッジはヒール側が浮いてしまうため、オープンに構えていました。アドレスでは写真3のように見えていたと思います。

長い間、その構え方に慣れてしまうと、それが「スクエア」に見えるようになってしまうのです。

Nさんはボールの位置とフェースの向きで、無意識のうちに調整していたのです。Nさんはハンディ2の腕前。上級者だからこそできる技で、アベレージゴルファーではとても対応できないでしょう。

ただ、ハンディ2とはいえ、クラブを構えるたびに「複雑な調整」をしているようだと、ショットは安定しないでしょう。

同じスイングで全クラブ打つのが理想

やっかいなのはNさんのような上級者ほど、こうした複雑な調整ができてしまうため、それがもとでスイングがばらばらになってしまう危険もあるという点です。

そこで、同じスイングですべてのクラブが打てるように、3番アイアンからピッチングウエッジまでのライ角を表1の修正後の数値に調整しました。この状態で今までと同じスイングで打つと、しばらくは左右に球が散ると思います。

上級者だけにアドレス、スイングが体になじんでおり、「番手ごとにスイングを変えて、距離を打ち分ける」から「同じスイングで、番手を変えて距離を打ち分ける」に変更するわけですから、慣れるまでしばらく時間がかかります。

ショットがばらつけばチェックを

Nさんには「ドライバーと同じイメージで、アドレスしたときにシャフトが真っすぐ(垂直)になるように、意識して構えてください」とアドバイスしました。ドライバーと同じアドレス(スイング)をすれば、ライ角の流れで自然にフェースの向きが決まり、スイングと球筋が安定するからです。

きちんと調整されたクラブを手にすれば、自分のスイングへの自信とクラブへの信頼感が増し、安定したプレーができるはずです。ショットがばらつくとお悩みの方は、ライ角をチェックしてみてください。

 きた・かずお 1966年ミズノに入社、クラフトマンとして中嶋常幸、鈴木規夫、岡本綾子らトッププロのクラブを手がけた。90年にゴルフクラブ工房の「ジョイメニィー」を設立。「クラブがスイングを創る」をテーマにプロ担当経験を生かし、アマチュア向けクラブも製作する。92年に製作したドライバーがクラフトマンモデルとしては世界で初めて、英セント・アンドルーズゴルフクラブにあるR&A(ロイヤル&エンシェント)のゴルフミュージアムに展示されている。

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