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藤川はメジャーでも守護神になれるか

スポーツライター 杉浦大介

阪神のクローザーとして活躍してきた藤川球児が今季からメジャーの伝統球団、カブスの一員として新たなスタートを切る。2年総額950万ドルというリリーフ投手としては好条件で、背番号は11。昨年12月のリグレーフィールドでの入団会見で、メジャーでもクローザー役を目指すと宣言した。カブスのキャンプはいよいよ12日からスタートするが、日本が誇る速球派右腕はメジャーで通用するのか。そしてシーズン中にも"抑えの切り札"に昇格し、チームの低迷脱出を助けることができるのか。

阪神で十分な実績

藤川が日本で残してきた実績は、過去にメジャー挑戦した日本人リリーフ投手の中でも横浜やマリナーズで活躍した佐々木主浩氏らと並んで最高級だろう。

阪神では実働12年間で通算220セーブ。そのうちの7年で防御率は1点台以下を記録しており、奪三振率は9年連続で10を超えている。

今年7月で33歳を迎えるが、近年の貢献度もハイレベルなまま。過去5年間で通算280イニング以上を投げていて、昨年も防御率1.32、58奪三振、24セーブの成績を残した。

アメリカの関係者、ファンは2006、09年のワールドベースボール・クラシック(WBC)でくらいしか藤川の投球を見たことがない人がほとんど。それでもフリーエージェント(FA)でメジャー行きを表明した今オフ開始直後から、その評価が一般的に高かったのは、こうして誰の目にも分かりやすい好成績を残してきたからだろう。

日本人大リーガーの評価凋落に歯止め

昨季、ヤンキースのイチローだけではなくレンジャーズのダルビッシュ有、上原浩治(今季はレッドソックスに所属)、ブルワーズの青木宣親らがそろって活躍し、日本人メジャーリーガーの評価凋落(ちょうらく)にはとりあえず歯止めがかかった印象もある。

多くの実績ある選手が好契約を手にしたいわゆる"日本人選手バブルの時代"はとうに終わったが、それでも適応能力のある実力派なら十分に通用すると再認識された部分があったに違いない。

快速球とフォークボールを武器にする藤川はメジャーへの適性があるとみなされたのか、エンゼルス、ドジャース、ダイヤモンドバックスなどが獲得競争に参戦し、争奪戦の模様になった。

カブス、不振だった投手陣にてこ入れ

昨季ナ・リーグ中地区で101敗(61勝)を喫して地区5位に沈んだカブスは、チーム防御率4.51(ナ・リーグ16チーム中14位)と投手陣が不振。今オフには5年連続2桁勝利をマークしたエドウィン・ジャクソン、ツインズで通算63勝のスコット・ベイカーといった実績ある投手を獲得して先発ローテーションのてこ入れを図ってきた。

さらにチーム全体でメジャー30球団で最低の28セーブしか挙げられなかったブルペン補強の切り札として、藤川にかかる期待も大きい。

「元阪神のクローザーだった藤川は、リグレーフィールドがまるで故郷のように感じたという。シカゴの球場は日本での本拠地に良く似ていた。昨年11月にシカゴを訪れて以来、彼の頭にはシカゴしかなかった。阪神時代に220セーブを挙げた右腕は、(抑えの)カルロス・マーマルの前に投げるセットアッパーとして起用されることになる」

2月上旬に藤川がキャンプ地に到着直後、カブスの公式サイトの記事内にもそんな記述があった。

まずはセットアッパーに

23歳の一塁手のアンソニー・リゾ、22歳の遊撃手であるスターリン・カストロといった若手スター候補の台頭以外、明るい材料は多いとはいえないチームの中で、日本の速球派右腕はしばらくは好意的にとらえられ続けていくだろう。

気になる役割だが、スウェイム監督も「八回を投げることになるだろう」と話していて、まずはセットアッパーになることが濃厚だ。

ただ、入団会見の席で、藤川本人は「メジャーでも最も難しいポジションであるクローザーを目指したい」と明言している。そして、現地メディアの中にも、藤川が遠からず抑えの役割でも登用されることになるのではないか、と予想しているところもある。

その背景には、昨季にクローザーを務めたマーマルが必ずしも絶対的な存在とはいえないという事情がある。30歳のマーマルは、通算115セーブと実績は十分で、昨年も20セーブを挙げた。

制球に難のある抑えのマーマル

しかし、昨年は55回1/3で45四球と内容的には決してかんばしくなく、マイナー降格も経験した。今オフにはエンゼルスとのトレードがまとまりかけたが、破談になった経緯がある。

「コントロールに難があるマーマルは、1試合当たりに換算すると7.3個もの四球を出した。与四球率の高さは抑えの切り札にとって、決していいことではない」

カブス公式サイトの見方も少々辛辣で、今季中に何らかのトレード話が再燃してもまったく不思議はなさそうである。

メジャーのマウンドに慣れる必要

「藤川は、日本で大半はクローザーを務めてきた。ジェド・ホイヤーGM(ゼネラルマネジャー)は速球を武器にした真っ向勝負のスタイルを称賛している。しかし、彼はリグレーフィールドでクローザー役を務められるかどうか。その点が未知数なゆえに、九回ではなくまずは七、八回に起用されるのだろう」

ESPN.comのジェシー・ロジャース記者がそう記しているが、確かに藤川もまずはメジャーのマウンドに慣れる必要がある。

昨季のマーマルは、オールスター前まで防御率5.61だったが、オールスター後には1.52と復調の兆しを見せていた。そんな背景もあって、少なくとも開幕当初はマーマルが抑え、藤川がセットアッパーとして起用される可能性は高い。

しかし、今オフの投手陣補強の目玉だった日本人右腕が持てる力を発揮した場合、役割の交換は十分にあり得る。そもそも、大金をはたいて藤川を獲得したのには、マーマルに代わるブルペンの柱としての期待があったからに違いない。

ただ、もちろん藤川の適応がそうスムーズにいくとは限らない。「日本人選手への評価が回復傾向にある」とはいっても、近年、数多くの失敗例があることも事実。

フォークがカギに

マウンドやボールの違い、あるいは打者のパワーや生活環境に戸惑い、実力を出し切れない投手はこれまでも数多くいた。

07年に5年2000万ドルの大型契約でヤンキースに入団しながら、メジャーではわずか2勝に終わった井川慶はその最たる例だといってよい。

アメリカでは今のところ藤川に好意的な報道が多いのはすでに記した通り。しかし、中には懐疑的な意見も存在しないわけではない。

「阪神のクローザーとして輝かしいキャリアを過ごした藤川は、だいたい打者3人につき1人から三振を奪ってきた。しかし、彼のボールはかつてほど支配的ではなくなっている。平均以上の速球、良いフォークボールを持っているが、フォークの落ちは少し悪化している」

「12年には右大腿の負傷で離脱も経験しており、08年以降はシーズン70イニング以上を投げたことはない。良いセットアッパーになるポテンシャルは持っているが、フォークが復調しない限り、一級のリリーフ投手になれないだろう」

「かつてほど支配的ではない」との声も

ESPN.comのキース・ロウ記者は、藤川のカブス入団が決まる以前からそう記していた。そして「かつてほど支配的ではない」という声は、日本の関係者やファンの間からも少なからず聞こえてきている。

特によく小耳に挟むのが、「藤川は05~08年あたりがピークだった」という見方。実際に、球速自体はやや落ちているといわれ、WHIP(イニングごとに安打か四球で走者を出す確率)も"全盛期"といわれる4年間はすべて1未満だったのに対し、ここ4年中2度は1を超えている。

それでも素晴らしい数字なのではあるが、これからよりハイレベルの舞台に挑むことを考えれば、成績悪化は懸念材料に違いない。

91~93マイルの直球は通用するのか

真っすぐだけなら、どんなに速くても弾きかえす力があるメジャーリーガーたちに、藤川の91~93マイルの直球は通用するのか。ロウ記者が指摘するややキレの落ちたフォークボールを制球よく投げ込むことができるか。

その両方への答えが「イエス」でない限り、藤川もアメリカの舞台で厳しい時間を味わうことになりかねない。

いずれにしても、日本球界出身投手としては希有な存在である速球派右腕のメジャーでの挑戦は実に興味深い。

数々の疑問の声をはね返し、プレッシャーのかかる仕事と新しい環境にもうまく適応し、夏ごろまでにクローザーに定着するような活躍に期待したいものだ。

それが成し遂げられれば、カブスを熱狂的にサポートするシカゴで屈指の人気選手となっていく可能性もありそうだ。

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