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1億人のLINE、キーパーソンが描く世界戦略

米中市場を強化、経営論は「逆ばり」

 世界1億人を突破した「LINE」の新たな世界戦略が始動した。運営会社のNHN Japan(東京・渋谷)は4月1日をめどに会社分割し、LINE事業を「LINE(ライン)」という新会社に移管して再出発する。弱いとされる北米、中国では普及率拡大に向けた積極策を講じていく。北米はフェイスブックなど、中国は「WeChat」などの強豪がひしめく。簡単ではない"世界戦"をどう戦おうとしているのか。森川亮社長、舛田淳執行役員、2人のキーパーソンに聞いた。

LINEの利用者数が世界1億人を超えた今年1月18日、森川社長は「1億は単なる通過点。世界へ挑戦するための切符を手に入れた」「今年は本格的なグローバル展開をやりたい」と宣言。世界展開の本格化を前に、まずは組織の整理から着手した。

「LINE」の利用者数が1億人を突破し、握手するNHNジャパンの森川社長(左)と舛田執行役員(1月18日午後、東京都渋谷区)

2月6日、NHN Japanは、同社をゲーム事業の「Hangame(ハンゲーム、仮称)」とウェブサービス事業の「LINE(ライン、同)」に分割することを決めたと発表。LINE事業は後者、その名を冠した社名で再出発する。会社分割は4月1日に実施予定。両社とも森川社長が兼任する。急激に成長したLINE事業を独立させ、LINEブランドとして世界展開を進めた方がよいと判断した。

海外展開も日本の「ライン株式会社」が主導権

もともと、複雑でいびつな組織体系だった。LINEは、韓国ネット大手NHNの日本法人、ネイバージャパンが独自に開発し、始めた事業。成長している最中の2012年1月、同じく韓国NHNの日本法人で、ゲーム事業を手がけていたNHN Japanと、韓国NHNが買収した旧ライブドア、そしてネイバージャパンの3社が経営統合し、現在の形となった。

それ以降も、日本法人の独立性は保たれ、LINE事業も日本法人の独自判断で展開してきた。しかし、世界の成長市場に現地法人を設立するようなフェーズに入ると、矛盾が生じてくる。LINEは日本法人のものなのか、それともNHNの韓国本社のものなのか……。

整理した結果、日本の新会社であるラインと、韓国NHNが合弁で「LINE PLUS(ラインプラス)」という子会社を設立。この子会社がLINEの世界展開を担うという計画を立てた。出資比率はラインが6割、韓国NHNが4割。日本法人が主導権を握ることを明確にした。

ただし、韓国NHNで正式決定されるのは3月に入ってからの予定。日本法人は「現段階で、これ以上のことを話すことはできない」とし、その効果は未知数。世界展開に関して、社名変更や子会社設立ですべての課題が解決するわけでもない。

2人のキーパーソンが見据える世界戦略

特にLINEが入り込めていない米国と中国は、SNS(交流サイト)やスマートフォン(スマホ)向けコミュニケーションアプリの強豪がひしめく激戦区。新たな世界戦略の絵をどう描いているのか。次ページ以降、森川社長、そして、LINEの誕生からこれまで同事業を統括してきた舛田執行役員、2人のキーパーソンが語る(インタビューは1月末)。

―― 1億ユーザーを突破して、落ち着きましたか?

(森川)「社内的には通過点というか、ある程度1億は見えていたので、次のことに向かっている途中というか……」

(舛田)「やばい会社ですよね。わーっとなったあとで、すぐに淡々と業務に入りますからね」

当面は「日本ブランド」で

―― 2013年はLINEにとって本格的な世界進出の年だと意義付けた。NHNの韓国本社含め、組織として世界戦略をどう進めていくのか。

(森川)「まだ明確には決まっていない。けれども、ある程度、もうちょっと具体的にしていく。世界への広がり方は、より明確になるのかなと」

NHNジャパンの森川社長

「LINEはすでにグローバルサービスにはなってはいるけれど、グローバルカンパニーになっているかというと、我々は急激に成長しているので、なかなか難しいところがあってですね。ある程度、勢いに任せてざーっと進めていますので、そろそろ世界戦略の中でブランドの打ち出し方をどうすればいいのかについて、着手してもいい時期に入ったのかなと」

(舛田)「最終的には国籍は関係なく、無国籍ブランドとして使ってもらいたいんですね。日本ブランドが通じる国もあるし、通じない国もある。LINEというブランドを愛していただきたいので、どこの国だっていうのが感じられないくらいになった方がいい。ただ、当面は日本法人として出し続けますので、日本ブランドが立ってくるかなとは思います」

―― 日本法人として、上場する計画は?

(森川)「今のところないですね。必要ないから。資金調達面だと本社からの増資を受ければいい。あと、今上場しちゃうと、当然3カ月単位の報告が必要で、赤字でも……とはいえない。LINEの成功を考えた時には、むしろ上場しない方がいいかなと思います」

米国、中国は「より積極的に」

―― 「ようやく世界挑戦の切符を手に入れた」と話しました。今後の世界展開の青写真は?

(森川)「我々は、あまり明確に計画を立てない会社。今までは自然発生的に伸びた地域に、より集中するやり方で広がってきたんですけれど、英語圏、中国語圏の2つに関しては、自然発生を待つのではなく、より積極的にやっていこうと決めました」

(舛田)「2本線あるんですよね。まず、自然増するところに対して、さらに(利用者数を)乗せていく地域。スペインとか南米とかはそういうモードに入っている。ただ、自然増がいつ起こるか分からない国もある。それは米国であり、中国であり。こういったところに関しては、我々からもう少しプッシュして戦略を進めていくというのが、今年のモードですね」

NHNジャパンの森川社長

「ただ、まだ米国も中国も、準備をしている段階。どこまで現地のものを反映させるか、どういったところとアライアンス(提携)を組むのか、あとコンテンツも、日本と同じようなものを、そのまま水平展開でいけるのかとか。まだリサーチしている段階で、ここは慎重に手堅くやる。普通に行ってもはじき飛ばされるだけだと思いますから」

「中国は難しいところ。よく分かっている」

―― 中国は外資にとって特殊市場。政治的な参入障壁も高い。

(森川)「中国は一度、本社(韓国NHN)の方で参入して失敗した経験もあって、事情はよく理解している。2010年、中国企業と合弁で設立したゲームサイト『ourゲーム』を売却しているんですね。(中国のネット大手の)テンセントさんがゲーム事業を強化して、急激に伸びた中、法律面だとか外資への圧力とかいろいろあって、結果的に撤退したという経緯がある。だから、中国は難しいところだということはよく分かっている」

「ただ、ここまで来て、世界に出ていく中で、中国は非常に重要な拠点であるということは明確。どうアプローチするのかは、やりながら、考えていくしかないですね」

―― 北米市場については、何が課題だと捉えているか。

(舛田)「課題だらけですけどね。例えば、改善スピードの問題。我々はアジアにいる会社なので、アジアに向けてはチューニングが速い。ただ、米国に関していうと、米国の会社の方が米国の空気を感じていますから、やっぱり速いんですよね。アジャストできる確率も高い。そこは、まさに我々も『空気を感じる機能』を作らなければいけないので、米国法人という話が出てきているわけです(注:今春をめどに米ロサンゼルスに設立予定)」

「多様な人種にチャンスがある」

感情を現す絵文字「スタンプ」は、LINE人気の大きな要因

―― 特にアジア圏では、感情を端的に表す大きな絵文字「スタンプ」のヒットが大きかった。北米市場で、スタンプは通用するのか。

(舛田)「LINEはこれまで、すべてのステージで通用しないと言われ続けたサービス。国内においてもそうでしたし、日本以外では、アジア以外では通用しない、とずっと言われ続けてきた。でも今、結果としてアジアでもスペインのような欧州でも数字が出始めている」

「スタンプに関しても、例えば携帯電話文化の『絵文字』をリードしてきたアジア圏を見て、欧米がようやく追いついたのが数年前。いま、普通に絵文字を使えるようになっている。これが、スタンプでも起こるのかどうか。このままで通用するのか、ローカライズが必要なのか。キャラクター(絵柄)も『アメコミ』みたいなものにした方がいいのかどうか。まだまだ検証段階ですね」

(舛田)「ひとつチャンスがあるのは、(米国には)多様な人種がいるということ。画一的に米国文化があるわけではない。LINEはアジア圏で多くの方に使っていただけていますが、米国にもアジア圏の方がたくさんいらっしゃいます。スペインとか南米も伸びているけれど、米国にはスパニッシュの方も多い。そういった方々から(米国全体へと)浸透していく可能性はある」

米フェイスブック副社長が語るスマホ戦略

世界市場、特にカギを握る北米市場を攻めるうえで注視しなければならないのは、利用者数が世界10億人を超える米フェイスブックの存在。パソコン向けの実名SNSから始まったフェイスブックは、スマホなどモバイルのメッセンジャー機能を強化しており、スマホ向けメッセンジャーとして始まったLINEはSNS機能を強化している。両社は遅かれ早かれ、激突する。

米フェイスブックでマーケティング支援を担当するグレイディー・バーネット副社長

今年1月、フェイスブックはスマホ向けメッセンジャーアプリ「フェイスブック(FB)メッセンジャー」を大幅に強化。まずは録音した音声を送信できる「ボイスメール」機能を追加した。16日には米国向けiOS版アプリに無料通話機能を追加、LINEの一つの売りである無料通話のニーズを取り込もうとしている。

米フェイスブックでマーケティング支援を担当するグレイディー・バーネット副社長は昨年12月、FBメッセンジャーの優位性について、こう語った。「SNS業界も変遷が速いがメッセンジャーアプリも非常に変遷が速い。我々としても色々な機能を足している。重要視しているのはパソコンとモバイルでシームレスに使える点。簡単なメッセージでも深いやり取りでも使える」

LINEは企業向けの販売促進や「O2O(オンライン・ツー・オフライン)」分野の強化も始めている。この点においてバーネット副社長は「優位点は実名制。ユーザーのページを見たら、こういう商品が好きで、こういうブランドや店にいつも行きます、というような情報がそこにある。そういった属性は、店や企業からすると、お客様との関係性を強めるという意味で利用価値が高い。ターゲットに対して意味のある広告が打てるという点でも優位性が高い」

さて、LINEはどう挑もうとしているのか。

「古い優位性で生き残ったIT企業はあまりない」

―― FBメッセンジャーの動きが気になる。「無料通話」機能の追加など、スマホ向けメッセンジャーアプリ強化の影響をどう捉えているか。

(森川)「もちろんフェイスブックは利用者が多いので、そこからの流れでFBメッセンジャーを使う人もいるんですけれど、実際、社内で見ていると、LINEと使い分けをしている状況なんですよね。例えばインドネシアなどフェイスブックの人気が高い国でも、LINEを使っていただけている。FBメッセンジャーが無料通話を追加したというのは、社内的にもそんなに騒いでいない。それよりも、僕たちがLINEの価値を高め続けられるかどうかが重要かなと」

―― FBメッセンジャーは、パソコンとの連携や、実名制によるパーソナルデータが強みだとしている。LINEの価値とは何か。

(森川)「まずIT企業で、今までの優位性を打ち出して生き残ったところって、あまりいないんですよね。今までの優位性が強ければ強いほど、次のステージに対して新しい価値を提供しにくくなる。後者が価値を作って成功するというパターンが多いじゃないですか。マイクロソフトに対するグーグルとか、マイスペースに対するフェイスブックとか」

「最高のチームがそろっている」

「プロダクトというのは、そのものの価値が重要で、メッセンジャーアプリだったら、知り合いとより早く、伝えたい気持ちを伝えられることが一番の価値。単純にその価値だけでいうと、FBメッセンジャーよりはLINEの方が価値が高いと思うんですよね。僕たちはそこに特化して日々、磨き上げている。(社内の)ほかのサービスを度外視して、LINEというプロダクトを中心にプランニング、戦略、デザインを行っている」

「LINE」の利用者数が1億人を突破したことを示すスクリーンに手をかざす森川社長(左)と舛田執行役員(1月18日、東京都渋谷区)

「ほかにも、トラブルがあった時の対応のスピードであったりとか、何か変えた時にいろいろなご意見をいただいたらまた直すスピードだったりとかも速い。そこは最高のチームがそろっていて、24時間寝ずに何かあったら対応できる体制になっている」

「会社って、成功して大きくなると、偉い人たちが『おまえやれ』みたいな(官僚的な)雰囲気がどうしても出てきちゃうと思うんですけれど、LINEでは現状、1億超えても、現場のリーダーが年末年始の年越しを会社で迎えるという、ベンチャー的な雰囲気でやっています。じゃあ、根性だけなのか、といわれるとそれまでなんですけれど、そういうマインドって重要なんじゃないかと思うんですね。そこから生み出てくるものが、ちゃんと形になっている」

「あえて、経営本とは逆のことをやっている」

―― 最高のチーム、という話が出ましたが、どういうマネジメント体制なのか。

(森川)「あえて、経営本に書いてあることとは逆のことをやっている。もちろん優秀な人材がいてこそ、ですが。リスクマネジメントとかガバナンスとか、いろいろと難しい言葉があるじゃないですか。ユーザーの安全やセキュリティー、そしてクオリティー管理に関しては厳しくやることにしていますが、社員の人事管理的なものは、どんどんなくなってきている」

「優秀な人材は、管理しないほうがうまくいくと思うんですよね。ですから、かなりの放任主義。現場の人が一番大事なのは、会社でも上司でもなく、ユーザー。なので、ユーザーに集中するためには、評価の仕組みとか、決裁プロセスとか、決める会議とか、そういったムダなものをなるべく減らした方がいいんですよね。ユーザーのために必要なことを早く考えて早く実行できるよう、集中させてあげた方がいい。そうじゃないと、勝てない」

(舛田)「もう、いろんな国の人間が入ってきているので、行動原理、原則がシンプルでないと無理なんですよね。ヘンにプロセス化して、ヘンにシステム化しても、機能しない。それぞれがいろんなところで一線級でやっていた人間たちなので、それぞれのやり方がある。そうすると、よくあるフレームを当てはめるよりは、ゴールはどこで、行動原理はこれで、哲学はこれで、さあ、やろう、っていう方がうまくいく。実際、うまくいってきている」

「あとは、よく社内でもいうんですけれど、スタッフが何かやろうと思った時に、『モチベーションは自分で上げてくれ』と。『我々はモチベーションをマネジメントしないから』と。ただ、我々が唯一やるべきことは、みんながやりたいと思っていることへの判断を早くすること。ペンディングはさせない。その場その場で、毎日でも毎分でもいいから、我々は判断をし続けます」

「損益や黒字化は見ていない」

―― 現在の開発陣容や外国人比率は?

(森川)「80~100人。そのうち、8割くらいが日本人。残りが外国人ですが、外国人、日本人というよりは、全体としてちょっと変わった人が多い(笑)。外国人だけれど日本人ぽい人もいるし、日本人だけれど外国人ぽい人もいる。外国人かどうかを考えるより、とんがった人にどう成果を出してもらうか、暴れ馬をどう御するか、そういう感じですよね」

―― 月次でのLINE事業の単体黒字化は見えてきたのか。

(森川)「じつは、その数字、今はあまり見ていないんですよね。もちろん見ている人もいますけれど、その数字を作ることはあまり重要じゃなくて、今はグローバルでより規模を大きくしようと集中してやっている。PL(損益)に関して特に社内で共有しているわけではない」

「気にすることが多くなるほど本質的なものを見失っていくと思うんですよね。経営の教科書に書いてあることを全部やって成功できるかというと、それで成功した会社ってないと思うんです。どちらかというと、(収益を)捨てたうえで、一番重要なものをどれだけ拾えるのか。いま僕たちにはそういう恵まれた環境があるというのがすごくチャンスだと思っていて」

「(損益を気にしないなんていうと)普通は『経営者ばかやろう、ふざけるな』ってなる(笑)。でも、我々は違う。その環境がある会社って、たぶん日本には我々しかいないし、だからこそ本気でグローバルを狙えるのかなと。今は、とにかく現場の人に走ってもらって、それを何とか支えていくのが僕の役割なのかなと思っています」

破天荒な未来、日本から

1億人まで、サービス開始からわずか1年7カ月。ツイッターは49カ月、フェイスブックは54カ月かかった。かつて世界のどの企業も経験したことのない、破天荒なスピード感でLINEは走り続けている。グローバル化のプロセスも、その未来も、誰も想像のつかない破天荒なものになるに違いない。その未来が日本から創られることの意味は大きい。

(電子報道部 井上理、杉原梓)

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