走りのパワーのカギは骨盤、しなやかに動かそう - 日本経済新聞
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走りのパワーのカギは骨盤、しなやかに動かそう

ランニングインストラクター 斉藤太郎

犬や猫、チーターなど四足動物の走りを思い浮かべてください。後ろ脚の付け根にあたる骨盤を大きくしならせて走っています。骨盤からが脚だということがよくわかります。人間でも四足動物に似た状態があります。赤ちゃんのハイハイです。

赤ん坊の頃は無意識にできていたのに…

赤ちゃんは筋力が弱いので立てません。それでも必死に体幹と骨盤を動かし、脚を引きずるような形で前進します。こちらも骨盤からが脚なのだということがわかりますね。(写真1)

生まれて間もない時期には無意識にできていたこの体幹と骨盤の動き。ところが年齢を重ねるに伴って失われてしまいがちです。

座りっぱなし、荷物を背負って歩くなどの生活習慣から固まってしまい、体幹は使わずに体の先っぽの方でバランスを取りながら生活するようになるのです。

私たち大人の人間は、2本の脚で直立して歩くことも走ることもできます。垂直方向に立ってしまうと、どこが脚の付け根なのかが曖昧になりがちですが、四足でも二足でも骨盤が脚の付け根であることに変わりありません。

脚を振り子としてとらえると、そのスイング動作の支点は骨盤にあります。しかしながら、まな板のように硬くなった体幹により、骨盤の動きがロックされてしまっている方が多いのです。

硬い体幹で効率悪い走り、ダメージも蓄積

体幹に柔軟性が失われてしまうと骨盤は身動きが取れません。本来の付け根が固まったまま、大腿骨から先の脚だけで走ることになります。たくさんのエネルギーを使う割に進めない。

効率が悪いばかりでなく、ダメージが蓄積しやすくなります。骨盤の動きを活性化するには日ごろからの習慣が大切です。

骨盤まわりをほぐすのに有効なエクササイズを紹介しましょう。

動きはとてもシンプル。足を少し開いてまっすぐに立ち、骨盤左右を交互に上げ下げします。片足で体を支え、反対側の骨盤を上げ下げ。「右上げて・下げて」で「1・2」、「左上げて・下げて」で「3・4」。このリズムで20数えます。(写真2)

肩や骨盤まわりはリラックスして垂直ラインをキープ。極力骨盤だけを動かせるように気を付けます。仕事の休憩時間のほかに、ランニングの前、信号待ちや給水休憩の際に、上級者はインターバルやペース走といったポイント練習前に取り入れてみてください。

さびついた骨盤にオイルを差すような効果が期待できます。走っていて「楽に進む」、そんな変化を感じるはずです。

ほかにも、この連載のバックナンバー「忙しくて走れないときも…仕事合間にエクササイズ」で紹介した、スクワットや体側ストレッチも骨盤を活性化するエクササイズとして有効です。

背骨を軸に緩やかな回転運動

骨盤は1ピース構造ではなく、複数のパーツで形成されたものです。真ん中には仙骨と尾骨、左右にはそれぞれ腸骨があります。この左右の腸骨と中心の仙骨とをジョイントしている部分が仙腸関節です。(図A)

真ん中と左右の腸骨。大きく3つだとイメージして走りましょう。理想的なフォームでランニングをしている時には、小さい動きですがこの骨盤が緩やかなクランク運動をしています。

このメカニズムを身近にあるハンガーとヒモを使って確認できます。ハンガーが骨盤、その両端にくくりつけて下に垂らしたヒモを脚だと思ってください。

背骨を軸に骨盤(ハンガー)を少し回したり戻したりすることで、自然に脚(ヒモ)が前後に動いてくれます。脚の筋力に頼ることなく、体幹から生み出したエネルギーを脚へと伝達する走り方のイメージです。(写真3)

足先の力に頼って走ると疲れやすい。疲れがたまりケガすることもあります。末端から上へ上へと遡っていくと、エネルギーの根源である体幹に行き着きます。

体幹→骨盤クランク運動→脚運びという力の伝達。根源の動きは決して大きくはありませんが、そこから末端へと伝達されるに従い強く大きな動作に増幅されるのです。

釣りざおがしなったり、ムチを打つような動きをしたりするのと似ています。これが力を持続させて走るためのコツであり、ランニング中に骨盤の担う大きな役割です。

前傾保って脚運び滑らかに

骨盤は適度な前傾を保つよう心掛けましょう。横から見て背骨がSの字を描いている中で骨盤が前傾を保っているのが理想です。ところが生活習慣により1日の大半を骨盤が後傾した猫背姿勢で過ごすことが多くなりがちです。

そのまま姿勢がリセットされることなくランニングをすると、脚運びが抑制されてしまいます。特に腿(もも)が後ろ方向にスイングされにくくなります。

脚が後ろへスイングされたタイミングで、骨盤の前にある筋肉(腸腰筋)が引き伸ばされる。その張力を利用して脚は前に引っ張り出される。

筋肉が引っ張られては縮む、引っ張られては縮む。そんなゴムチューブのような運動を左右交互にすることで滑らかな脚運びは実現されるのです。

しかし骨盤が後傾してしまうことが原因でこのメカニズムは機能しなくなります。可動域が制限される中で、脚の付け根では縮こまった筋肉が小さい伸縮運動をひたすら強いられてしまうのです。

脚の付け根の動きが小さくなってしまうと、体幹よりも1つ末端側に離れた関節である膝関節に負担が来ます。膝から下の足先の力に頼って走ることになります。

ランニング終盤に腿や脹脛(ふくらはぎ)がパンパンになってしまうことが多い方は、こんなところに原因があるかもしれません。走る際にガラスに映る姿などを見て、自分のフォームと骨盤の動き方をチェックしてみてください。

日ごろからほぐす習慣を

骨盤が大切だと分かった途端に、あまりにも骨盤を動かしすぎて走る方がいます。意識を変えた途端に、急に大きく動かせるような部位ではありません。

走っている際に理屈で考え過ぎることはあまりおすすめできません。それよりも走る前や日常生活の中で、骨盤まわりをほぐしてあげる習慣をつけるようにしましょう。そうすることでランニング時には無意識のうちに骨盤が理想的な動きをしてくれるはずです。

<クールダウン>寒さ対策で硬い走りを防ぐ
 これから春先にかけて次第に寒さが緩んで走りやすくなってきます。とはいえ三寒四温で底冷えする日もあり、ランニング時の寒さ対策には気を付けたいものです。
 屋外運動中に体を冷やさないコツの一つは、体温と血液に注目すること。体を温めるのも冷やすのも血液が大きく関係しています。体温をいかに保ち続けて運動できるかが、パフォーマンスに関わってきます。
 体の末端や動脈が浮き出ている部位に冷たくて乾いた風が直に当たると一気に血液が冷却され、その血液が体中に循環するために体温を奪われてしまうのです。動きが硬直して本来の走りができません。
 具体的には首回り、手の甲、手首、肘、おなか、鼠蹊(そけい)部、膝まわり。手袋、ネックウオーマー、アームウオーマーなどで保護することが有効です。
 雨の中で走る際にはさらに保温性が必要です。ローションやクリームを塗ると、皮膚の上に被膜ができるために効果が上がります。まずは練習で様子をみてから、レースで使用するかどうか決めてみてください。
 ちなみに真夏の暑い中では逆で、同じ部位を冷やしながら走れるかどうかがポイントになります。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表の志水見千子選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、日本サッカー協会の委嘱を受け、レフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)など。

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